質問主意書

第164回国会(常会)

答弁書


答弁書第七五号

内閣参質一六四第七五号
  平成十八年六月二十日
内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 扇 千景 殿

参議院議員谷博之君提出戦没者の遺骨・遺体等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員谷博之君提出戦没者の遺骨・遺体等に関する質問に対する答弁書

一について

 御指摘の千鳥ヶ淵戦没者墓苑に納骨された三百九十八柱の遺骨の収集地域別の内訳は、旧ソビエト社会主義共和国連邦の地域百八十二柱、硫黄島地域三十五柱、フィリピン共和国十七柱、パラオ共和国三柱、インドネシア共和国百三十柱及びパプアニューギニア独立国三十一柱である。
 その三百九十八柱の遺骨は氏名不詳のものであることから遺族の手がかりがない遺骨であり、遺族が受取を断った遺骨はない。

二について

 遺骨の収集現場において、戦闘当時の状況、遺骨の状況及び遺留品の状況等を基に専門家が人類学的及び考古学的知見等を踏まえながら遺骨の鑑定を行っている。

三について

 御指摘の「過去に現地の住民とのトラブル」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、厚生労働省としては、これまで現地住民との間で問題があったとは承知していない。

四について

 一般に、厚生労働省が海外において遺骨収集を行うに当たっては、外務省を通じて、現地の政府及び地方公共団体に対して、収集現場において収集される遺骨に係る専門家の派遣の便宜供与を依頼しているところである。
 なお、遺骨鑑定に係る専門家の派遣に要する経費として、平成十八年度予算において三百三十万円を計上しているところである。

五について

 いわゆる南方地域からいまだ送還されていない戦没者の遺骨の情報収集事業については、委託契約先は未定である。事業内容としては、委託先において、いまだ送還されていない戦没者の遺骨に関する情報を広く国民に求めるとともに、遺骨情報の収集を専門に行うチームを南方地域に派遣し、現地での情報収集に努めることとしている。

六について

 中華人民共和国においては、先の大戦に係る同国の国民感情により、遺骨収集の実施が困難となっているが、昭和四十七年の国交正常化以降、同国での遺骨収集の実施申し入れを累次行っている。ウズベキスタン共和国においては、宗教上の理由から、遺骨収集の実施が困難となっているが、平成六年以降、同国での遺骨収集の実施申し入れを累次行ってきている。北朝鮮においては、国交がないことから、遺骨の収集は行っておらず、特段の働きかけを行ったことはない。ミャンマー連邦の一部の地域においては、治安上の理由で遺骨収集が制限されているが、特段の働きかけを行ったことはない。インドにおいては、これまで遺骨収集を行ってきたが、現在、現地治安情勢の悪化により遺骨収集が行えない状況にあるので、治安情勢の回復を待っているところであり、特段の働きかけを行っていないところである。

七について

 厚生労働省においては、厚生労働省設置法(平成十一年法律第九十七号)に基づき、旧陸海軍の残務の整理に関する事務等を所掌しているところである。
 総務省においては、総務省設置法(平成十一年法律第九十一号)に基づき、一般戦災死没者(今次の大戦による本邦における空襲その他の災害のため死亡した者をいう。)に対して追悼の意を表す事務に関することを所掌している。
 内閣府においては、戦没者の慰霊・追悼に関する事務を所掌していないところである。
 厚生労働省及び総務省においては、それぞれの所掌に応じて戦没者の慰霊・追悼に関する事務を実施しているところである。

八について

 厚生労働省においては、厚生労働省設置法及び「米国管理地域における戦没者の遺骨の送還慰霊等に関する件」(昭和二十七年十月二十三日閣議了解)に基づき、昭和二十七年六月十六日の衆議院海外同胞引揚及び遺家族援護に関する調査特別委員会における海外諸地域等に残存する戦没者遺骨の収集及び送還等に関する決議を踏まえ、戦没者の遺骨収集を行ってきているところである。厚生労働省においては必要な体制を整備して遺骨収集を行ってきているところであり、新しい組織を設けることは考えておらず、また、戦没者の遺骨収集に関する法案については、現時点では検討していない。

九について

 「「無名戦没者の墓」に関する件」(昭和二十八年十二月十一日閣議決定)においては「遺族に引き渡すことができない戦没者の遺骨を納めるため、国は「無名戦没者の墓」(仮称、以下「墓」という。)を建立する」こととされており、「墓」とは遺族に引き渡すことができない戦没者の遺骨を納める「無名戦没者の墓」のことを意味している。
 御指摘の小林厚生大臣の答弁における「墓」については、戦没者の遺骨を納めるための施設のことを意味している。

十について

 千鳥ヶ淵戦没者墓苑においては、「「無名戦没者の墓」に関する件」に基づき、「遺族に引き渡すことができない戦没者の遺骨を納める」こととしているところであり、遺骨を土中に葬っているものではない。

十一について

 墓地、埋葬等に関する法律(昭和二十三年法律第四十八号)第二条第六項において、「納骨堂」とは、他人の委託を受けて焼骨を収蔵するために、納骨堂として都道府県知事の許可を受けた施設をいうと定義されているところ、厚生労働省においては、市町村長(特別区の区長を含む。)が、他人の委託を受けないで、同法第九条第一項の規定に基づき火葬した死体の焼骨のみを収蔵する施設は、同法に規定する「納骨堂」には該当しないと考えている。

十二について

 千鳥ヶ淵戦没者墓苑は、「「無名戦没者の墓」に関する件」に基づき、遺族に引き渡すことができない戦没者の遺骨を納めるために建立された施設であり、遺骨を納める期間について特に定めてはいない。

十三について

 御指摘のように、追悼・平和祈念のための記念碑等施設の在り方を考える懇談会の報告書においては、国立墓地の必要性について提言はされておらず、現時点では、国立墓地の建設については検討していない。

十四について

 お尋ねの沖縄戦による行方不明者の数は把握していないところである。

十五について

 御指摘の沖縄県糸満市の「戦後から埋没したままと思われる埋没壕(軍構築含む)や不明壕」の所在についてその全ては承知はしていないが、厚生労働省においては、戦没者遺骨処理等諸費等の予算の中で、把握している糸満市の壕について遺骨の収集を実施してきているところであり、新たな具体的な情報が提供された場合には適切に対処してまいりたい。

十六について

 御指摘の「二○○六年一月から二月にかけて、沖縄県南城市(旧大里村)の四一五二部隊(重砲兵第七連隊)観測所跡」から発見された遺骨の身元確認等については、厚生労働省において、戦没者遺骨処理等諸費等の予算により、沖縄県の協力を得て、できるだけ早く調査に着手したいと考えている。

十七について

 御指摘の「十六で示した約三十体の遺体は「遺体」であって、決して「遺骨」ではない」の意味するところが明らかでないため、お答えすることは困難である。

十八について

 御指摘の「十六で示した観測所跡周辺に未開封壕」については、その内容が必ずしも明らかでないところであるが、厚生労働省としては、沖縄県からの情報提供により、沖縄県南城市(旧大里村)に三箇所の壕があることについては承知している。
 これら三箇所の壕のうち一箇所については、昭和五十八年二月に壕口確認調査を行ったが壕の入り口を確認できず、壕付近の道路が崩落する恐れもあったことから、遺骨収集は困難であると判断しており、他の二箇所の壕については、平成十五年においても遺骨収集を実施することに関して地権者の同意が得られていないため未処理となっている。
 今後、厚生労働省においては、沖縄県と協議しながら、これらの壕についても遺骨収集の可否について再度検討してまいりたい。
 なお、遺骨収集が可能となった場合には、厚生労働省の戦没者遺骨処理等諸費等の予算により遺骨収集を実施してまいりたい。