質問主意書

第159回国会(常会)

質問主意書


質問第一八号

シベリア抑留問題に関する再質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十六年四月二十八日

谷 博之   


       参議院議長 倉田 寛之 殿



   シベリア抑留問題に関する再質問主意書

 三月二十四日に提出した「シベリア抑留問題に関する質問主意書」に対する政府答弁書を四月二十三日に受領したが、適切な回答を得られなかった点もあるので、シベリア抑留問題及び第二次大戦中の捕虜問題に関し、以下のとおり再度質問する。なお、同様の文言が並ぶ場合であっても、質問項目ごとに答弁されたい。

一、四月二十三日付け答弁書において、「いわゆるシベリア抑留は、人道上問題であるのみならず、当時の国際法に照らしても問題のある行為であったと認識して」いるが、「我が国政府が具体的にいつからかかる認識を有するに至ったかを特定することは困難である」と述べている。特定することが困難な理由は何か。

二、シベリア抑留者が、抑留中に強制された労働に対する賃金を支払われないまま、その多くが既に他界し、生存者もその生涯をやがて終えようとしている事実について、政府はどのように認識しているか。慰藉や慰労事業で問題は解決できたと考えているのか。

三、このような違法な「奴隷労働」の清算が終わっていない事実に対して、政府は、抑留者らを戦争のために動員し送り出した一方で、千九百五十六年の日ソ共同宣言によって抑留者らの請求権を放棄した。政府には法的な補償責任はないとのことだが、慰藉や慰労事業以外にはいかなる政治的、道義的責任も果たす必要はないと考えているのか。

四、答弁書において答弁漏れがあったので再度質問する。シベリアに長期間不当に抑留され強制労働させられた日本人捕虜・抑留者に対して、早期に帰国させることができず六万人もの人命が失われるという日本史上例を見ない過酷な労苦を体験させ、十分保護責任を果たせなかったこと、また、帰国後も公安当局の監視下に置くなどして社会的な差別・疎外を助長するような敵視政策を採り人権を侵害するなど、戦後日本政府と日本社会が大変厳しく冷たく遇した事実に対して、内閣総理大臣は国を代表して、その政治的、歴史的責任を明らかにして、率直に謝罪すべきではないか。

五、国が行うべきことは慰藉や慰労事業ではなく、謝罪と補償であると考える。シベリア抑留者の多くも、エリツィン大統領の謝罪のみでは不十分と考えていることを認識しているか。

六、旧ソ連に拿捕・抑留された漁船員らは、国の命令で出航したものではなく、民間の営業活動としての漁労であり、かかる拿捕抑留者に対しては、特別給付金の交付によって自立や生活基盤の再建等を支援している。一方、国家の命を受けて出征・動員させられたシベリア抑留者らに対しては、その経過から見ても、国家が負うべき責任が拿捕抑留漁船員より大きいのは明白であるにもかかわらず、国から何の支援措置も講じられていないのは、明白な差別ではないか。

七、シベリア抑留者らは戦争被害者であるとともに冷戦体制の被害者である。南方から帰還した元捕虜や各地の空襲被害者らが、そのゆえに戦後就職の際に不当に差別を受けたり、戦後社会で疎外され、不利益を被ったという事例はない。他の戦争被害一般と異なるシベリア抑留の被害の特殊性を政府は認識しているか。

八、答弁書で示された経緯はともかくとして、南方から帰還した捕虜には、本来は抑留国が行うべき捕虜に対する支払を我が国が立替払するとの認識の下に労働賃金の支払が行われ、シベリアから帰還した捕虜にはその支払が行われていないため、結果として、出征・動員先による差別的な取扱いが生じていることを認めるか。

九、一方で、旧日本軍による米英など連合国の元捕虜及び民間抑留者には、没収された我が国の在外資産などから何らかの支払が行われたと聞く。いかなる根拠で、いかなる名目で、どのような方法で、何人の元捕虜及び民間抑留者に、いくら支払われたのか。国籍別に明らかにされたい。

十、第二次大戦中に旧日本軍が拘束した連合国捕虜・民間抑留者及び中立国の抑留者について、その国別の総数及び帰還者数と死亡者数の内訳並びに捕虜・抑留者を労働させた事業所の数を、それらのデータの出典とともに明らかにされたい。

十一、旧日本軍及び一部の企業関係者が連合国捕虜に苛酷な労働を強い、虐待したとして戦後の軍事裁判において裁かれているが、それらの被害者に対して政府は、戦後いかなる謝罪を行い、また、これまでどのような追悼・慰霊事業を行ってきたか。

十二、平和祈念事業特別基金の慰藉事業費の内訳・累計及び関連する広報費・事務費の内訳・累計並びに慰労金・慰労品受取者の人数を明らかにされたい。

十三、平和祈念事業特別基金の事業を、政府が直轄で行わず、認可法人や独立行政法人を設置し、それに委ねる形にした理由は何か。

十四、平和祈念事業特別基金の事業の中で、地方自治体に委託しているものがあるか。あれば、その内容及び事業費の総額を明らかにされたい。

十五、国費を投じて平和祈念事業特別基金がこれまで行ってきた事業について、一部の抑留者団体のみに偏向して補助・支援事業が行われてきたとの指摘も一部にあるが、会計検査院や総務省は、その実態について会計検査や行政評価・監視を行うべきではないか。

十六、二千三年末に、平和祈念事業特別基金の解散と資本金の取崩しに関し、自由民主党五役から政府に対してなされた申入れの内容を明らかにされたい。

十七、この自由民主党五役からの申入れに対して、政府はこれまでどのように対応し、今後どのように対応するつもりか。

  右質問する。