質問主意書

第164回国会(常会)

質問主意書


質問第七五号

戦没者の遺骨・遺体等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十八年六月十二日

谷 博之   


       参議院議長 扇 千景 殿



   戦没者の遺骨・遺体等に関する質問主意書

 戦後六十一年を経ているにもかかわらず、海外戦没者概数二百四十万人のうち、未だに海外から未帰還の遺骨が約百十六万柱も存在している。
 国は民間団体との協力の下、一九五二年から五十三年間の遺骨収集事業に総額七十六億円の国費を投じ、ようやく約三十一万柱の遺骨を収集してきたが、このままのスピードでは単純に計算するとすべて収集するのに百九十八年もかかることになる。また、遺骨の収集時の取扱いや帰還後の取扱いについても、さまざまな問題が提起されている。
 さらに、国内においても沖縄県では多くの行方不明者が存在し、最近でも当時のものと思われる遺体が発見されている。
 そこで、以下質問する。

一 本年五月二九日、千鳥ヶ淵戦没者墓苑拝礼式が行われ、氏名不詳の戦没者の遺骨三百九十八柱が同墓苑に納骨された。これら三百九十八柱の収集国又は収集地域別内訳数を明らかにされたい。また、これらの遺骨のうち、厚生労働省内の霊安所において一定の時間がたっても遺族の手がかりのない遺骨と、遺族が受け取りを断った遺骨の内訳数を示されたい。

二 一部の週刊誌(「週刊文春」本年六月一日号)に、フィリピンにおいて安易な遺骨の選別が行われているとの指摘がある。現地において、日本人・朝鮮人・台湾人の区別、フィリピン人あるいは米国人の遺骨の区別は、実際にどのような方法で行われているのか。

三 遺骨収集に際し、過去に現地の住民とのトラブルにはどのようなものがあったか。収集開始当初までさかのぼることが困難であれば、過去二十年間に把握しているトラブルについて示されたい。

四 遺骨収集に関して、現地の政府、地方行政府及び研究機関並びに民間団体及び研究者には具体的にどのような協力要請を行っているのか。また、そのための予算は今年度どれだけ計上されているのか。

五 今年度予算に計上された「海外未送還遺骨の集中的な情報収集事業二千九百万円」について、本年二月二四日に問い合わせた段階では、「現在、その具体的方策を検討中」との回答であった。具体的にどの民間団体に事業委託して、どこで何を行うのか。委託先団体ごとに委託費、委託する事業内容及び実施計画について明らかにされたい。

六 本年二月二四日に問い合わせた際、「相手国の事情により遺骨収集が実施できない国・地域については、外務省を通じて当該国の実情の把握に努め、協力を要請する」との回答があった。この「相手国の事情により遺骨収集が実施できない国・地域」とは具体的にどこか、該当国・地域それぞれの理由と併せて明らかにされたい。また、外務省はこれまで、これらの国・地域それぞれに対し、いつ、どの場でどのような内容の働きかけを行ってきたのか。

七 戦没者の慰霊・追悼を所管する国の責任官庁は、厚生労働省、総務省、内閣府のいずれであるのか。共同して所管しているのであれば、それぞれの責任分担を明らかにされたい。また、所管ないし責任分担を規定した法的根拠はあるか。

八 厚生労働省が遺骨収集を行っている法的根拠を具体的に示されたい。また、なぜ更に人員を増やし、内閣総理大臣直属の対策本部を設置して、国をあげて取り組まないのか、その理由を示されたい。
 さらに、かねてより遺骨収集の基本方針をきちんと確立し、必要な法整備をすべきだとの声が強いが、現時点においても必要とは考えていないのか。

九 一九五三年一二月一一日に閣議決定された『「無名戦没者の墓」に関する件』に基づき、国が建立した「墓」である千鳥ヶ淵戦没者墓苑について、一九五六年一二月一二日の参議院社会労働委員会では小林厚生大臣が「厳密な意味の墓と考えている」旨答弁している。また、一九七五年五月二九日の参議院内閣委員会では、環境庁の新谷自然保護局企画調整課長が「英米等の無名戦士の墓のように全戦没者を象徴して、一ないし数体の遺体を納めたものとは趣旨を異にしている。」旨答弁している。
 『「無名戦没者の墓」に関する件』の閣議決定における「墓」及び小林厚生大臣の答弁における「墓」の定義は何か。広辞苑では「死者の遺骸や遺骨を葬った所」であり、大辞泉では「遺体・遺骨を埋葬した場所」となっているが、これ以外の定義であるなら、それを示されたい。

十 二〇〇三年七月一七日の参議院環境委員会における新島厚生労働大臣官房審議官の答弁(以下「新島審議官の答弁」という。)では、千鳥ヶ淵戦没者墓苑は「遺骨を納めるための国の施設」であり、「遺骨を土中に葬るのではない」としている。一方、広辞苑は「葬る」の定義は「死体や遺骨を墓所などにおさめる」としているように、一般常識では「遺骨を納める」とは「葬る」と同義と考えられる。千鳥ヶ淵戦没者墓苑では、遺骨を葬っているのか、それとも葬っていないのか明確に示されたい。

十一 新島審議官の答弁では、千鳥ヶ淵戦没者墓苑の納骨室は「墓地、埋葬等に関する法律」(以下「墓地埋葬法」という。)上の「納骨堂」と違って、他人の委託を受けていないという。それでは、市町村等が、墓地埋葬法第九条の対象となった焼骨だけを収蔵する施設は、墓地埋葬法上の納骨堂に当たらず、したがって墓地埋葬法上の規制を受けないと理解してよいか。

十二 千鳥ヶ淵戦没者墓苑の納骨室は、国に殉じた無名戦没者ないしは身元がわかっても遺族の事情で引き渡し先のない戦没者が永眠する場所と理解してよいか。つまり、どこか別の場所に移すまで一時的に遺骨を保管しているのではなく、半永久的に納骨する場所なのか。

十三 「追悼・平和祈念のための記念碑等施設の在り方を考える懇談会」の二〇〇二年一二月二四日の報告書には、異国の地で国に殉じた無名戦没者の永眠の場所という観点からの国立墓地の必要性については一切触れていないが、国に殉じた無名戦没者が永眠する場所として国立墓地を建設するべきではないか。

十四 沖縄戦による行方不明者は現時点で何人か。

十五 沖縄県糸満市史によると、沖縄県糸満市には戦後から埋没したままと思われる埋没壕(軍構築含む)や不明壕が百五十か所以上存在する。そこには多くの戦没者が遺体として放置されたままだと思われる。
 これらの壕の捜索、遺体の回収、身元の特定、遺族への引き渡し、そして引き取り手の見つからない遺体の埋葬、供養及び壕の処分については、すべて国に責任があり、民間団体のボランティア活動に任せずに、国が率先して取り組むべきと理解しているが、それでよいか。そうであれば、どこの省庁が担当して、どの予算で、どのような計画でいつから取り組むつもりか。

十六 二〇〇六年一月から二月にかけて、沖縄県南城市(旧大里村)の四一五二部隊(重砲兵第七連隊)観測所跡から、戦没者のものと思われる約三十体の遺体と遺品等が発見された。これらの遺体と遺品についての身元の特定、遺族への引き渡し、引き取り手の見つからない遺体の埋葬等は、どこの省庁が担当して、どの予算でどのような計画でいつから取り組むのか。

十七 十六で示した約三十体の遺体は「遺体」であって、決して「遺骨」ではないと認識するが、それでよろしいか。もし「遺体」ではないというならば、その根拠を示されたい。

十八 政府は、十六で示した観測所跡周辺に未開封壕が存在することを承知しているか。また、これらの壕の捜索等について、どの省庁が担当して、どの予算でどのような計画でいつから取り組むのか。

  右質問する。