質問主意書

第159回国会(常会)

答弁書


答弁書第一八号

内閣参質一五九第一八号
  平成十六年六月四日
内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 倉田 寛之 殿

参議院議員谷博之君提出シベリア抑留問題に関する再質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員谷博之君提出シベリア抑留問題に関する再質問に対する答弁書

一について

 先の答弁書(平成十六年四月二十三日内閣参質一五九第九号。以下「前回答弁書」という。)二及び三についてで述べたとおり、いわゆるシベリア抑留は、人道上問題であるのみならず、当時の国際法に照らしても問題のある行為であったと認識しており、ポツダム宣言第九項に違反したものであったと考えている。
 戦後間もない時期には、いわゆるシベリア抑留をめぐる状況が刻々と変化していたことから、具体的にいかなる時点において、いわゆるシベリア抑留に関する政府のこのような認識が固まったかを特定することは困難である。

二について

 昭和五十九年の戦後処理問題懇談会報告(以下「懇談会報告」という。)においては、いわゆるシベリア抑留者の方々が、シベリア等各地に抑留され過酷な労働を強いられたことは真に同情すべき事柄ではあるものの、それは国民がそれぞれの立場で受け止めなければならなかった戦争損害の一種に属すると言わざるを得ないものであると指摘されたところである。
 このような認識の下、懇談会報告においては、いわゆるシベリア抑留者を始めとした関係者の心情に深く心を致し、戦後処理問題に最終的に終止符を打つため、政府において相当額を出捐し、事業を行うための特別の基金を創設することも指摘されたところである。政府としては、いわゆるシベリア抑留者の方々の多くが既に他界され、生存している方々も高齢であることは承知しているところであるが、これまで、懇談会報告の趣旨に沿って平和祈念事業特別基金による慰藉事業を推進してきたところであり、今後ともこれを適切に推進してまいりたい。

三について

 二についてで述べたとおり、政府としては、これまで、懇談会報告の趣旨に沿って平和祈念事業特別基金による慰藉事業を推進してきたところであり、今後ともこれを適切に推進してまいりたい。

四について

 我が国政府が、いわゆるシベリア抑留者の早期帰還のため、困難な状況の中で最大限の努力を払ったことは前回答弁書二及び三についてで述べたとおりである。
 御指摘の「戦後日本政府と日本社会が大変厳しく冷たく遇した事実」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、政府としては、衷心からの慰藉の念の表れとして、「御労苦に対し衷心より慰労する」旨の内閣総理大臣の書状の贈呈を始めとした平和祈念事業特別基金による慰藉事業を推進してきたところであり、今後ともこれを適切に推進してまいりたい。

五について

 政府としては、いわゆるシベリア抑留者の方々の御労苦がなお心の痛みとして残されているものと認識しているが、衷心からの慰藉の念の表れとして、これまで平和祈念事業特別基金による慰藉事業を推進してきたところであり、今後ともこれを適切に推進してまいりたい。

六について

 旧ソヴィエト社会主義共和国連邦にだ捕・抑留された漁船員等の問題といわゆるシベリア抑留者の問題は、それぞれの要因や経過等も異なるなど、両者を単純に比較するのは適当ではなく、「明白な差別」との御指摘は当たらないものと考える。
 なお、これまで、いわゆるシベリア抑留者も対象として、懇談会報告で指摘されているとおり、恩給法(大正十二年法律第四十八号)において抑留加算を設けたほか、傷病者及び遺族に対して恩給の支給を行い、戦傷病者戦没者遺族等援護法(昭和二十七年法律第百二十七号)により戦傷病者及び遺族に対して年金等の支給を行い、未帰還者留守家族等援護法(昭和二十八年法律第百六十一号)により抑留者の留守家族に対して留守家族手当等の支給を行い、戦傷病者特別援護法(昭和三十八年法律第百六十八号)により戦傷病者に対して療養の給付等を行っているところである。
 さらに、二についてで述べたとおり、政府としては、懇談会報告の趣旨に沿って、これまで平和祈念事業特別基金による慰藉事業を推進してきたところであり、今後ともこれを適切に推進してまいりたい。

七について

 政府としては、御指摘のような事例を承知しているわけではないが、いわゆるシベリア抑留者の方々が、シベリア等各地に抑留され過酷な労働を強いられたことは真に同情すべき事柄ではあるものの、それは国民がそれぞれの立場で受け止めなければならなかった戦争損害の一種に属すると言わざるを得ないものであることは懇談会報告で指摘されているところである。また、平成九年三月十三日に言い渡された最高裁判所第一小法廷平成五年(オ)第一七五一号各損害賠償請求事件の判決においても同様に「戦争中から戦後にかけての国の存亡にかかわる非常事態にあっては、国民のすべてが、多かれ少なかれ、その生命、身体、財産の犠牲を堪え忍ぶことを余儀なくされていたのであって、これらの犠牲は、いずれも戦争犠牲ないし戦争損害として、国民のひとしく受忍しなければならなかったところ」と指摘されているところである。
 しかしながら、政府としてはいわゆるシベリア抑留者を始めとした関係者の心情にこたえるべく、懇談会報告の趣旨に沿って、本邦に帰還した戦後強制抑留者又はその遺族に対し慰労品を贈呈するとともに、これらの者のうち恩給等を受給していない者には更に慰労金を支給することを始めとした平和祈念事業特別基金による慰藉事業を推進してきたところであり、今後ともこれを適切に推進してまいりたい。

八について

 終戦後に各地域から帰還した個々の邦人捕虜及び抑留者が置かれていた状況は様々に異なっていたのであり、また、六についてで述べたとおり、政府はこれまでにいわゆるシベリア抑留者についても恩給法等に基づく種々の措置を講じているほか、平和祈念事業特別基金による慰藉事業を推進してきている。これらの点を考慮すれば、いわゆる南方地域からの帰還捕虜について支払事例があったことのみを取り上げて、いわゆるシベリア抑留との関連で単純な比較を行うことは適当ではないと考える。

九について

 我が国政府は、連合国の元捕虜及び民間抑留者に対する支払については、日本国との平和条約(昭和二十七年条約第五号。以下「サンフランシスコ平和条約」という。)及びその他関連する条約等に従って対応してきたところである。連合国の元捕虜については、サンフランシスコ平和条約第十六条に基づき、日本国の捕虜であった間に不当な苦難を被った連合国軍隊の構成員に償いをする願望の表現として、昭和三十年五月二十五日、赤十字国際委員会(以下「ICRC」という。)に対し米貨による支払を含め合計英貨四百五十万ポンド相当の支払を行った。ICRCは、これに利子等を加え、二次にわたりオーストラリア、ベルギー等十四か国に分配をしたと承知している。国別の分配額等については別表のとおりである。
 なお、米国は同条に基づくICRCからの分配を放棄したが、サンフランシスコ平和条約第十四条(a)2に基づき接収した在米日本財産等の中から米貨約二千万ドルを米国民の「被抑留者、文民及び捕虜」への支払に充当したと承知している。

十について

 お尋ねの我が国が先の大戦において拘束した連合国の捕虜、民間抑留者及び中立国の抑留者の人数等について、「俘虜取扱の記録」(昭和三十年十二月総理府俘虜情報局作成)によれば、次のとおりである。
1 連合国の捕虜については、「太平洋戦争中捕獲された連合国軍ふ虜は約三十五万名で、このうち約三万三千名は、病死或は船舶輸送途中遭難によつて爆死又は海没し、約十八万名は原住民ふ虜であつた。その後逐次解放して昭和二十年八月(終戦時)のふ虜総人員は約十二万八千四百六十三名」と記録されているが、その国別の総数及び帰還者数と死亡者数の内訳については記録されていない。
2 連合国の民間抑留者及び中立国の抑留者については、その国別の総数及び帰還者数については記録されていないが、「俘虜取扱の記録」の付表「軍抑留所別国籍別死亡者人員表」によれば、旧日本軍による抑留者のうち国籍別の死亡者については、オランダ七千三百十三名、英国五百五十八名、米国百六十九名、オーストラリア三十五名、カナダ五名、その他二百六名である。
3 連合国の捕虜の労務場所については、「俘虜取扱の記録」の付表「内地に於ける俘虜労務概見表」及び「外地に於ける俘虜労務概見表」によれば、三百か所以上の労務場所が存在していたことが記録されている。
 なお、抑留者の労務場所については記録されていない。

十一について

 我が国政府としては、平成七年八月十五日の村山内閣総理大臣談話にあるとおり、多くの国々、取り分けアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省の意と心からのおわびの気持ちを表明しており、このような我が国政府の姿勢は、これまで首脳会談等、様々な機会に表明してきている。
 追悼事業等については、これまで、我が国政府関係者による各国訪問時の戦没者記念碑における献花等の実施、各国で行われた戦没者追悼行事への我が国政府関係者の出席、また、合同慰霊祭等を行う目的で日本や東南アジアを訪問する連合国の元捕虜に対する渡航費等の助成等の対応を行ってきている。

十二について

 昭和六十三年度から平成十四年度までの間に、平和祈念事業特別基金が支出してきた慰藉事業費の決算額の総額の内訳は、書状等の贈呈、資料の収集、保管、展示等に関する慰藉事業費が二百六十五億八千三百二十六万三千六百六十三円、慰労品等贈呈事業費が百三十七億二千七百八十二万千七百五十八円、慰労金事務受託事業費が二億千百八十四万四千五百五十四円、戦後強制抑留者特別慰藉事業費が五億円である。
 お尋ねの「広報費」及び「事務費」については、決算において計上していないため、お答えすることは困難である。
 また、戦後強制抑留者に対する慰労金の贈呈者数は十八万二百九十人であり、慰労品の贈呈者数は三十二万二千四百四十一人である。

十三について

 平和祈念事業特別基金は、懇談会報告の趣旨に沿って、戦後強制抑留者等の関係者に対し慰藉の念を示す事業を行うため、昭和六十三年に政府の全額出資による認可法人として設立されたものである。これは、懇談会報告において戦争損害や関係者の労苦を後世に語り継ぎ、戦争により損害を受けた関係者に対し慰藉の念を示すための基金の創設が提唱されたこと、慰藉事業という本来国が行うべき事業を国に代わって行うこと、その趣旨・目的から効率的に事業を実施する体制とする必要があることを総合的に勘案し、認可法人平和祈念事業特別基金を設置して事業を実施することとしたものである。
 その後、平成十三年十二月十九日に閣議決定された「特殊法人等整理合理化計画」に基づき、基金の経営の自律性の確保、経営責任の明確化等を図るため、平成十四年十月に平和祈念事業特別基金等に関する法律の一部を改正する法律案を国会に提出し、認可法人平和祈念事業特別基金を解散して独立行政法人平和祈念事業特別基金を設立し、引き続き事業を実施することとしているところである。

十四について

 平和祈念事業特別基金から都道府県に対して、戦後強制抑留者への慰労品等贈呈事業に係る戦後強制抑留者の確認調査に関する業務、いわゆる恩給欠格者に係る基礎調査に関する業務及び恩給欠格者への書状等贈呈事業に係る恩給欠格者の在職年等確認調査に関する業務を委託しており、昭和六十三年度から平成十四年度までの間に支出してきた委託費の決算額の総額は十一億千六百五十万七千円である。

十五について

 これまでの平和祈念事業特別基金からの補助金等の支出は、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和三十年法律第百七十九号)等の法令の規定に基づいて適正に行われてきたものであり、「偏向して補助・支援事業が行われてきたとの指摘」は当たらない。
 平和祈念事業特別基金を始めとする独立行政法人については、独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)に基づき、独立行政法人評価の仕組みが設けられ、これに伴い、評価機能の重複を排除する観点から、独立行政法人の業務については、総務省設置法(平成十一年法律第九十一号)第四条第十九号において、同条第十八号に基づく評価及び監視(行政評価・監視)に関連した調査の対象外とされているところである。平和祈念事業特別基金については、独立行政法人通則法に基づき、総務省の独立行政法人評価委員会が業務の実績に関する評価を行い、また、総務大臣が、中期目標の期間の終了時に独立行政法人評価委員会の意見等を踏まえつつ、所要の措置を講ずることとなる。政府としては、平和祈念事業特別基金を含め、独立行政法人評価に適切に取り組んできたところであり、今後とも適切に対処してまいりたい。
 また、平和祈念事業特別基金は、その資本金の全額を政府が出資していることから、会計検査院法(昭和二十二年法律第七十三号)第二十二条第五号の規定により、会計検査院の検査対象となっている。会計検査院においては、平和祈念事業特別基金の会計について、事業は法令等に従って適正に実施されているか等の観点から、毎年検査を実施しており、今後とも厳正な検査に努める所存であると承知している。

十六について

 お尋ねの申入れにおいては、いわゆるシベリア抑留者であって生存しているもの及び平和祈念事業特別基金から書状等の贈呈を受けた恩給欠格者であって生存しているものに対し一定額の慰労金を支給すること、平和祈念事業特別基金から書状の贈呈を受けた引揚者であって生存しているものに対し銀杯を贈呈すること、いわゆるシベリア抑留者と引揚者のためにそれぞれ慰霊碑を建設すること、戦後強制抑留者団体が開催する慰霊祭等へ資金を支出すること並びに平和祈念事業特別基金の資本金を取り崩すことによりこれらの措置を実施し、平和祈念事業特別基金は平成二十年度末をもって解散することとの方針とともに、政府に対して、この方針に即して平成十六年度において所要の措置を講ずるよう要請するとの内容が記されている。

十七について

 申入れに対しては、政府としてはこれまで関係者から意見を聴取し検討を進めているところであり、今後も国民の理解が得られるよう慎重に検討を進めてまいりたい。

別表