質問主意書

第162回国会(常会)

答弁書


答弁書第三四号

内閣参質一六二第三四号
  平成十七年七月一日
内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 扇 千景 殿

参議院議員白眞勲君提出北朝鮮貨客船「万景峰九二」号に対する政府の対応等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員白眞勲君提出北朝鮮貨客船「万景峰九二」号に対する政府の対応等に関する質問に対する答弁書

一の1について

 万景峰九二号の船舶及び積荷についての検査は、財務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省及び国土交通省が相互に連携しながら実施している。
 財務省においては、万景峰九二号の入出港の都度、関税法(昭和二十九年法律第六十一号)第百五条の規定に基づき、入港時には二十名程度の税関職員による一時間から二時間に及ぶ船内検査を、出港時には三名程度の税関職員による三十分から一時間に及ぶ船内検査を実施している。また、輸出入貨物については、エックス線検査装置等による検査を実施しているが、検査に要する人数や時間は、貨物量等により異なっている。
 厚生労働省においては、検疫法(昭和二十六年法律第二百一号)第四条等の規定に基づき、新潟検疫所の検疫官が、検疫感染症が国内に侵入するおそれがあるか否かをファクシミリにより審査する無線検疫を十五分程度実施している。また、輸入食品等に係る検査については、食品等の輸入の主要届出先である新潟検疫所において、通常は食品衛生監視員二名の体制で、食品衛生法(昭和二十二年法律第二百三十三号)第二十八条の規定に基づき、倉庫等に搬入された食品等の現物確認及び理化学的、微生物学的その他の検査に供するための食品の収去を実施しており、現物確認及び収去に要する時間は、三十分程度である。検査は、収去した食品が送付される横浜検疫所輸入食品・検疫検査センター、成田空港検疫所検査課及び東京検疫所検査課において実施している。検査に要する時間は、添加物、微生物等の検査項目によって異なっている。
 農林水産省においては、万景峰九二号の積荷のうち、家畜伝染病予防法(昭和二十六年法律第百六十六号。以下「家伝法」という。)第三十七条第一項に規定する指定検疫物について、家伝法第四十条及び第四十一条の規定に基づき、動物検疫所新潟空港出張所の家畜防疫官が目視により輸入検査を実施している。検査に従事する人数は平均で二名、検査に要した時間は平均で五十五分である。
 また、当該積荷のうち、植物については、植物防疫法(昭和二十五年法律第百五十一号)第八条の規定に基づき、横浜植物防疫所新潟支所の植物防疫官が目視により輸入検査を行っている。検査に従事する人数は平均で三名、検査に要した時間は平均で五十五分である。
 経済産業省においては、安全保障上の観点から貨物の輸出を規制しており、万景峰九二号の積荷について、外国為替及び外国貿易法(昭和二十四年法律第二百二十八号)第四十八条第一項の規定に基づく許可の要否を確認するため、平均で二名の専門職員を平均で五時間派遣している。
 国土交通省においては、北陸信越運輸局の外国船舶監督官が、船舶安全法(昭和八年法律第十一号)第十二条等の規定に基づき、ポートステートコントロールという航行の安全及び海洋環境の保全の観点からの船舶の構造、設備等に関する国際条約への適合性についての立入検査(以下「PSC」という。)を実施しており、これに従事する人数は平均で十三名、検査に要した時間は平均で六時間五十分である。
 また、海上保安庁においては、万景峰九二号の入出港の都度、法令違反の有無について確認するため、入港時には二十名程度から四十名程度までの規模で一時間から二時間に及ぶ立入検査を、また、出港時には五名程度から十名程度までの規模で三十分から一時間に及ぶ立入検査をそれぞれ実施している。
 各省が実施しているこれらの検査については、各法律の規定に基づき適切に実施されていることから、当面、現在の検査体制で十分であると認識しているところであるが、今後とも適切に対処してまいりたい。

一の2について

 平成十四年九月から現在までの間、法律上問題のあった事例は、次のとおりである。
 厚生労働省においては、万景峰九二号が平成十四年九月四日及び平成十五年十二月三日に入港した際の積荷から、それぞれ食品衛生法第十一条第一項の規定に基づく基準又は規格に適合しない食品を確認したことから、食品衛生法違反通知書を交付するとともに、積戻し又は廃棄を指示し、その結果、当該食品については、それぞれ全量廃棄、全量積戻しが行われた。
 農林水産省においては、万景峰九二号が平成十五年八月二十五日に入港した際の積荷から、家伝法第三十六条第一項第一号の規定に基づき輸入が禁止される禁止品を確認したことから、当該禁止品の焼却又は返送を指示し、その結果、当該禁止品については、全量返送された。
 また、同年十一月十八日に入港した際の積荷から、植物防疫法第五条の二第一項に規定する検疫有害動植物が付着した植物を確認したことから、植物防疫法第九条第一項の規定に基づき、当該植物の消毒を命じ、その結果、消毒が行われた。
 国土交通省においては、万景峰九二号が平成十五年八月二十五日に入港した際にPSCを実施し、船舶安全法第二条第一項又は海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律等の一部を改正する法律(平成十六年法律第三十六号)による改正前の海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律(昭和四十五年法律第百三十六号。以下「旧海防法」という。)第五条第一項の規定に適合しない設備のうち、航行の安全及び海洋環境の保全に対して重大な危険を及ぼすおそれがあるものについて、船舶安全法第十二条及び旧海防法第十七条の十七の規定に基づき是正を命じ、出港前及び同年九月四日の次の入港時に是正を確認した。
 また、平成十五年八月二十五日、平成十六年四月二十六日、同年七月十四日及び平成十七年五月十八日に入港した際のPSCでは、航行の安全及び海洋環境の保全に対して支障のない程度の軽微な不具合が確認されたものについて、船長に改善を指導した。
 さらに、海上保安庁においては、万景峰九二号が平成十五年九月五日に出港する際に、船長が同船の旅客の最大搭載人員(二百二十人)を三十五人超えて旅客を搭載していた事実があったため、同月十七日に船舶安全法違反(最大搭載人員超過)容疑で船長を新潟区検察庁に書類送致した。
 なお、財務省及び経済産業省においては、現時点において把握している限り、法律上問題のある事例はない。

二の1について

 先の答弁書(平成十七年六月三日内閣参質一六二第二一号)において「答弁を差し控えたい」としたのは、お尋ねの品名、価格等を公にすることにより種々の弊害が生じるおそれがあることから、これらの事項をお示しすることは差し控えたい旨を答弁したものであり、国会法(昭和二十二年法律第七十九号)第七十五条の規定に違反するものではないと考えている。

二の2の(一)について

 税関においては、輸出貨物について税関の事務の適正な遂行を確保するため、輸出者の申告や輸出貨物の検査などを通じて必要な情報を得ている。例えば、品名、価格、数量、取引先等の情報を公にした場合、輸出者の商取引の具体的内容を他の業者が知り得ることから、輸出者がこれらの情報を税関に適正に申告しなくなるおそれがあり、税関事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある。

二の2の(二)について

 政府は、北朝鮮に係る拉致、核、ミサイルといった諸懸案の解決に向け取り組んできている。他方、万景峰九二号による北朝鮮への貨物の輸出については、関係法令に基づき適正に行われる限り、適法であり、その点で他の貨物の輸出と変わりはないので、その内容を公にするかどうかについても、同様に取り扱うことが適当であると考えている。

二の3の(一)について

 税関に提出された書類の万景峰九二号の所有者の欄には、「DAIZIN SHIPPING CO.PYONGYANG」と記載されている。

二の3の(二)について

 拉致問題は、我が国の国民の生命と安全にかかわる重大な問題であり、政府としてもその解決に向け取り組んできている。他方、万景峰九二号による北朝鮮への貨物の輸出については、関係法令に基づき適正に行われる限り、適法であり、その点で他の貨物の輸出と変わりはないので、その内容を公にするかどうかについても、同様に取り扱うことが適当であると考えている。

三について

 個別の船舶、輸出者等に関し通関時に把握した情報については、これらを公にすることにより、今後、正確な事実の把握を困難にし、税関の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあること及び船舶の所有者、輸出者等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることから、具体的な事項をお示しすることは適当ではないと考えている。平成十七年五月三十日、同年六月四日及び同月十日の万景峰九二号の新潟港入港時に係る現金の持ち出しについては、現時点において把握している限り、法律上問題のある事例はない。
 なお、新潟港において平成十七年五月に通関された北朝鮮向け輸出品の貿易額等については、肉類及び同調製品の輸出価額が三十八万二千円であること等を同年六月三十日に公表したところであり、また、同月に通関されたものの貿易額等については、同年七月末に公表する予定である。

四について

 政府としては、北朝鮮から拉致、核、ミサイルといった諸懸案の解決に向けた前向きな対応を得るために、いつどのような対応をとるべきかについて、諸要素を総合的に勘案しつつ検討してきている。御指摘の特定船舶の入港の禁止に関する特別措置法(平成十六年法律第百二十五号)第三条は、「我が国の平和及び安全の維持のため特に必要があると認めるときは、閣議において、期間を定めて、特定船舶について、本邦の港への入港を禁止することを決定することができる。」と規定しているが、同条の規定に基づいた入港禁止措置をとることを含め、なお、状況を見つつ対応を検討していく必要があると考えており、現時点においては、入港禁止措置をとることは考えていない。