質問主意書

第156回国会(常会)

答弁書


答弁書第四七号

内閣参質一五六第四七号
  平成十五年八月五日
内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 倉田 寛之 殿

参議院議員又市征治君提出有事法制下における自治体の住民福祉事務に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員又市征治君提出有事法制下における自治体の住民福祉事務に関する質問に対する答弁書

一について

 武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成十五年法律第七十九号。以下「事態対処法」という。)第四条において国は「組織及び機能のすべてを挙げて、武力攻撃事態等に対処するとともに、国全体として万全の措置が講じられるようにする責務を有する」こととされ、また、事態対処法第七条において地方公共団体は「国の方針に基づく措置の実施その他適切な役割を担うことを基本とする」こととされていることから、国民の保護のための法制(事態対処法第二十四条第一項に規定する国民の保護のための法制をいう。以下同じ。)に基づき地方公共団体が新たに行うこととなる事務については、原則として国の定める方針に基づいて実施されるものであり、基本的に法定受託事務と位置付けることが適当と考えている。
 憲法第九十二条は、「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。」と規定しているところ、地方公共団体の行政権能がどのように認められるかということについては、地方自治の本旨に基づきつつ、どのように国が関与するかということを含めて、国会の制定する法律によって定められることとなるものであり、合理的な理由がある場合には、地方公共団体が行う事務について国が一定の関与を行うことを法律で定めることは、憲法が認めるところであると考える。同条の規定を受けて、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)は、国が本来果たすべき役割に係る事務であって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものについては、法定受託事務とすることを認めているところである。

二の1について

 「等」の内容としては、原子炉以外の原子力施設並びに放射性物質その他武力攻撃に伴い住民の生命及び身体に危険を及ぼすおそれのある物質又は生物を取り扱う施設を想定しており、その範囲については、今後具体的に検討する。なお、国民の保護のための法制の策定に当たっては、対象となる施設等を具体的に規定していくこととする。

二の2及び3について

 住民に対する協力要請や警戒区域の設定については、武力攻撃に伴って火災、水害、建物の倒壊等が発生し、又はまさに発生しようとしているときに、市町村の長又はその職員(消防吏員を含む。以下同じ。)が行うことを想定している。また、警察官及び海上保安官並びに自衛官については、市町村の職員が不在の場合等に、これらの措置を補完的に行うことができるようにすることを想定している。
 住民に対する協力要請については、住民の自発的な協力を前提とするものであり、これに応ずるかどうかは任意である。また、警戒区域の設定による立入制限については、これに対する違反に対して罰則を課すことを考えている。

二の4について

 国民の権利に制限を加える場合には、その内容、要件、手続等について、国民の保護のための法制の策定に当たって、個別具体的に検討し、可能な限り明確に規定することとしたい。

三について

 事態対処法第五条においては、地方公共団体が、当該地方公共団体の住民の生命、身体及び財産を保護する使命を有することにかんがみ、武力攻撃事態等への対処に関し、必要な措置を実施する責務を有することが定められている。地方公共団体が必要な措置を円滑に実施し、その責務を適切に果たすためには、平時から計画を作成しておくことが必要であることから、国民の保護のための法制においては、地方公共団体に「国民の保護に関する計画」の作成を義務付ける必要があると考えている。
 地方公共団体の「国民の保護に関する計画」の作成に当たっての議会の関与の在り方については、地方公共団体の意見を聴きながら、今後検討する。

四について

 指定地方公共機関は、今後策定する国民の保護のための法制に基づき、都道府県の地域において対処すべき措置を実施する者として、公益的事業を営む法人又は公共的施設の管理者の中から、都道府県知事が指定することを想定している。その指定は、国民の保護のための法制の趣旨を踏まえつつ、当該都道府県の地域の事情に応じ、都道府県知事の総合的な判断に基づいて行われるものと想定している。

五について

 武力攻撃事態等においては、武力攻撃の現状や今後の予測について国が最も多くの情報を有し、適切な判断を行い得ることから、避難の実施の要否や避難が必要となる地域の範囲について、国が責任を持って決定することが必要であると考えている。このため、対策本部長(事態対処法第十一条第一項に規定する対策本部長をいう。)が都道府県知事に対し避難措置の指示を行い、都道府県知事は、当該指示を受け、具体的な避難の方法を示しつつ、住民に対する避難の指示を行うことを想定している。なお、この場合において、都道府県知事が、必要に応じ、避難が必要となる地域の範囲を近隣に広げて避難の指示を行うことができる旨の規定を設けることも検討している。
 あわせて、住民の生命及び身体を保護するため緊急の必要があるときは、市町村長が、住民に対し、退避の指示を行うことができるようにすることを検討している。
 また、都道府県知事の避難の指示については、住民は、これに従う法律上の義務を負うが、住民の生命及び身体を保護するため緊急の必要がある場合に警察官職務執行法(昭和二十三年法律第百三十六号)第四条の規定により対処するときを除き、指示に従わない住民を強制的に避難させることは考えていない。

六について

 都道府県の区域を越える避難については、武力攻撃事態等において、関係する都道府県相互間で緊密に連携を図って調整を行うことが必要であることは当然である。一方、平時においても、かかる避難を想定し、避難住民の受入れのための態勢を整備するとともに、都道府県相互間において緊密に連絡を取り合うことが重要であると考えている。
 事態対処法第十五条に規定する内閣総理大臣の権限の行使は、こうしたことを前提としつつも、なお武力攻撃事態等において関係都道府県知事間で調整が整わない場合において、同条に規定するところにより、例外的な措置として行われるものと考えている。

七について

 都道府県知事が、例えば隣県から避難住民を受け入れた場合において、応援を求めることができるのは、当該避難住民に避難の指示をした都道府県知事に限られず、他の都道府県知事を含むものとすることを想定している。
 その際、応援を求められた都道府県知事は、正当な理由がない限り、応援を拒んではならない旨の規定を設けることを想定しているが、これを国が強制することは考えていない。

八について

 お尋ねの医療施設を確保するための都道府県知事による土地、家屋等の一時使用については、武力攻撃事態等において、都道府県知事が、救援の一環として医療の提供を行うために臨時の医療施設を開設する場合を想定したものであり、国民の保護のための法制においては、国が、医療施設を開設するための土地、家屋等の借上げ等を都道府県知事に行わせることは、想定していない。