質問主意書

第161回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第七号

内閣参質一六一第七号
  平成十六年十一月二十六日
内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 扇 千景 殿

参議院議員近藤正道君提出新潟県中越地震と原子力発電所に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員近藤正道君提出新潟県中越地震と原子力発電所に関する質問に対する答弁書

一の1について

 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六十六号)第二十三条の規定に基づく実用発電用原子炉の設置の許可のために行う原子炉の耐震設計に係る安全審査(以下「耐震設計審査」という。)においては、地表に現れた活断層のみならず、敷地及び敷地周辺の地質、過去に発生した地震、地表に現れていない活断層等に関する詳細な調査の結果を踏まえ、敷地の直下又は近傍に、マグニチュード六・五を超え、敷地に大きな影響を及ぼす可能性がある地震の震源となり得るような活断層がないことを確認しており、マグニチュード六・五以上の規模の地震が発生した場合であっても地表に断層が現れないことがあることをもって、耐震設計審査において想定しているマグニチュード六・五という直下地震の規模を見直すことが必要となるとは考えていない。

一の2について

 「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(昭和五十六年七月原子力安全委員会決定)においては、地震動の速度及び加速度を算定するために特定の算定式を定めているわけではなく、お尋ねの「耐震設計審査指針の定める算定式」が何を指すかが明らかでないことなどから、お尋ねの点にお答えすることは困難である。

二の1について

 原子力安全・保安院柏崎刈羽原子力保安検査官事務所(以下「柏崎刈羽事務所」という。)においては、平成十六年新潟県中越地震(以下「新潟県中越地震」という。)発生後、三十分以内に東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)の柏崎刈羽原子力発電所から運転状況に異常がない旨の連絡を受けているところであるが、同発電所においては、地震の発生を受けて、速やかに必要な点検を実施し、柏崎刈羽事務所への連絡を行ったものと認識しており、原子力発電所から行政当局への連絡について特段の対策を講じる必要はないものと考えている。

二の2の(一)及び(二)について

 お尋ねの地震計は、法令の規定に基づき設置が義務付けられているものではなく、その故障が原子炉の安全性確保に影響を与えるものでもない。このため、新潟県中越地震の発生時に地震計が正常に動作しなかったことについて、特に問題があったとは考えておらず、また、全国の実用発電用原子炉の設置者に対し、地震計の管理について指示する必要があるとは考えていない。

二の2の(三)について

 地表においては、地盤の増幅特性により、地震動の加速度及び速度について御指摘のような事例が観測されることがあるものと承知している。他方、耐震設計審査に当たって用いている原子炉建屋が設置されている岩盤上における地震動の加速度及び速度については、地盤の増幅特性の影響が比較的小さく、過去の地震の観測結果における観測値のばらつきを考慮することにより、十分な安全性を確保することができるものと考えているところ、現在の地震動の加速度及び速度の算定手法に特段の問題があるとは考えていない。

二の2の(四)について

 御指摘の「実際の測定結果」とは、新潟県中越地震に係る独立行政法人防災科学技術研究所の強震ネットワーク(K-NET)及び気象庁の観測結果を指すものと考えるが、これらの観測結果は、地表面において観測されたものである。他方、二の2の(三)についてで述べたように、耐震設計審査において用いているのは、原子炉建屋が設置されている岩盤上での地震動の加速度及び速度であって、地表面における観測結果と柏崎刈羽原子力発電所の耐震設計審査において用いた手法によって得られる計算値との間に差異があることをもって、設計手法の変更を検討する必要があるということにはならないものと考える。

二の2の(五)及び(六)について

 柏崎刈羽原子力発電所の一号機、五号機及び六号機の地震計が異なる加速度を記録したことについては、各号機の原子炉建屋の岩盤への埋め込みの深さが異なること、地震計の設置位置の高さが異なること、原子炉建屋の形状に違いがあることなどによるものであると考えており、同発電所の基礎地盤の性状に問題があるとは考えていない。

二の2の(七)について

 御指摘のタービンの停止は、タービンの軸受けの摩耗を検出するための保護装置の作動によるものであるが、当該保護装置は、地震の発生に対して原子炉全体の安全性を確保するために設置される地震感知器とは設置の目的を異にするものであり、また、当該停止を受けて、東京電力が実施した点検の結果、タービンに異常が生じていないことが確認されているところ、当該保護装置が作動したことをもって、原子炉停止信号に係る地震感知器の設定値が高すぎるということはできないものと考える。

二の2の(八)について

 新潟県中越地震の発生後に実施した事業者及び国の点検によって、柏崎刈羽原子力発電所の各原子炉の健全性が確保されていることを確認しており、原子炉停止信号に係る地震感知器の設定値を見直す必要があるとは考えていない。

二の2の(九)について

 全国の原子力発電所における原子炉停止信号に係る地震感知器の設定値は別表のとおりであるが、耐震設計審査の前提としている地震の規模、原子炉建屋の構造等が原子炉ごとに異なるため、当該設定値も原子炉ごとに異なるものとなっている。

二の3の(一)について

 御指摘の「柏崎刈羽原発から東十三キロメートル地点で確認された長岡市宮本町の沖積層の落差二メートル及び十一メートルの断層」とは、渡辺満久氏等の論文「鳥越断層群の群列ボーリング調査」(平成十三年公表)に示されている鳥越断層群を指すものと考えるが、柏崎刈羽原子力発電所の耐震設計審査の際には、当該断層群についても評価を行っており、「想定地震が誤りだった」との御指摘は当たらないものと考える。

二の3の(二)及び(三)について

 文部科学省地震調査研究推進本部地震調査委員会が平成十六年十月に公表した「長岡平野西縁断層帯の長期評価について」(以下「地震調査委員会評価」という。)においては、新潟市の沖合から越後平野南部に位置する長岡平野西縁断層帯を構成する複数の活断層全体が一つの区間として活動した場合、マグニチュード八程度の地震が発生する可能性を指摘しつつも、同断層帯を構成する断層について、一部の断層以外には活動履歴に関する詳しい資料が得られていないことや海域における断層の位置に関する資料が不足していることから、今後、精度の高いデータを集積して、最近の活動履歴や平均活動間隔を正確に把握する必要があるとしているところであり、地震調査委員会評価をもって、敷地周辺の陸域及び海域の断層に関する詳細な地質調査の結果等を踏まえてなされた柏崎刈羽原子力発電所の耐震設計審査の結果を直ちに見直す必要があるということにはならないものと考える。今後の対応については、同断層帯に関するデータの集積状況や学術的研究の進展状況を踏まえ、必要に応じ、検討を行ってまいりたい。

二の3の(四)及び(五)について

 いわゆる日本海東縁プレートが北海道沖から新潟県沖にかけての日本海東縁部に独立したプレートとして存在するという考え方は、学術的に確立しているとは言えないものと承知しており、柏崎刈羽原子力発電所の耐震設計の審査に当たって、日本海東縁プレートを考慮するということはしていない。

別表