質問主意書

第164回国会(常会)

答弁書


答弁書第三三号

内閣参質一六四第三三号
  平成十八年三月十七日
内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 扇 千景 殿

参議院議員前川清成君提出高松塚古墳壁画保存等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員前川清成君提出高松塚古墳壁画保存等に関する質問に対する答弁書

一について

 高松塚古墳壁画(以下「壁画」という。)の保存方法については、昭和四十七年十二月十八日に文化庁に置かれた「高松塚古墳保存対策調査会」において、考古学、歴史学、美術史学、保存科学等の専門家によって検討した結果、壁画は歴史上、芸術上の価値が高く、発見当時の石室内の密閉された環境で現地で保存すること(以下「現地保存」という。)が適切であると判断されたことを踏まえ、文化庁において現地保存の方針を決定したものである。この保存方法については、当時、壁画の発見に伴う石室の開封によって石室内の温湿度の急激な変化、二酸化炭素濃度の上昇及びカビ等の微生物の繁殖等の状況が生じていることが指摘されており、文化庁としては、まずはこれらを安定させる等の対処が必要であったことから、石室内に与える環境変化を最小限に抑えることを最優先して保存方法を決定したものと考える。

二について

 文化庁においては、現地保存の方針を踏まえ、昭和五十一年度から昭和六十年度までの三次にわたる壁画の剥落の防止及びカビの処置等の保存措置を含め、発見当時から現在に至るまで継続的に点検・管理を行ってきている。壁画の状態については、点検日誌及び写真等により記録保存してきている。具体的な保存措置の経緯等については、文化庁のホームページに掲載している。また、これらに係る予算額は、昭和四十八年度は約二千九百万円、昭和四十九年度は約八百万円、昭和五十年度は約六千六百万円、昭和五十一年度は約六百万円、昭和五十二年度は約千二百万円、昭和五十三年度は約千万円、昭和五十四年度は約千万円、昭和五十五年度は約千万円、昭和五十六年度は約七百万円、昭和五十七年度は約六百万円、昭和五十八年度は約五百万円、昭和五十九年度は約五百万円、昭和六十年度は約五百万円、昭和六十一年度から平成十五年度までの各年度は約千万円、平成十六年度は約七千九百万円、平成十七年度は約一億八千五百万円である。

三の1について

 発見当時と比較すると、壁画のうち白虎を描いた線の薄れ、石室の西壁に描かれた女子群像の顔の部分の染み等が見られる状況である。これらについては、「国宝高松塚古墳壁画」(平成十六年文化庁監修。以下「平成十六年刊行の写真集」という。)及び文化庁のホームページに掲載している。

三の2について

 漆喰層の剥離、亀裂及び陥没については、昭和四十七年の石室の開封以前から長い年月をかけて進行したものと考えられる。壁面の汚れや線の薄れについては、石室の開封によって、長期にわたって安定していた石室内の環境を変化させたことが大きな原因であると考えられるが、原因のすべてについては十分に解明されていないところである。

三の3について

 壁画の劣化の主な原因は、カビ等の微生物による影響が大きいと考えているが、現時点においては、原因のすべてについて十分に解明されておらず、今後とも保存措置を講じつつ、その究明に努めることとしている。カビの発生については、壁画の発見直後から確認されており、石室の開封による環境の変化によるものと考えている。

三の4について

 カビの発生については、壁画の発見直後から確認されていたものであり、それ以降現在に至るまで滅菌処置等を継続して講じてきている。しかしながら、古墳周辺の温度が上昇したこと、微生物に薬剤に対する耐性が生じたこと等により、カビの発生を完全に抑制するには至っていない。平成十七年九月から緊急保存対策として墳丘部の冷却、日射及び雨水の浸入の防止等の措置を講じており、現時点においては、カビ等の微生物の繁殖は抑制されているが、これらの対策では、長期的に抑制することは困難であることが専門家から指摘されている。

三の5について

 カビの発生については、壁画の発見直後の昭和四十七年四月六日に文化庁に置かれた「高松塚応急保存対策調査会」(以下「応急調査会」という。)による現地調査が実施されており、同年七月二十九日に応急調査会から文化庁に対して菌の増加が顕著である旨の報告(以下「応急調査会の報告」という。)が行われている。

四の1について

 カビの発生を初めて公表した時期については、文化庁において保管されている資料からは、必ずしも明らかではないが、応急調査会の報告が「国宝高松塚古墳壁画―保存と修理―」(昭和六十二年文化庁刊行。以下「昭和六十二年刊行の報告書」という。)に収録され、公表されている。

四の2について

 文化庁は、カビの発生を当初から認識しており、それを踏まえた壁画の保存措置を講じてきたところである。壁画のうち白虎を描いた線の薄れについては、昭和五十六年一月の壁画の点検・管理の際に認識しており、保存措置を講じてきたところである。これらの保存措置については、昭和六十二年刊行の報告書及び文化庁のホームページに掲載している。

四の3について

 カビの発生の公表については、四の1についてで述べたとおりであるが、文化庁は、カビの発生を当初から認識しており、それを踏まえた壁画の保存措置を講じてきたところである。壁画の置かれている現状について平成十六年四月二十六日に文化庁に置かれた「国宝高松塚古墳壁画恒久保存対策検討会」(以下「検討会」という。)において多様な保存方法を検討した結果、石室を取り出し、壁画の修理及び保存措置を適切な施設で行うことを決定したものである。

五の1について

 壁画の状況については、遅くとも、平成十五年三月十二日に文化庁に置かれた「国宝高松塚古墳壁画緊急保存対策検討会」を開催する際に、文化庁文化財部美術学芸課から河合文化庁長官に説明している。
 また、平成十六年刊行の写真集は、壁画全体についてありのままの写真を公開することにより、広く壁画の状況について国民の理解を得ることを目的として刊行したものであり、御指摘の記述を含む「序言」については、全体としては、壁画の保存事業は厳しい環境の下で壁画の保存・管理を行うことが前例のない困難な作業であることを述べる趣旨であったものと承知している。

五の2について

 壁画の状況については、昭和六十二年刊行の報告書、平成九年における現状写真の公開、平成十六年刊行の写真集等によって明らかにしている。また、壁画に関する発見当時から現在までのすべての保存措置の経緯等については、平成十六年八月に公開で開催された検討会において、関係資料を配布するとともに、文化庁のホームページにおいて同資料を掲載している。今後、情報公開については、より一層適切な対応に努めてまいりたいと考えている。

五の3について

 壁画の劣化の原因は特定されていないため、その責任については現段階では明確に判断することはできない。しかしながら、文化庁としては、結果として壁画の劣化を招いた事実については厳粛に受け止めている。

六の1について

 平成十七年六月に開催された検討会において、恒久的な保存の方法として、石室を取り出し、壁画の修理及び保存措置を適切な施設で行うことを決定した。平成十九年二月には石室を取り出す作業を行うことを予定しており、平成十八年度予算案に当該作業に関する経費として約七億円を計上している。

六の2について

 壁画の修理及び保存措置を行う期間は、修理の状況等に応じて変化し得るものであるが、現在の文化財の保存修理技術や通常の場合の修理期間等を踏まえ、現時点では十年程度かかるものと予測されている。当該期間中に壁画の修理及び保存を行う施設では、温湿度調整を始め、適切な環境を確保した上で修理等を行うことを予定している。

六の3について

 文化庁においては、石室の取り出しに関する実験を繰り返し行い、より安全で確実な作業の実施に向けて準備をしているところである。また、壁画の修理及び保存措置については、キトラ古墳等で培った修理技術等を活用することを予定している。

六の4について

 キトラ古墳については、漆喰が石材から剥離した部分があることから、専門家による慎重な検討の結果を踏まえ、平成十六年九月に、壁画を剥ぎ取った上で修理及び保存を行う方針を決定し、現在剥ぎ取り作業を進めているところである。一方、高松塚古墳については、漆喰の状態が悪く、壁画を剥ぎ取ることが極めて困難であることが判明しており、検討会において多様な保存方法を検討した結果、石室を取り出し、壁画の修理及び保存措置を適切な施設で行うことを決定したものである。

六の5について

 カビ等の微生物の繁殖を抑制することを目的として、平成十七年九月から、墳丘部の冷却、日射及び雨水の浸入の防止等の措置を講じているが、これらの対策によっても、長期的に抑制することは困難であると考えている。

六の6について

 高松塚古墳については、壁画を有する終末期古墳として、我が国において他に類例を見ない古墳であることから特別史跡に指定するとともに、壁画は国宝に指定している。
 石室の取り出しについては、現状のまま現地で壁画の修理及び保存を行うことが極めて困難であり、やむを得ないものと考えている。

七について

 壁画の修理後の取扱いについては、カビ等の微生物の影響を受けない環境を確保した上で、石室を現地に戻すこととしているが、具体的には、公開することも含め、今後検討が必要となると考えている。