質問主意書

第159回国会(常会)

質問主意書


質問第六号

「SACO最終報告の見直し」に係る日米間の協議内容等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十六年二月二十日

大田 昌秀   


       参議院議長 倉田 寛之 殿



   「SACO最終報告の見直し」に係る日米間の協議内容等に関する質問主意書

 本年二月一三日付け『毎日新聞』は、「米国は普天間飛行場を代替なしでも返還するとの意向を日本政府に打診していた」と報じた。
 『毎日新聞』の記事によると、昨年一一月、沖縄県を訪問したラムズフェルド米国防長官は「市街地の真ん中にある普天間飛行場を上空から視察」して、「こんな所で事故が起きない方が不思議だ。代替施設の計画自体、もう死んでいる」と指摘し、「SACO最終報告の見直し」を国防総省に指示し、しかも、ラムズフェルド米国防長官のその意向は昨年末、外務省と防衛庁にも非公式に伝えられたということである。また、本年一月一三日、国防総省を訪問した外務省の海老原北米局長に対し、ロドマン米国防次官補が「SACO合意の見直しを検討できないか」と提案し、さらに、先日訪日したアーミテージ国務副長官が二月三日夜、石破防衛庁長官と会談し、「SACO最終報告の見直しを検討したい」と、見直し協議の開始を求めたとも報じられている。
 このような具体的な報道にもかかわらず、この件に関するマスコミ等の問い合わせに対し、福田官房長官や川口外相、石破防衛庁長官は、こぞって「そんなことは聞いたことがない」と、米側からの打診を否定したと聞き及んでいる。
 「沖縄に関する特別行動委員会(SACO)」が発足した経緯は、言うまでもなく、一九九五年、沖縄で起きた米兵による少女暴行事件に対して、沖縄県民を始め国民の怒りが渦巻く中、沖縄県知事が駐留軍用地強制使用に係る代理署名を拒否する事態となり、日米安保体制を揺がしかねない大問題になったことである。日米間で在沖縄米軍基地の削減問題を解決する実施機関として発足したSACOは、米軍施設返還について協議を重ねたあげく、一九九六年一二月二日にSACO最終報告を発表した。それによると、普天間飛行場を始め北部訓練場、楚辺通信所、読谷補助飛行場、キャンプ桑江などに利用している一一か所の土地の返還、県道一〇四号線越え実弾砲兵射撃訓練の取りやめなど訓練及び運用の方法の調整、嘉手納飛行場及び普天間飛行場における航空機騒音規制措置などの騒音イニシアチブの実施、地位協定の運用の改善等を行うことを決定している。
 特に普天間飛行場の返還については「今後五年ないし七年以内に、代替施設が完成し運用可能になった後、返還する」としていたが、それから丸七年経った今でも返還時期のめどさえ立っていない。その間、米国は国際情勢の急激な変化の中、とりわけ九・一一同時多発テロ以後の安全保障に関する基本戦略の変更に基づき、海外基地の大幅再編に動き出している。そのような中、米国側が「SACO合意を見直したい」というのも自然の成り行きと言える。
 そもそも普天間飛行場返還に伴う代替施設に関し、SACO合意と、現在日本政府が進めている代替施設の建設計画とではその中身が大きく食い違っている。例えば、SACO合意では①代替施設は海上に設置し、②その施設の滑走路の長さは約一五〇〇メートルで、③工法は浮体工法とするとされていた。これに対し、現沖縄県知事の稲嶺恵一氏は一九九八年の同県知事選挙で公約として「海上ヘリ基地案は政府に見直しを求め、その代わり、県民の財産となる新空港を陸上に建設させ、一定期間、最長一五年に限定して軍民共用とする」ことを掲げた。当初、政府もそれに呼応して、代替施設は海上には作らないとして、知事候補の発言を裏付けた。
 そして日本政府は一九九九年一二月二八日の閣議で「普天間飛行場の移設に係る政府方針」を決定し、建設地点を「キャンプ・シュワブ水域内名護市辺野古沿岸域」と定め、「代替施設の工法及び具体的建設場所は地域住民の意向を尊重する」とした。その後、政府と地元等との協議が進められ、二〇〇二年七月二九日に政府と沖縄県などの間で①建設は埋立工法の固定式で②滑走路は全長二五〇〇メートル等とした「普天間飛行場代替施設の基本計画」が合意されたのであるが、その内容は日米間の最初の合意と大きく違っていたのである。
 ただ、日米双方はSACO合意に基づいて行動しなければならないはずであり、その合意内容に変更を加えるとなると、その後、何らかの日米協議が行われたと解することができる。
 普天間飛行場の早期返還は沖縄県民の切実な願いである。日米間で約束した返還期限が守られていないのは、代替施設の県内移設にこだわり、新たな基地被害の拡散や自然環境の破壊を心配する県民・国民の声を聞き入れない日本政府が招いた結果でもある。しかし、ここに来て米側から「代替施設はなくてもよい」とするSACO合意の見直しが提案されたとなると、沖縄県民にとって朗報であり、願ってもないことである。代替施設が不要となれば、「使用期限一五年」も論議する必要はなく、新施設の土地造成費だけで三千数百億円という経費も不要となり、その資金を米軍基地撤去後の沖縄振興策に有効に使うこともできる。したがって、日本政府は、米側の意向に呼応して、SACO合意の見直し作業に入り、普天間飛行場の一日も早い返還を始めSACO合意にある他の米軍施設の返還の実現に全力を挙げるべきだと考える。
 よって、次のとおり質問する。

一 SACOの一九九六年一二月二日の最終報告における合意内容は、日米のいずれかが一方的に変更でき得るものであるのかどうか、外交上の取決めとしてのその性格について明らかにされたい。

二 「普天間飛行場代替施設の基本計画」は、SACO最終報告の合意内容と明らかに違っている。したがって、そのような変更について、米国との間で、いつ、どこで、だれとだれとの協議で、どのように決まったのかを明らかにするとともに、その協議の議事録ないしは合意録を公開されたい。

三 前文で述べた『毎日新聞』の記事では、SACO合意の見直し、つまり「代替施設は不要」との米側の考えとその点に関連した見直し作業について、少なくとも米側から三度にわたって、日本政府側にアプローチがなされたとある。そのアプローチの日時、場所、対応した日本政府の要人の名前、その内容等について明らかにされたい。

四 もし、「報道された内容が事実でない」あるいは「正確ではない」とすれば、SACO合意は日米間の極めて重要な案件であり、その見直しとなると、沖縄県民だけでなく多くの国民が注目している問題であるだけに、真実が明らかにされなければならない。『毎日新聞』の記事のどこがどう違うのか、また、仮に「米側からのSACO合意見直し提案の事実はない」と言うのであれば、その報道に対してどのような対応措置を採ったのかを明らかにされたい。

五 普天間飛行場の「代替施設がなくても返還する」との米側の意向は、普天間飛行場の返還等SACO合意はもちろん在日米軍基地・施設の整理縮小を進める好機である。米軍の海外基地の再編という状況に関する政府の認識を明らかにされるとともに、在日米軍基地とりわけ在沖縄米軍基地の整理縮小、撤去に向けての政府の取組の決意を示されたい。

六 SACO最終報告にある一一か所の訓練場等各施設に利用されている土地の返還の進捗状況について明らかにされたい。

  右質問する。