質問主意書

第163回国会(特別会)

質問主意書


質問第一九号

タクシー業界の過当競争とタクシー運転者の過酷な労働実態に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十七年十月二十七日

小林 美恵子   


       参議院議長 扇 千景 殿



   タクシー業界の過当競争とタクシー運転者の過酷な労働実態に関する質問主意書

 二〇〇二年二月のタクシー規制緩和以来、三年八か月が経過した。この間、「大阪タクシー戦争」にみられるように、新規参入と大量増車、四〇種類にも拡大した料金体系など、行き過ぎた過当競争が横行している。
 九月一七日のNHK番組『タクシードライバーは眠れない』では、その悪影響として、タクシー事故の増加のほか、タクシー運転手の収入減について具体的にリポートされている。それによると、運転手の平均年齢は五五歳で、リストラ、廃業で職を失った人が多く、平均年収は二八〇万円しかない。そのうえ、料金値下げを長時間勤務で補い疲労するなど、労働条件の悪化と事故の増加との悪循環となっている。
 タクシー・ハイヤー労働者で組織されている全国自動車交通労働組合総連合会(自交総連)の調べでは、二〇〇四年度タクシー運転者の年間賃金・労働時間・時間当たり賃金のすべてにおいて、過酷な実態に陥っていることが判明している。年間賃金はピーク時の三割減(大阪は四割減)、労働時間は一六時間増(大阪は一三二時間増)、時間当たり賃金では二三・六%減(大阪は三一・九%減)となっている。しかも、生活保護基準を下回る賃金水準が随所で発生しており、地域最低賃金違反も多発する異常事態であるとしている。
 タクシー業界は、その経費の八割近くが総人件費によって占められている産業であり、その事業者とタクシー労働者は、公共交通機関としての自覚に立って、利用者・庶民の足を確保し発展させるために、努力してきた。そして、今後とも一層の努力を傾注することは当然である。いま必要なことは、破滅的競争の激化をあおることでも、この業界の根幹とも言える安全・安心に逆行する規制緩和策を強めることでもない。いま、やるべきは、秩序ある発展をめざすタクシー交通政策をこそ、政府の責任で確立すべきである。
 タクシーが公共交通機関としての役割を担い、安心・安全の確保を第一として国民の信頼を確立することが、いま求められていることを強調して、以下質問する。

一 全産業労働者及びタクシー運転者それぞれの年間賃金、年間労働時間及び時間当たり賃金について、最近一〇年間の推移を都道府県別に示されたい。なお、タクシー運転者については、統計分類上可能であればハイヤー運転者を除いた値を示されたい。

二 タクシー運賃及び料金については、大阪の例に見られるように、二〇〇二年二月から実施された需給調整規制の廃止以降、行き過ぎた値下げ競争を招き、その結果としてタクシー運転者の年収及び時間当たり賃金が著しく低下している。政府はこの実態をどのように把握しているか。
 また、富樫練三議員外六名が二〇〇四年六月一五日に提出した「タクシー事業の現状改善等に関する質問主意書」に対する同年七月六日付け政府答弁書では、「引き続き、タクシー事業者に対する監督指導等を行ってまいりたい」との見解を示しているが、具体的にどのような監督指導を行ってきたか、また、行おうとしているか。

三 タクシー輸送の安全・安心を担保する方策として、労働条件を改善することが不可欠であるが、その方策として、供給過剰状態のタクシー車両を大幅減車し、運賃も適正水準に見直さなければならないと考えるが、いかがか。また、見直しをすると仮定した場合、どんな手法が考えられるか、見解を示されたい。

四 大阪タクシー業界においては、いわゆる「企業内個人タクシー」と称する法人タクシー事業所が増加してきている。
 「企業内個人タクシー」とは、タクシー車両や営業諸経費等に関して、会社と運転者個人との間でリース契約を結ぶものである。その労働実態は、本来管理しなければならない事業者が管理せず、法律で定められている始業点呼さえ行わずに、営業を開始する時に事業所で表示灯(あんどん)を受け取り、それを装着して営業する。労働時間は運転者個人の自由裁量に任せ、好きな時間帯で営業させている。そのうえ、タクシー車両を通勤に使用し、自宅に持ち帰り自宅車庫に格納している。社会保険料や雇用保険料等の事業主負担分を運転者個人が支払っているだけでなく、自動車保険、各種分担金、車庫代、燃料代、事故に係わる一切の経費など、本来事業者が払わなければならない経費を運転者個人が支払っている。さらに、消費税については運転者が個人事業主として申告し、事業者が納付していない等の実態があるとも聞き及んでいる。
 以上のような営業実態が事実とすれば、この「企業内個人タクシー」は、明らかに道路運送法第三三条違反ではないのか。また、旅客自動車運送事業運輸規則、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)、労働基準法、労災保険法、雇用保険法等には抵触しないのか。こうした法令違反をこのまま放置するなら、交通運輸行政に重大な禍根を残すことになり、「安全・安心」が崩壊することになる。よって、関係諸法令に照らした政府の見解を示されたい。

五 政府は、規制緩和以来三年八か月経過した現時点において、新規参入、大量増車、運賃値下げ等の過当競争による影響について、地域を特定した特別の調査を行うべきである。その際、タクシー運転者の賃金・労働時間など労働環境の変化はもとより、タクシー事故件数の推移など安全面についての変化、利用者の意識変化については利便性などに着目した調査など、総合的な実態調査を行うべきであると考えるが、いかがか。

六 タクシー台数規制の廃止による労働条件の悪化や輸送の安心・安全に係わる不測の事態に対する有効な防止策として、「タクシー運転免許の法制化」について、自交総連から提案され広く公表されているところである。この提案は、タクシー運転者の法的地位を確立し、その人材養成と資質のチェックを通じて、タクシーシステムに良質な人材を確保することを目的とし、その結果として、タクシーの安心・安全を確保し、ひいては国民の福祉増進に寄与することとなるとしている。こうした法制化提案について、政府はいかなる見解を持っているのか示されたい。

  右質問する。