質問主意書

第161回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一三号

教科書準拠教材の著作権侵害及び教科書検定における「白表紙本」流出への対処に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十六年十一月二十六日

大田 昌秀   


       参議院議長 扇 千景 殿



   教科書準拠教材の著作権侵害及び教科書検定における「白表紙本」流出への対処に関する質問主意書

 小中学校で使用されている教科書をめぐって、本来非公開であるはずの「白表紙本」(教科書検定前の申請図書)が学校教材出版社に大量に流出していることが、去る二〇〇二年一一月二七日の衆議院決算行政監視委員会で取り上げられてから、既に二年が過ぎた。
 「白表紙本」は、検定以外非公開とされ、文部科学省は各教科書発行会社に対して、通知等によって「外部に流出しないよう徹底管理」を要請していたところである。この委員会で取り上げられた際も、文部科学省は当初その事実を否定したが、後に認めて「遺憾の意」を表明するに至った。
 この経緯の中で、教材出版社を束ねている文部科学省所管の業界団体である社団法人日本図書教材協会(以下「日図協」という。)は、教科書発行会社が検定の申請を終えた直後、教科書の執筆者に接触して「白表紙本」を調達し、教科書に準拠したワークテストやドリルなどの学習教材(以下「教科書準拠教材」という。)を製作する日図協加盟の教材出版社に限定して配付していたことが明らかとなった。
 その過程において、日図協は加盟教材出版社から「謝金」として金員を集め、教科書発行会社の業界団体に年間約二億円を支払っていた。その「謝金」の目的について、日図協は「教科書利用の対価」と説明するが、「謝金」の本来の目的は教科書発行会社の業界団体を通じて「白表紙本」を検定前に流してもらうための対価ではないかとの疑惑がある。また、日図協は加盟教材出版社に対して、「謝金の中には作家らへの著作権料も含まれている。」と説明して、毎年「謝金」を徴収してきたが、原著作権者である作家らには著作権料が支払われていなかった。さらには、教材行政を司る文部科学省初等中等教育局長が日図協会長に天下って、この不明朗な方法を組織的に行っていたことなど、さまざまな疑惑が判明したところである。
 文部科学省は、その後、検定申請のルールについて、申請図書等の内容が外部に漏れることのないように、申請者に対してより徹底した指導をしていると思われるが、その指導の成果や「謝金」の性格に係る疑問の解消、日図協などの教材出版社が加盟している業界団体への同省からの天下りの是正等、先に指摘した疑惑が現在どのように改善されたのか、明らかにすべきである。
 一方で、教材出版社による執筆者の著作権侵害については、詩人の谷川俊太郎さんらが一九九九年に教材出版社を相手取って起こした損害賠償請求訴訟において、二〇〇三年三月に東京地方裁判所が原告の訴えを認め、教材出版社六社に対して総額一億一五三二万円の損害賠償金の支払を命じる判決を行い、二〇〇四年六月の東京高等裁判所判決でも原判決をほぼ維持している。教科書に使用された作品に係る著作権の問題についても、文部科学省は、執筆者の立場に立って著作権の侵害がないよう注意を払う義務があると思われる。
 この訴訟によって、教材出版社の長年にわたる著作権侵害が明らかになったことから、多くの著作権者が教材出版社に対して賠償金を請求するとともに、それに対する教材出版社側の不誠実な対応に憤慨し、教材への作品使用を許可しないという事態に発展している。その結果、教材出版社発行の国語教科書に準拠したワークテストの中で教科書掲載作品を使用できないことから、子どもたちが教科書を見ながら解く必要があるワークテストの問題が目立ち始めており、今後増えることが考えられる。
 来年度は、小学校用教科書の改訂年度であるが、このような教科書検定に係る不透明な問題を決して再発させてはならず、また、教科書準拠教材の使用に当たって子どもたちに不自由な思いをさせてはならない。
 よって、次のとおり質問する。

一、日図協から加盟教材出版社に対して、検定前の「白表紙本」が流出していたことが衆議院決算行政監視委員会で問題になって以来、「白表紙本」の検定申請以外の目的による使用等について、文部科学省としては、関係団体等にどのような指導を行ったのか、明らかにされたい。

二、一に対する答弁で示された措置の結果、「白表紙本」の検定前の流出等は一切無くなり、教材出版社から日図協へのいわゆる「謝金」も無くなったと理解してよいか、文部科学省の所見を示されたい。

三、谷川俊太郎さんらの訴訟においても、日図協及び被告となった加盟教材出版社側は、「謝金の中に作家らへ支払うべき著作権料が含まれると認識していた。」と主張したが、結果的には作家らへの著作権料が含まれていないことが明らかとなった。したがって、日図協は加盟教材出版社から徴収した「謝金」のうち、著作権料相当額を加盟教材出版社に返還すべきであり、また、加盟教材出版社も日図協に対して著作権料として支払った額の返還を請求すべきであると考える。日図協が今まで加盟教材出版社から徴収した「謝金」の中から著作権料相当額を返還しているのか、返還していないとすると今後返還するつもりはあるのかについて、日図協を所管する文部科学省はどのように把握しているのかを明らかにされたい。また、教材出版社が日図協を通じてこれまでに教科書発行会社に支払った「謝金」は、二〇〇一年現在約二七億円とも言われているが、そのうち作家らに支払われる著作権料相当額がどの程度含まれているのか、文部科学省の所見を示されたい。

四、全国の小・中学校の児童・生徒に教科書が配布されるまでの過程において、教材出版社が教科書準拠教 材を製作するためには、いつどのような方法で教科書の内容を入手しているのか、明らかにされたい。

五、「白表紙本」を検定申請以外の目的で使用することの遠因には、文部科学省官僚の教科書教材関係団体への天下りがあったものと考えられる。文部科学省として、天下りの弊害をどのように考えているのか、また、「白表紙本」流出等の再発防止策としていかなる措置を取ったのか、明らかにされたい。

六、教科書準拠教材で使用する作品の著者に対する著作権料問題において、谷川俊太郎さんらが起こした訴訟の後、「教材出版社側から過去分の補償金として一年間に百円とか二百円という著作権料が提示された。」と報じられている。しかし、百円や二百円というのは極めて低い額と思われる。教育行政及び著作権保護行政の両方に責任のある文部科学省としては、このような不当な扱いを看過できないものではないかと考えられるが、著作権料に関する文部科学省の見解を示されたい。

七、教科書準拠教材を使用している小学校の比率は、全国でどの程度となると承知しているか明らかにされたい。

八、教科書準拠教材を全国規模で納入している教材出版社並びにそのうち日図協に加盟する教材出版社及び日図協と業務委託契約を締結している教材出版社それぞれの数を、どのように把握しているか明らかにされたい。

九、国語教科書に掲載されている作品の著者と教材出版社との間で、著作権侵害問題が解決していないことから、教科書準拠教材において、教科書に掲載されている作品を使えない可能性のある教材出版社と、著者との和解が済み、国語教科書に掲載されている作品すべてを使える教材出版社があると思われるが、その状況をどのように把握しているか明らかにされたい。

十、作家らと著作権問題が解決していないことによって、著作権者や著作権管理団体から使用許可が得られない作品について、その対象作家数は、来年度の小学校国語教科書に作品が掲載される作家のうち何人程度であると把握しているか、来年度の小学校国語教科書に作品が掲載される作家数と併せて明らかにされたい。

十一、月刊誌『月刊テーミス』二〇〇四年一二月号に、「著作権無視に走る『教材出版団体』の正体」と題し、日図協がその意向に反する加盟教材出版社に対し、「白表紙本」の供給の制限と全国の販売網を使った販売ルートの排除等、独占禁止法を無視するようなことを行い、「加盟社いじめを行っている」との記事が掲載されている。この記事の中での最大の焦点は著作権侵害問題であり、作家及びその代理人らと日図協加盟教材出版社とが、「直接交渉等をさせないように日図協が圧力をかけている」と指摘している。このようなことが事実とすれば、日図協を所管し、教育行政を司る文部科学省の日図協に対する指導等に問題があると言わざるを得ない。文部科学省として、これらの事実をどのように確認し対応したのか、又は今後対応するつもりなのか、所見を示されたい。

十二、このような著作権侵害問題は本来、作家及びその代理人と教材出版社との間で話し合いが行われ、解決に向かうべきだと考える。その当事者でない業界団体の日図協が、作家と教材出版社の和解に介在し、教材出版社が独自の判断をしないように圧力をかけることで、結果的に作家ら著作権者との間の解決が遅れているようにうかがえる。その結果、教育現場に多大な混乱が生じることは、極めて重大な問題であると言わざるを得ない。このように問題の解決が遅れている実情について、文部科学省の所見を示されたい。

十三、教科書に使用されている作品の著者と、その作品を使用する教材出版社との間の著作権に係るトラブルによって、子どもたちが、教科書を見ながらワークテスト等の問題を解くという実態に係る認識及びその打開策について、文部科学省の基本的な考えを示されたい。

  右質問する。