質問主意書

第156回国会(常会)

答弁書


答弁書第五一号

内閣参質一五六第五一号
  平成十五年九月九日
内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 倉田 寛之 殿

参議院議員加藤修一君提出我が国の環境政策における「予防原則」の適用に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員加藤修一君提出我が国の環境政策における「予防原則」の適用に関する質問に対する答弁書

一について

 経済産業省製造産業局次長の私的研究会である化学物質総合管理政策研究会は、今後の化学物質総合管理政策の在り方を検討するために有識者を集めて開催されたものであって、御指摘の「予防原則」等を検討するために開催されたものではないことから、同研究会の開催については、お尋ねの「『予防原則』に関する日本の取組の経緯」に含まれないと判断し、御指摘の答弁書(平成十四年六月二十八日内閣参質一五四第二五号。以下「前回答弁書」という。)一についてで答弁しなかったものである。なお、同研究会第二回会合において「資料二-三予防的方策についての考え方」を配付したのは、化学物質の有害性評価及びリスク評価という個別具体的な施策についての考え方を検討するに当たり、日米欧における「予防的な取組方法」に関する考え方を紹介したものである。
 現時点までに、同研究会を含め、環境と開発に関するリオ宣言(以下「リオ宣言」という。)の原則十五で示された「予防的な取組方法」についての個別具体的な施策に係る反映の方法等を検討するために開催した審議会等はあるものの、御指摘の「予防原則」等を検討するために開催された審議会等は、前回答弁書一についてで答弁したもの以外にはない。

二の1について

 平成十四年五月二十三日以降、御指摘の「予防原則」等の定義について、関係省庁間で協議若しくは検討を行い、又は関係省庁において単独で検討を行ったことはなく、また、現時点においては、個別具体的な施策と関連付けずに、御指摘の「予防原則」等の定義を検討する予定もない。
 なお、政府としては、リオ宣言の原則十五で示された「予防的な取組方法」の考え方を、環境基本計画(平成十二年十二月二十二日閣議決定)の中で「環境政策の指針となる四つの考え方」の一つとして位置付けており、必要に応じて、個別具体的な施策の検討の中でその内容を反映していくこととしている。

二の2について

 御指摘の答弁は、化学物質総合管理政策研究会の「中間とりまとめ」(平成十四年七月二十二日)において使用されている「未然防止」という言葉については、リオ宣言の原則十五で示された「予防的な取組方法」の考え方を踏まえたものとして用いられており、したがって、「中間とりまとめ」においては、「未然防止」を「予防的取組方法」と読み替えても差し支えないと理解している旨を述べたものであって、今後、政府部内における「未然防止」の用語法について、すべて「予防的取組方法」を意味するものとして統一するとの見解を述べたものではない。
 リオ宣言の原則十五は「予防的な取組方法」をうたったものと理解している。
 御指摘の「未然防止」については、その指し示す内容について様々な理解の仕方があり得るところであり、また、その用語について具体的に定義した法令等はないため、「予防的取組方法」との定義の違いをお答えすることは困難である。
 なお、政府としては、リオ宣言の原則十五で示された「予防的な取組方法」の考え方を踏まえた上で、環境基本法(平成五年法律第九十一号)第四条において「環境の保全上の支障が未然に防がれることを旨として」環境の保全を行わなければならないと規定されていることを念頭に置いて「未然防止」という言葉を使用しており、また、環境基本計画においては、「予防的な取組方法」の考え方を「環境政策の指針となる四つの考え方」の一つとして位置付けており、「未然防止」を達成する上で「予防的な取組方法」の考え方が重要であり、両者は相互に排他的な概念ではないと理解してこれらの言葉を使用している。

二の3について

 政府としては、「未然防止」という言葉については、二の2についてで述べた考え方に基づいて使用しており、御指摘のような理解に基づく使用はしていない。
 御指摘の「予防原則」等の言葉は個別の政策分野ごとに様々な文脈で用いられることがあり、すべての用語がリオ宣言の原則十五で示されている「予防的な取組方法」の内容を指すものであるかは必ずしも明らかではなく、これらの用語の関係等について、国際的に広く受け入れられている考え方もないと承知している。このため、これらの用語やその用法等を「予防的な取組方法」とは異なる趣旨で使用される場合も含めて統一することについては困難な側面があると考えている。
 なお、化学物質総合管理政策研究会の「中間とりまとめ」は、同研究会の委員によって既に取りまとめられたものであり、政府が修正や訂正を行うべき性格のものではないと認識している。

三の1について

 御指摘の「我が国の「化学物質総合管理」の基本的方針」については、政府としては、環境基本計画において五年を目途とした計画期間における施策の目標や基本的な方向等を「戦略的プログラム」として示しており、次に示す事項を施策の基本的方向として取り組むこととしている。
 第一に、化学物質対策に資する研究や技術開発の一層の推進と科学的知見の集積に努め、この科学的知見に基づき、環境リスクの定量的評価を推進し、それと併行してリスク低減のための様々な取組を促進することである。
 第二に、国民が化学物質の持っている有用性及び有害性並びに環境リスクの意味を正しく認識し、行政、事業者等が環境リスクの管理を適正に行うことができるよう、環境リスク等に関する情報の適切な提供に努め、国民等の理解の増進と情報の共有化を進めることである。
 第三に、残留性有機汚染物質対策等、国際的な協調の下で進められつつある地球規模での化学物質対策に対し、積極的に貢献することである。
 この「戦略的プログラム」においては、リオ宣言の原則十五に述べられている「予防的な取組方法」を広く適用すべきであるという原則を踏まえることとされている。
 また、御指摘の「化学物質総合管理に関する我が国の戦略」については、この「戦略的プログラム」において既に明らかになっているものと認識している。

三の2について

 化学物質政策の見直しに当たっては、関係省庁が適宜適切に連携をしつつ、リオ宣言の原則十五で述べられている「予防的な取組方法」を個別の施策に反映させることについて具体的な検討を行うことが重要であると考えている。御指摘の「ワーキンググループ」については、従前から、必要に応じて、関係審議会を合同開催するなどしてきており、今後とも、個別の政策について検討の必要が生じた際には、関係省庁が適宜適切に連携して対応してまいりたい。
 ただし、個別の政策についての検討の必要性は、当該施策の実施状況等に照らして個々に判断されるべきものであり、見直しの方向性や内容をあらかじめ明らかにすることは困難である。
 また、リオ宣言の原則十五で述べられている「予防的な取組方法」の考え方については、二の1についてで述べたとおり、環境基本計画において、我が国の環境政策の指針の一つとして位置付けられており、御指摘の「共通性」についても、既に明確になっていると認識している。

三の3について

 政府としては、化学物質の安全性の評価等に関して国際協調が進められている点について十分配慮しつつ、今後とも、化学物質の性状に係る科学的知見の集積や影響の評価方法の開発等を進めることによって、国際的な取組を主導するよう努力してまいりたい。

四について 

 リオ宣言の原則十五で示された「予防的な取組方法」の考え方は、環境基本計画において「環境政策の指針となる四つの考え方」の一つとして位置付けられており、環境省においては、同計画の進ちょく状況の点検や策定後五年を目途に実施される同計画の見直しへの反映も念頭に置きながら、御指摘の「予防原則」について、諸外国における取組等についての情報の収集、考え方の整理等を行うことを予定している。
 また、政府の環境保全施策は、リオ宣言の原則十五で示された「予防的な取組方法」の考え方を踏まえ、環境基本計画に基づいて推進されているところであり、同計画の進ちょく状況の点検や見直しに当たっては、政府全体として検討を行うこととなる。

五の1について

 御指摘の「環境省による子どもの環境リスクに対する取組」については、平成十四年度から子供に配慮した化学物質のリスク評価に関して、諸外国の動向や研究成果を調査するとともに、子供の感受性を考慮した有害性の評価手法について検討しているところであり、来年度以降も引き続き取り組んでまいりたいと考えている。
 また、人の健康を保護する観点から定めている環境基準に関しては、成人だけではなく、子供や幼児による摂取を考慮しつつ、疫学調査、毒性試験等による科学的知見を基礎として、設定してきているところである。

五の2について

 化学物質による子どもへの健康影響に対して万全の安全対策をとることは重要な課題と認識している。
 このため、五の1についてで述べたとおり、子どもの特性を考慮した環境基準を設定しているところである。また、子どもの環境リスク評価に関する情報収集、内分泌かく乱化学物質に関する調査研究等に取り組んでいるところであり、今後とも胎児や乳幼児を含む子どもへの健康影響に十分な考慮を払いつつこれらの取組を着実に進めてまいりたい。
 また、御指摘の「子ども環境保健法(仮称)」については、必要に応じ、今後の取組の参考としてまいりたい。

五の3について

 御指摘の提案については、具体的な内容をお伺いした上で、今後の取組の参考としてまいりたい。