質問主意書

第157回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一七号

東京拘置所建替えに関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十五年十月九日

福島 瑞穂   


       参議院議長 倉田 寛之 殿



   東京拘置所建替えに関する質問主意書

 かねて建設中の東京拘置所新庁舎は、今年三月に半分が完成して使用を開始し、残り半分は二〇〇六年春に完成予定である。新庁舎の使用が開始されてほぼ半年が経過し、新庁舎の長所・短所がかなり明確になってきた。
 「房がやや広くなった」「房内が明るくなった」「浴槽が広くなった」「冷暖房が使われるようになった」など改善点も少なくない。しかし、その一方で、以前から危惧されてきた欠陥や使用して初めて気付く不具合も明らかになった。それらの不都合の中には、今からでも改善可能なものも少なくない。そこで、今後の改善策を検討するために以下質問する。

一 外の景色が見えない問題について

 旧庁舎の房は片側が廊下、片側が庭に面しており、被収容者は窓から外の景色を見ることができた。新庁舎では房の両側が廊下で囲まれているうえ、廊下の窓も目隠しのルーバーで覆われ、ほとんど外の景色が見えない。被収容者が自然の景色に触れ季節の変化を感じることは、拘禁感を緩和する効果があるだけでなく、被拘禁者の心を癒し、ひいては更生にも資することは想像に難くない。被収容者や刑務官の手記にもしばしばそのような趣旨が見て取れる。逆に、外望が全くなければ、それだけで拘禁感が格段に強まり、被収容者に精神衛生上深刻な影響をもたらすことが危惧される。
 この外望問題は、建替え計画の当初から人権団体や弁護士会が指摘し、東京の三弁護士会からも改善が要望されてきたが、新庁舎の使用が実際に開始されてその危惧が現実のものとなりつつある。
1 新庁舎の使用開始以来、精神的な不調を訴えて精神安定剤や睡眠薬を求める被収容者が増えたと聞く。
① そのような訴えが増えた事実はあるか。
② 投薬の回数や総量の変化について調査したことはあるか。
③ 今後、投薬の回数や総量の変化について継続的に調査する考えはないか。
2 窓をルーバーで覆う理由について、以下明らかにされたい。
① 東京拘置所は人権団体との会見や、報道機関の取材に対して、「被収容者が外から撮影される」ことを窓を覆う理由として強調しているが、それが最大の理由と理解してよいか。窓をルーバーで覆う理由を明らかにされたい。
② 拘置所は「周辺住民への配慮」を窓を覆う理由の一つとしてはいないか。その場合、周辺住民から「被収容者に家の中をのぞかれたくない」「姿を見られたくない」「見下ろされたくない」といった申入れや注文が具体的にあったか。なかったとすれば、その「配慮」の具体的内容は何か。
③ 新庁舎使用開始前に周辺住民を招いて新庁舎内部を見学させているが、報道機関や弁護士会だけでなく周辺住民を特に招いた理由は何か。また、過去に周辺住民を見学に招いたことは何度あるか。

二 運動場が屋内で日光も当たらない問題について

 旧庁舎では被収容者は屋外(地上)の運動場で運動できたが、新庁舎では地上十二階建ての庁舎の隔階のベランダ(コンクリートの上)が運動場になっている。それだけでなく、実際に出来上がった運動場は外側も黒く覆われて日光がほとんど当たらず、「爪を切るのにも苦労する」ほどの暗さだと聞く。
 一で外望について述べた自然との触れ合いの意義は、土の上での運動についても当てはまる。確かに、都会では小学生さえコンクリートの上での運動を余儀なくされている。しかし、それでも運動以外の時間に土や緑を見る機会がある点で、それすらない被拘禁者とは決定的に違う。運動場の問題は計画段階から危惧されてきたことだが、実際にはその危惧を上回って、運動場から日光まで奪われた形になっていることは、重大な問題である。
1 運動場を黒く覆う理由は何か。
2 監獄法施行規則第百六条第一項は「毎日三十分以内戸外に於て運動を為さしむ可し」、国連被拘禁者処遇最低基準規則第二十一(一)は「毎日少なくとも一時間、適当な戸外運動をさせなければならない」と規定しているが、コンクリートの上で、しかも日光も当たらない運動場では「戸外運動」とは言えないのではないか。
3 現在、隔階のベランダにある運動場とは別に、屋上の運動場を長期の被収容者に限って使っていると聞くが、これは事実か。対象となっている被収容者の概数、刑事被告人・受刑者・死刑確定者の別及び使用形態(常時屋上か、交替制か)を回答されたい。
4 屋上の運動場の使用実績があるとすれば、地上の運動場を残し、被収容者全員を対象に交替制で地上の運動場を使うことも可能ではないかと考えるが、そのような方策を検討する考えはないか。

三 その他

1 房の窓ガラスの厚さや密閉性が原因と思われるが、職員が開口部(食器口)に顔を近づけないと房内の被収容者と互いに会話できなくて、職員も不便を感じていると聞くが、そのような事実はあるか。あるとすれば、どのような改善策を考えているか。
2 旧庁舎ではラジオのスイッチが房内にあって被収容者が必要に応じてスイッチを切り替えることができたが、新庁舎ではラジオのスイッチが房の外にあり、一度職員にスイッチを切ってもらうと「告知放送」なども聞き逃してしまうことがあると聞く。
① 東京拘置所は、ラジオのスイッチを房内から房外に移した理由を、「房内にスイッチを付けていたのが例外だった」と説明しているが、この説明の内容は事実と一致するか。また、現在、房内にスイッチが設置されている施設があれば明らかにされたい。
② このような形式的理由ではなく、東京拘置所がラジオのスイッチを房の外に移した実質的な理由は何か。また、政府として房の外にスイッチを設置するのが望ましいと考えているか。
③ 現在、多くの刑務所でテレビが房内に設置され受刑者がスイッチを切り替えることができている事実にかんがみると、ラジオのスイッチを房内に設置することには何ら問題はないと思われる。また、スイッチの付替え工事は構造上・財政上それほど困難なことではないと思われる。新庁舎建設の後半の工事で、スイッチを房外に設置するよう仕様変更し、既設の房についても付替え工事を行うことを検討する考えはないか。
3 東京拘置所は新庁舎の運動場や房の一般見学を拒んでおり、その理由として「被収容者が刑事被告人である関係で、全国的に拘置所の見学は認めていないはずだ」と言っている。
① この説明の内容は事実と一致するか。
② 法務大臣の諮問機関である行刑改革会議でも「市民に開かれた拘置所・刑務所」ということが重要なテーマとなっている。被収容者が使用していない状態の運動場やモデル房を見学者に公開することは十分可能だと思われるが、拘置所の見学を刑務所なみに認める考えはないか。

  右質問する。