質問主意書

第159回国会(常会)

答弁書


答弁書第三六号

内閣参質一五九第三六号
  平成十六年七月六日
内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 倉田 寛之 殿

参議院議員富樫練三君外六名提出タクシー事業の現状改善等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員富樫練三君外六名提出タクシー事業の現状改善等に関する質問に対する答弁書

一の(一)について

 厚生労働省の「賃金構造基本統計調査報告」によると、平成十五年における全国のタクシー運転者の平均の年間給与額(「きまって支給する現金給与額」の一年間の合計に「年間賞与その他特別給与額」を加えた額をいう。以下同じ。)は、約三百十三万円となっており、全労働者の平均の年間給与額の約四百八十八万円と比較して低い水準にとどまっていると承知している。また、全国の労働基準監督署においては、平成十五年に四百六十二のタクシー事業に係る事業場に対して監督指導を実施したところであるが、その際に、最低賃金法(昭和三十四年法律第百三十七号)違反が認められた事業場は、四十五となっている。
 政府としては、タクシー運転者の賃金、労働時間等の労働条件の向上を図ることは重要な課題であると認識しており、関係省庁において連携を図りつつ、引き続き、タクシー事業者に対する監督指導等を行ってまいりたい。

一の(二)について

 交通事故は、自動車保有車両数、運転免許保有者数、自動車の走行距離の増加等による交通量の増大に伴って増加していると考えられるが、交通事故は、運転者、道路交通環境、自動車車両等の様々な要因が複雑に関連して発生するものであり、タクシーが第一当事者となった交通事故に限らず、交通事故の増加の要因を明確に特定することは困難である。
 したがって、タクシー運転者の労働条件と交通事故の因果関係についても、これを特定することは困難であるが、政府としては、タクシー運転者の交通事故及び過労運転を防止することは重要な課題であると認識しており、関係省庁において連携を図りつつ、引き続き、タクシー事業者等に対する監督指導等を行ってまいりたい。
 なお、タクシー運転者の健康状態に起因する事故等が平成十四年に十七件と、前年の八件に比べ急増しているのは、自動車事故報告規則(昭和二十六年運輸省令第百四号)の改正により、平成十三年五月一日から、国土交通大臣への報告対象となる事故として、運転者の疾病により運転を継続することができなくなった場合を追加したことに伴うものであり、前年までと同様の報告対象で見ると、平成十四年は三件となっている。

一の(三)について

 各地方運輸局及び沖縄総合事務局が行うタクシー事業者に対する自動車等の使用停止処分等の行政処分の件数は、管轄区域内のタクシー事業者数だけでなく、具体的な法令違反行為の内容や当該地域におけるタクシーの利用形態、道路交通の状況等の様々な要因により差が生じるものであり、御指摘のように「処分数、処分率」の違いがあることをもって一部の地方運輸局の「監査体制もしくは監査能力の不足を露呈したもの」と評価することは適当ではないと考える。
 国土交通省としては、道路運送法及びタクシー業務適正化臨時措置法の一部を改正する法律(平成十二年法律第八十六号。以下「改正道路運送法」という。)に係る国会における附帯決議(以下「附帯決議」という。)の趣旨等を踏まえ、管轄区域内にタクシー事業者等の数が特に多い関東運輸局及び近畿運輸局において、平成十四年七月一日に、監査指導業務を専門的に実施する自動車業務監査指導部を設置する等、監査指導体制の強化を図っているところである。

二について

 お尋ねの「規制改革・民間開放推進三か年計画」(平成十六年三月十九日閣議決定)に盛り込まれたタクシー事業の特別監視地域の指定要件におけるいわゆる「非流し地域」の特例的な取扱いの見直し等の緊急調整措置の見直しの具体的な内容については、御指摘の附帯決議の内容の趣旨や改正道路運送法の施行の状況を踏まえ、検討してまいりたい。

三について

 お尋ねの「規制改革・民間開放推進三か年計画」に盛り込まれたタクシーの運賃・料金の多様化を実現するための環境整備(運賃を始めとする許認可手続に係る標準処理期間の短縮を含む。)の具体的な内容については、御指摘の附帯決議の内容の趣旨や改正道路運送法の施行の状況を踏まえ、検討してまいりたい。
 また、タクシーの運賃は、各タクシー事業者の自主的な経営判断に基づいて設定され、認可の申請が行われるものであり、国土交通省においては、利用者の利益の保護等を図る観点から、道路運送法(昭和二十六年法律第百八十三号)第九条の三第二項各号に規定する基準、「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金に関する制度について」(平成十三年十月二十六日国土交通省自動車交通局長通達)等に基づき、当該申請の内容を審査しているものであるところ、右の検討は、このようなタクシー運賃の認可制度を前提として行われるものであり、「事業者の自由な選択や判断への介入」であるとの御指摘は当たらないものと考える。

四について

 御指摘の「客待ちタクシーの問題」については、これが改正道路運送法の施行によるタクシー事業の規制緩和が直接の原因となって発生しているのか否かについては不明であるものの、政府としては、交通事故の防止、交通の円滑化、環境の保全等の観点から、客待ちタクシーに起因するものも含め、交通渋滞等を改善するための施策を講ずることは必要であると考えており、引き続き、関係省庁において連携を図りつつ、必要な対策を推進してまいりたい。
 なお、各タクシー事業者が行うタクシーの台数の増減については、改正道路運送法によりタクシー事業に係る需給調整規制が原則として廃止されたことから、各タクシー事業者の自主的な経営判断に基づいて決定されるべきものとなっている。

五について

 個別のタクシー事業者に対して行った監査の実績等については、公にすることにより、監査等の事務の性質上当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあること及び当該タクシー事業者の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることから、答弁を差し控えるが、タクシー事業者に対する道路運送法及びタクシー業務適正化特別措置法(昭和四十五年法律第七十五号)に基づく行政処分については、タクシー利用者によるタクシー事業者の選択を可能としタクシー利用者の保護を図ること等を目的として、「一般旅客自動車運送事業者の法令違反に対する行政処分等の公表の基準について」(平成十四年一月十七日国土交通省自動車交通局長通達)により公表しているところであり、このように公表されているいわゆる第一交通産業グループに属するタクシー事業者に対する行政処分に係る年月日、内容及びその根拠となった条項については、別表のとおりである。
 政府としては、いわゆる第一交通産業グループに属するタクシー事業者であるか否かにかかわらず、輸送の安全、最低限の労働条件等を確保する観点から、国土交通省及び厚生労働省が緊密な連携を図り、タクシー事業者に対する監査等を行い、道路運送法、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)等労働基準関係法令等に違反する事実が認められた場合には、タクシー事業者に対し、必要な指導を行うとともに、厳正な行政処分を行っていくこととしている。

別表 いわゆる第一交通産業グループに属するタクシー事業者に対する行政処分について(平成14年2月1日以降) 1/2

別表 いわゆる第一交通産業グループに属するタクシー事業者に対する行政処分について(平成14年2月1日以降) 2/2