質問主意書

第164回国会(常会)

質問主意書


質問第三二号

貸金業規制法に基づく消費者金融業者に対する行政指導、行政処分等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十八年三月八日

前川 清成   


       参議院議長 扇 千景 殿



   貸金業規制法に基づく消費者金融業者に対する行政指導、行政処分等に関する質問主意書

 自己破産件数が二一万件を超え、経済苦を理由とする自殺者数が八〇〇〇名に達する等、いわゆる「サラ金苦」が消費者の健全な暮らしを蝕む状況が継続している。
 違法、不当な取立を根絶するために貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業規制法」という。)が制定され、金融庁に監督権限が付与されているものの、金融庁が国民からの負託に十分に応えているか、疑問である。
 そこで、以下のとおり質問する。

一 貸金業者に対する苦情・相談・行政処分等について

1 過去五年間、金融庁及び各地の財務局並びに都道府県に対して、貸金業に関する苦情、相談等は何件寄せられているか。その件数と、苦情の種類を明らかにされたい。また、これらの苦情、相談に基づく行政処分の件数と、その内容を明らかにされたい。
2 苦情、相談等の件数に比して、行政処分の件数が極端に少ないと聞き及ぶが、その理由は何か。
3 行政処分が極端に少ない理由として、金融庁や財務局等「監督する側」と、いわゆる「サラ金」と呼ばれる消費者金融(以下「サラ金」という。)、カード会社、貸金業協会、クレジットカウンセリング協会等「監督される側」との癒着はないか。
4 過去五年間、3で示した「監督する側」から「監督される側」への、いわゆる「天下り」はあるか。天下りがある場合、どこからどこへ何名就職して、どのような待遇(給与、退職金等)を受けているのか、年度別に明らかにされたい。
5 3で示した「監督する側」と「監督される側」との間で、例えば「意見交換会」等と称して、「監督する側」が「監督される側」から国家公務員倫理法で認められる範囲を超えた饗応接待を受けていないか。

二 貸金業者の登録取消し等について

1 貸金業規制法第三七条第一項第六号にいう「前条各号のいずれかに該当し情状が特に重いとき」について、いかなる基準で適用しているか。
2 貸金業者ないしその従業員が取立行為に際して、債務者に対して、暴行、脅迫を加えた場合、貸金業規制法第三七条第一項第六号にいう「前条各号のいずれかに該当し情状が特に重いとき」に該当するか。
3 大阪高等裁判所の平成一一年一〇月二六日言い渡しの判決は、アイフル株式会社(以下「アイフル」という。)の従業員が、取立に際して、債務者に暴行を加えたことを認定した上で、アイフルに対して三五万円の損害賠償を命じた。アイフルはこの判決を不服として上告することもなく、よって同判決は確定した。しかし、近畿財務局は、この判決の写を添えた申告書を受理しておりながら、未だこの暴行事件に関して、アイフルに対し何らの行政処分も科していない。
 なぜ取立に際して債務者に暴行を加えるという、明らかな不法行為が行われ、しかも裁判所も暴行を認定しているにもかかわらず、アイフルに対して、登録の取消し、業務の停止等の行政処分が行われないのか。
4 アイフルのこのような不法行為に対して行政処分が行われないのであれば、どのようなケースにおいて、登録の取消し、業務の停止等の行政処分が行われているのか。
5 貸金業規制法第二一条第一項にいう「威迫」あるいは「私生活若しくは業務の平穏を害するような言動」の中に、犯罪行為や民法上の不法行為は当然には包括されないのか。仮に当然には包括されないとして運用している場合、金融庁における判断基準を明らかにされたい。

三 貸金業者の取引履歴の開示について

1 最高裁判所の判決によって、貸金業者は取引履歴を開示すべき法的義務を負っていることが確定しており、金融庁の事務ガイドライン三-二-八においては、取引履歴開示の手順を示している。仮に貸金業者が取引履歴を開示しない場合、どのような行政指導、行政処分を行っているか。
2 サラ金が虚偽の取引履歴を開示した場合、どのような行政処分を行っているか。過去五年間の、虚偽の取引履歴開示を理由とする行政処分の件数と、その内容を明らかにされたい。
3 商法第三六条第一項は、商業帳簿につき一〇年間の保存義務を課しているにもかかわらず、サラ金においては、自ら勝手に制定した「内規」で保存期間を定めた上、「既に保存期間を経過したので、廃棄している」等と述べて、取引当初に遡及した取引履歴開示を拒み、もって利息制限法超過部分の過払い金返還義務を逃れようと企てている事例が散見される。
 しかし、利息制限法を超過して違法な金利を徴求していた場合、遡る期間が長ければ長いほど、サラ金が返還すべき過払い金も増える。よって、サラ金独自の「内規」による取引履歴開示拒絶は、実質的には虚偽の取引履歴開示に等しく、1で述べた最高裁判所判決の潜脱にほかならない。
 ついては、「内規」を理由に取引履歴開示義務を怠るサラ金に対して、どのような行政指導、行政処分を行っているか、明らかにされたい。
4 貸金業規制法第一九条は、期間の制限を置くことなく、貸金業者に対して帳簿の保存義務を課しているが、貸金業規制法施行規則第一七条第一項は、保存の期間を、当該債務の消滅した日から「少なくとも三年」に限定している。
 (一) 他方で、前述のとおり、商法は、商業帳簿につき一〇年間の保存義務を課している。貸金業規制法施行規則と商法との整合性に問題はないか。
 (二) 保存期間三年間の始期は、最終弁済によって当該債務が消滅した日である。ところが、サラ金は、取引日から三年が経過したことをもって、この規定を理由に帳簿の不存在を主張することが多い。この点、金融庁にあっては、この規定の正しい趣旨を指導、説明しているか。
 (三) 金融庁が正しく指導、説明しているのであれば、サラ金による、取引日から三年が経過していることを理由とする帳簿不存在の主張は、明らかな貸金業規制法第一九条違反であり、よって同法第三六条第一号に基づいて業務停止を命ずるべき事例に該当する。金融庁はこのような場合に行政処分を行っているか。仮に行っていない場合は、その理由を明らかにされたい。
5 最近、貸金業者による虚偽の履歴開示が頻発している。
 (一) アコム株式会社(以下「アコム」という。)は、取引履歴開示に当たって虚偽の計算書を提出していたことを自認し、公式に謝罪している。しかし、件数、相違額ともに莫大であることに照らせば、アコムは組織的に消費者(債務者であるが、既に過払いに達している場合は債権者となる。)に対してウソの説明を続けていたと判断せざるを得ない。かかるアコムの虚偽計算書提出事件に関して、金融庁はいかなる行政処分を科したか。
 (二) アコムは虚偽の計算書を提示することによって、虚偽の事実を告知し、消費者をして錯誤に陥らせ、その錯誤に基づく弁済によって違法な利益を得ようとしたのであるから、まさに詐欺罪の実行行為に着手したと判断できる。警察当局においては、この虚偽回答について詐欺罪を理由に刑事事件として立件する予定はあるか。万一立件予定がない場合、なぜ立件しないか併せて明らかにされたい。
 (三) アコム同様の事件を自認している株式会社ライフに対する金融庁及び警察当局の対応について、同様に明らかにされたい。
 (四) 新聞報道(平成一七年一二月三日・朝日新聞夕刊等)によると、株式会社オーエムシーカードは、債務者からの取引履歴開示要求に当たって、虚偽の融資残高(水増しした残高)を開示したことを訴訟上自白し、損害賠償請求を認諾したという。同社に対する、金融庁及び警察当局の対応はいかがか。
 (五) 大半の消費者は取引当初からの取引明細書等を保存していない。それゆえに、三の1記載のとおり最高裁判所も判示している。よって、サラ金が虚偽の取引履歴を開示したならば、大抵の場合、消費者は容易に騙されてしまう。それ故、まさに頂門の一針として、かかる虚偽回答は厳しく処断されなければならないはずである。これら三件の個別事件に対する対応に併せて、虚偽回答に対する金融庁及び警察当局の基本的指針も明らかにされたい。

四 特定調停の活用について

 特定調停の新受件数が平成一五年度の五三万七〇一五件から、平成一六年度は三八万一四三三件に激減している。この激減の理由に関して、ある訴訟関係者から「過払い金返還請求権が認められる場合であっても、特定調停ではサラ金が協力しないので、債務者が利用しなくなった」と説明を受けたが、そうであるならば、金融庁が最高裁判所と協力して、サラ金に「協力」を促すべきではないか。
 また、具体的に、特定調停において、サラ金が、取引履歴の開示を拒絶したとき、利息制限法に基づく引き直し計算を拒絶したとき及び過払い金の返還に応じないときのそれぞれに関して、金融庁に相談、苦情が寄せられた場合、金融庁ないし各地の財務局はどのように対応しているか。法律上の根拠も示した上で明らかにされたい。

  右質問する。