質問主意書

第156回国会(常会)

答弁書


答弁書第一七号

内閣参質一五六第一七号
  平成十五年五月二十三日
内閣総理大臣臨時代理           
国務大臣 福田 康夫   


       参議院議長 倉田 寛之 殿

参議院議員井上美代君提出石綿(アスベスト)ばく露による健康被害への対策に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員井上美代君提出石綿(アスベスト)ばく露による健康被害への対策に関する質問に対する答弁書

一の1から3までについて

 御指摘の「石綿の代替化等検討委員会」において、非石綿製品への代替化が困難な石綿製品の範囲の絞り込み等を行ってきたところ、平成十五年三月に取りまとめた報告書において、石綿含有建材である押出成形セメント板、住宅屋根用化粧スレート、繊維強化セメント板、窯業系サイディング及び石綿セメント円筒並びに石綿含有非建材である断熱材用接着剤並びにブレーキ及びクラッチに使用する摩擦材(以下「押出成形セメント板等」という。)については、代替化が可能であると考えられるが、石綿含有非建材である耐熱・電気絶縁板及びジョイントシート・シール材については、代替化が可能なものと困難なものがあると考えられるところ、現時点でそれらを明確に特定することは困難であるとされたところである。
 政府においては、当該報告書を踏まえ、押出成形セメント板等の製造、輸入、譲渡、提供及び使用を禁止する方向で、所要の作業を進めているところであり、世界貿易機関事務局に対しても、同年五月に、世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(平成六年条約第十五号)附属書一Aの貿易の技術的障害に関する協定に基づき、禁止措置についての他の加盟国に対する通報を依頼したところである。なお、禁止措置の実施時期については、周知等に必要な期間も考慮し、今後検討してまいりたい。

一の4について

 石綿はその優れた耐久性等から幅広い製品に使用されているが、石綿含有建材に関しては、石綿がセメント等で固定されており、切断等を行わない限り人体への影響はないと認識している。また、断熱材用接着剤等の石綿含有非建材は、事業者向けの製品であると認識している。
 事業者向けの石綿含有製品の情報提供に関しては、特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(平成十一年法律第八十六号)第十四条及び労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)第五十七条の二の規定に基づき「製品安全データシート」等による情報提供が行われているとともに、建材に関しては個々の建材に石綿含有建材であることを示す「a」マークが付されている。
 このように消費者が石綿そのものに触れる可能性が少ないこと及び石綿含有製品を業務として使用する者に対しては情報提供が行われていることから、石綿含有製品の情報提供に関し、御指摘のような措置を講ずる必要はないと考えている。

二の1について

 事業者は、建築物の解体等の作業を行うときは、石綿による労働者の健康障害を防止するため、特定化学物質等障害予防規則(昭和四十七年労働省令第三十九号)第三十八条の十の規定に基づき、あらかじめ、当該建築物について、石綿の使用の状況等を調査し、その結果を記録することが義務付けられているため、御指摘のような調査を行うことは考えていない。

二の2及び3について

 事業者は、石綿が使用されている建築物の解体等の作業を行う場合には、特定化学物質等障害予防規則の規定により、石綿を湿潤な状態にすること等により石綿による労働者の健康障害を防止すること及び特定化学物質等作業主任者技能講習を修了した者のうちから、特定化学物質等作業主任者を選任し、その者に、作業方法の決定、労働者の指揮等を行わせることが義務付けられている。厚生労働省においては、事業者等に対して建築物の解体又は改修工事における石綿粉じんへのばく露防止のためのマニュアルを配布することにより、その周知を図っているところであり、また、安全衛生情報センターのホームページにおいても石綿の有害性、取扱い上の注意等に関する情報の提供が行われているところである。
 また、吹付け石綿が使用されている一定規模以上の建築物を解体し、改造し、又は補修する作業を伴う建設工事を施行する者は、大気汚染防止法(昭和四十三年法律第九十七号)の規定により、大気汚染防止法施行規則(昭和四十六年厚生省・通商産業省令第一号)に定める作業基準を遵守することが義務付けられている。環境省においては、事業者等に対して建築物の解体等に伴う石綿飛散防止対策のための手引き及びパンフレットを配布するとともに、これらを環境省のホームページに掲載することにより、その周知を図っているところである。吹付け石綿以外の石綿含有建材については、大気汚染防止法の規制の対象となっていないが、現在その製造、使用実態等に係る調査を行っており、今後、当該建材に係る大気の汚染の防止対策の必要性を検討することとしている。
 以上のような規制の徹底と石綿に関する情報の周知等を行うことにより、石綿の飛散防止を図ってまいりたい。

三について

 労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)に基づき、業務上、石綿にばく露したことにより肺がん又は中皮腫を発症したとしてなされた保険給付の請求に対して、平成九年度から平成十三年度までの間に、保険給付の支給を決定した件数は、別表一のとおりである。石綿にばく露したことにより石綿肺を発症したとしてなされた保険給付の請求に対して、この間に、保険給付の支給を決定した件数については、区分して調査し、集計しておらず、また、新たに区分して調査し、集計することは作業が膨大なものとなるため、お答えすることは困難である。
 また、平成十一年度から平成十三年度までの間に、保険給付の支給を決定したものについて、労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則(昭和四十七年労働省令第八号)別表第一に規定する事業の種類ごとに集計した件数については、業務上疾病に係る補償状況を把握するための資料(以下「基礎資料」という。)を基に集計したところ、別表二のとおりである。平成九年度及び平成十年度の当該件数については、基礎資料を既に廃棄しており、労働基準監督署に保管してある保険給付の支給又は不支給を決定するに当たって調査した資料を、新たに区分して調査し、集計することは作業が膨大なものとなるため、お答えすることは困難である。

四について

 特定化学物質等障害予防規則に基づく石綿に係る特殊健康診断の受診対象者は、石綿を製造し、又は取り扱う業務(以下「石綿の製造業務等」という。)に常時従事する労働者であり、石綿成形品のはり付け等石綿の発じんのおそれのない業務に従事する労働者は含まれないこととされている。
 また、特殊健康診断の適正な実施を含む特定化学物質等障害予防規則の関係規定の遵守については、従来からその徹底を図ってきたところであるが、今後とも引き続き監督指導等を通じ、特殊健康診断の実施の徹底等による健康障害防止措置の確保を図ってまいりたい。

五の1について

 平成十三年における石綿の製造業務等に従事していた者に係る都道府県ごとの健康管理手帳所持者数及び健康管理手帳所持者の健康診断の受診率は、別表三のとおりである。

五の2について

 厚生労働省においては、石綿の製造業務等に係る健康管理手帳制度についてのパンフレットを作成し、事業者等を通じて関係労働者及び退職者への周知に努めてきたところである。
 また、事業者は、労働安全衛生法の規定により、当該制度等について労働者に周知することが義務付けられていることから、その遵守について、従来から徹底を図ってきたところであるが、今後とも引き続き監督指導等を通じ、その徹底を図ってまいりたい。

五の3について

 健康管理手帳所持者が健康診断を受診できる医療機関については、当該健康管理手帳所持者の住所、利用できる交通機関等を考慮し、必要な数を確保しているところである。
 また、健康管理手帳所持者に対する健康診断については、エックス線直接撮影装置、エックス線特殊撮影装置等、当該健康診断の実施に必要な設備が整備されており、かつ、専門的知識及び経験を有する医師等が確保されている医療機関のうちから、優れた診断機能を有している医療機関に委託しているところであり、当該医療機関において適切に実施されていると考えている。

六の1について

 都道府県労働局の職員及び労働基準監督署の職員に対しては、石綿にばく露したとしてなされた保険給付の請求に対して、「石綿ばく露作業従事労働者に発生した疾病の業務上外の認定について」(昭和五十三年十月二十三日付け基発第五百八十四号労働省労働基準局長通達。以下「認定基準」という。)に基づき、保険給付の支給又は不支給の決定を行うよう指示しているところであり、医療機関に対しては、認定基準の周知を図っているところである。また、心膜中皮腫等、認定基準に認定要件が示されていない疾病であって、業務上、石綿にばく露したことにより発症すると考えられるものについての取扱いを検討するため、御指摘の「石綿ばく露労働者に発生した疾病の認定基準に関する検討会」(以下「検討会」という。)を開催しているところであり、この検討結果を踏まえた認定基準の見直しを行うとともに、その周知を図る予定である。

六の2及び3について

 労働者災害補償保険法に基づき、石綿にばく露したとしてなされた保険給付の請求に対しては、当該請求に係る労働者の症状が認定基準に示す医学的所見に合致しているか否かに加えて、従事していた事業場、作業の内容、石綿ばく露の状況、保護具の使用状況、当該労働者の健康状態等を調査することによって、業務上の事由による疾病か否かを判断することが適当であると考えており、複数の作業場で作業に従事したか否かにかかわらず、当該労働者の石綿にばく露する作業の内容及び当該作業に従事した期間を合計した期間等について認定基準で示す要件を満たしているか否かを確認することとなっている。
 したがって、複数の作業場において石綿にばく露する作業に従事していた労働者から保険給付の請求がなされた場合には、労働基準監督署において、それぞれの作業の内容、当該作業に従事した期間等を調査しているところである。しかしながら、これらの調査項目のうちの一部を把握することができない場合であっても、調査結果全体から石綿にばく露する作業内容及びその従事していた期間が特定できるときは、認定基準に照らして保険給付の支給又は不支給の決定を行っているところである。

六の4について

 平成十四年十二月三日付けで厚生労働省に対して提出された御指摘の要請書に記載されている事項のうち、検討会の検討事項に含まれている事項については、検討を行っているところである。また、検討会の検討結果については、公表することとしている。

六の5について

 検討会においては、石綿ばく露による健康障害に係る最新の医学的知見を踏まえ、認定基準の見直しの検討が進められているところであり、現時点において、御指摘の者について、新たに疾病調査を行う必要はないと考えている。

七について

 建設の事業を行ういわゆる一人親方は、労働者災害補償保険法第三十五条に基づき一人親方の団体の申請により同法の適用を受けることができ、当該一人親方が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合には、療養補償給付、休業補償給付等の保険給付が行われるなど一定の救済措置がなされており、その周知に努めているところである。
 また、石綿により汚染した作業衣等は二次発じんの原因となることから、このような作業衣等はそれ以外の衣服等から隔離して保管し、かつ、作業衣等に付着した石綿の粉じんが発散しないよう洗濯により除去するとともに、事業場からの持ち出しを行わないよう指導しているところである。
 したがって、御指摘のように更なる救済措置を講ずることは考えていない。

別表一

別表二

別表三