質問主意書

第162回国会(常会)

質問主意書


質問第一六号

ネパールの人権回復に対する働きかけ及び対ネパール政府開発援助に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十七年四月二十八日

尾立 源幸   


       参議院議長 扇 千景 殿



   ネパールの人権回復に対する働きかけ及び対ネパール政府開発援助に関する質問主意書

 ネパールでは二〇〇五年二月一日、国王が首相を解任し実権を掌握、国家非常事態宣言が発令されるとともに、憲法の人権条項の多くが停止された。
 国連人権高等弁務官が政変当日に「非常事態宣言下であっても基本的人権が停止されてはならない」との声明を出したほか、現地を訪れたアムネスティ・インターナショナル事務総長は「ネパールの長年無視されてきた人権の危機は、もはや破局寸前である」と述べている。
 こうした情勢を受け、インドやイギリスは軍事援助の停止を決定し、デンマークやスイスは、開発援助の一時停止や新規案件採択の凍結を発表した。政変翌日の二月二日、日本政府は「外務報道官談話」として四点の声明を発表したが、三月七日には、新規の政府開発援助案件二件の供与を発表した。
 日本からネパールへの対政府援助はDAC諸国による援助総額の三四・九%に及び(二〇〇二年度実績)、トップドナーである日本政府が今回の政変にどのような反応を示すのかネパール社会及び国際社会は注目している。そこで、「ネパールの人権回復に対する働きかけ及び対ネパール政府開発援助」について、以下質問する。

一 外交ルートでの働きかけについて

1 外務報道官談話以外に、在ネパール日本大使からネパール政府への働きかけ、外務省から駐日ネパール大使への働きかけを行っているのか。また、その具体的な内容について説明されたい。
2 第六一回国連人権委員会の会期中、日本政府代表者はネパール政府代表者と会談したのか。また、その具体的な内容と結論について説明されたい。
3 第六一回国連人権委員会におけるネパールに関する決議に日本は賛成するのか、反対するのか、あるいは棄権するのか、その理由とともに明らかにされたい。
4 現在、マオイスト・政府間での和平への対話の道が断たれているのは、国王・政府側が国連の仲介を拒んでいることにある。国連が仲介に入ることができるよう日本政府として働きかけをする予定はあるのか。ないとすれば、それはなぜか説明されたい。

二 三月七日付け発表の政府開発援助新規二案件について

1 政府開発援助大綱の原則との差異
 政府開発援助大綱(ODA大綱)は、その理念の部分で「民主化や人権の保障を促進し、個々の人間の尊厳を守ることは、国際社会の安定と発展にとって益々重要な課題」であり、「我が国は、世界の主要国の一つとして、ODAを積極的に活用し、これらの問題に率先して取り組む決意である」としている。また、援助実施の原則に「開発途上国における民主化の促進、市場経済導入の努力ならびに基本的人権及び自由の保障状況に十分注意を払う」ことを挙げている。基本的人権や自由の保障がされていないネパールにおいて、対政府援助を実施したことはこの原則に反するのではないか。新規二案件の供与がODA大綱の原則に反しないと判断した根拠を示されたい。
2 人権侵害に関するモニタリング
 援助対象国の民主化や人権状況に関して、日本政府はどのような基準に基づいて情報収集を行っているのか。その内容は公表されるのか。特に、報道されている著名人に対する拘束・移動制限以外の一般市民に対する不当な逮捕など、一般市民、特に援助の裨益者となるような地方農村部の人々の人権侵害についてモニタリングしているのか明らかにされたい。
3 実施体制
 援助関係者がマオイストやその他の反政府勢力の標的になるといったリスクを避けつつ、貧困層や紛争の影響を受けている層に届く援助を実施することが可能と判断した結果、今回の供与に踏み切ったと考えられる。その判断の根拠となる、実施体制はどのようなものか。特に、地方及び主要道路はほぼマオイスト側が統治している状況下、供与物資の配布エリア及び配布方法をどのように想定しているのか。
4 裨益者
 「食糧増産援助」は紛争で土地を追われたり、疲弊している農民にとって届きにくく、一方「セクタープログラム無償資金協力」は国家財政支援としての性格が強い。日本大使館のプレスリリースでも国家への外貨支援だと明言されている。今回の援助は、具体的にどの地域に住む、どういった階層の、どういう状況に置かれた人々への支援なのか、明らかにされたい。
5 ネパール社会・国際社会の反応
 政変後に対ネパール政府援助の新規案件実施を決定しているのは日本政府のみであり、その決定は他国の対応と大きく異なる。政府発表のみを報道しているネパール国営ラジオ放送局への支援など、既に問題視されている案件がある中で、今回の決定がそれら以上に現政権支持と受け止められるとは考えなかったのか。今回の決定後のネパール社会・国際社会の反応をどのように調査しているか。調査している場合、その結果を受けてなお、今回の決定に至った理由を明らかにされたい。
6 実施とその影響に関するモニタリング
 現地で、今回の援助の実施状況並びにその影響について、モニタリングを行う調査団若しくは委員会を結成する予定はあるか。その場合、現地NGO・国際NGO(日本のNGOを含む。)等の参加は可能か、また、モニタリング結果を定期的にホームページ等で情報公開する予定はあるかについても明らかにされたい。

  右質問する。