質問主意書

第156回国会(常会)

質問主意書


質問第五〇号

「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」の実施状況に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十五年七月二十五日

福島 瑞穂   


       参議院議長 倉田 寛之 殿



   「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」の実施状況に関する質問主意書

 電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(以下「新エネルギー特措法」という。)は二〇〇二年五月三十一日に成立し、政省令の作成を経て、二〇〇三年四月一日施行された。それから約四か月を経て、法施行状況を確認すると、立法趣旨である新エネルギーの普及という目標とはかけ離れた現実が存在している。新エネルギーとは、風力発電、太陽光発電などの自然エネルギーと、一般廃棄物、産業廃棄物の中のバイオマス成分による廃棄物発電部分を一緒にした概念であるが、諸外国では用いられていない日本独自のカテゴリーである。廃棄物発電と自然エネルギーが同じカテゴリーに組み込まれ、同列でコスト競争を強いるというのが、新エネルギー特措法の枠組みであり、それにより自然エネルギー発電事業者は新エネルギー特措法成立以前の状態よりもはるかに厳しい経営環境を強いられ、正に存亡の危機に立たされている。世界的には、多くの国々で自然エネルギーの普及が進んでいく中で、なぜ日本だけが、これに逆行する政策を採っているのか、大きな疑問を抱かざるを得ない。よって、以下質問する。

一 新エネルギー特措法は、電気事業者に対し一定割合の電気を新エネルギーで供給するよう義務付けるものである。東京電力や関西電力などの一般電気事業者だけでなく、電力小売事業に参入している特定電気事業者や特定規模電気事業者にも、同様に新エネルギーの「利用目標量」が設定されている。ところが、「利用目標量」とは別に、電気事業者が自主的に申請をする「基準利用量」というものがあり、電気事業者に義務付けられるのは、申請された基準利用量を基に経済産業大臣が決定した「調整基準利用量」だけである。今年度の「利用目標量」と「調整基準利用量」とは、合計で七三・二億キロワットアワーと三二・八億キロワットアワーであり、実に倍以上の開きがある。義務付け割合は、各電力会社の事情を考慮した形でまちまちになっており、電力各社は今年度は極めて少ない努力で、調整基準利用量を達成してしまうと考えられる。そこで、経済産業大臣はどのような判断基準に基づいて、「調整基準利用量」を決定したのか、その根拠を示すとともに、各社の申告した「基準利用量」と最終的な「調整基準利用量」がどのように違うのか、一覧表を示されたい。

二 新エネルギー特措法が達成することを求めている「利用目標量」は今年度に関しては、全く達成できないことが、現段階で明白になっている。しかも達成されないにもかかわらず、「調整基準利用量」を達成すればよいとされる電気事業者各社は、法による罰を受けない。これは、経過措置といいながら、「利用目標量」の達成を求めた新エネルギー特措法の本来の考え方をないがしろにするものではないか。

三 トップランナー方式というのは、その業界においてコストや環境努力などについて最も進んでいる事業者を到達目標として設定し、ほかの遅れている事業者の努力を促す方式である。到達目標を達成できなければペナルティーを課すことによって、自主的努力を引き出すものである。ところが新エネルギー特措法の枠組みの中で行われていることは、トップランナーである北海道電力よりもはるかに低い、四分の一、五分の一という「調整基準利用量」を設定することで、遅れている事業者の努力を回避させる結果となっている。このような方式はトップランナー方式とは呼べず、新エネルギー普及のインセンティブにはならないと考えるが、どうか。

四 新エネルギー特措法の本来の考え方は、利用目標量と各電気事業者における新エネルギー等発電設備によって発電された電力量実績(以下「新エネルギー発電実績」という。)との差を、風力発電や太陽光発電などの自然エネルギー発電事業者あるいはバイオマス成分の廃棄物発電によって生み出された電気(以下「新エネルギー等電気」という。)で埋めることにより、新エネルギーとしての価値の売買を可能にしようとするものである。ところが、利用目標量とは別に、それよりもはるかに低い「調整基準利用量」という義務量が設定され、経過措置という名目で「利用目標量」が有名無実化されれば、義務量と新エネルギー発電実績との差はわずかとなり、新エネルギーの価値を売買する余地は極めて狭められてしまう。これは、新エネルギーの価値の売買を可能にすることで、新エネルギー等発電設備の普及促進を図るという、新エネルギー特措法の目的に反しているのではないか。

五 新エネルギー特措法の枠組みでは、電気事業者への新エネルギーによる電気の供給義務量と新エネルギー発電実績との間に残されたわずかの差を埋めるために、バイオマス成分の廃棄物発電と各種類の自然エネルギーがシェアをめぐって競争することになる。廃棄物発電は、ベースは廃棄物行政にあり、燃料となる廃棄物を集める作業も運転経費も、ごみ焼却のために、もともと行政や事業者が支出している経費であり、建設費用も廃棄物行政からの補助金等によって助けられている。これに対し、自然エネルギーによる発電は、今はまだ揺籃期の発電技術であり、今後の普及によってコストの低下を目指さねばならないばかりか、事業としては今後長期間の経営計画が見通せる状態にならなければ、事業資金の調達すら困難という状況にある。損を覚悟でも建設できるゴミ発電と、利益が見通せなければ建設すらできない自然エネルギー、この二つを全く同じレベルで競争させることは、法の下の平等という原則にかなっているか甚だ疑問である。これについての政府の見解を明らかにされたい。

六 新エネルギー特措法において、新エネルギー等発電設備であると認定された設備は、全国で四万二百六十九件、設備容量では二百十五万キロワット余りとされるが、この設備の個別の名称、所在地、発電規模、発電方法等は原則公開しないという。しかし、二百十五万キロワット強のうち、およそ百五十五万キロワットは廃棄物発電であり、しかもこのうちどれだけがバイオマス成分に相当するものなのか現段階では不明ということで予測値すら明らかにされていない。このような状況では、新エネルギー等発電設備と認定された廃棄物発電設備がどのようなもので、何を主体として燃焼したり、本当に公正にバイオマス成分が算出できるのかなどといった検討を客観的に加えることができない。すべてが闇の中で、事後検証すらできない。このような不合理をあえて放置してまで、認定設備の個別名称、所在地、発電規模、発電方法等を公開しない理由は何か。認定設備を保有する発電事業者は、公開されることで、どのようなデメリットを受けるのか。

七 認定設備の個別名称、所在地、発電規模、発電方法等を非公開とする合理的理由も根拠も無いのであれば、これを速やかに公開し、一覧表にして示されたい。

八 新エネルギー特措法で新エネルギーによって発電された電気の供給が義務付けられる電気事業者の中には、電源開発株式会社、日本原子力発電株式会社及び核燃料サイクル開発機構が含まれていないが、この理由は何か、明らかにされたい。

九 新エネルギー特措法の施行に伴い、新エネルギーの電力会社への売電単価が大幅に減額をされた。新エネルギー等電気相当量を除く単価という名目で、各電力会社とも軒並み石油の焚き減らし程度の単価とされた。電力会社による一方的な設定であるが、風力発電の場合、キロワットアワー当たりの単価が、北海道電力では時間・季節を問わず三・三〇円、東北電力では三円というような状態である。電力各社における新エネルギー等電気相当量を除く購入単価を、風力発電、太陽光発電、バイオマス、廃棄物発電など、それぞれについて一覧表にして示されたい。

十 二〇〇三年四月一日まで、太陽光発電であればキロワットアワー当たりの売電単価は二十二円から二十四円、風力発電であれば九円から十一円であった。ところが、この法律が施行された四月一日から、売電単価は三円や四円になった。三月三十一日までの単価との差額は太陽光発電で十九円から二十円、風力発電では六円から七円になる。この差額分に相当するほど、新エネルギーの価値に値段がつけられると政府は判断したのか。判断したのであれば、その根拠を示されたい。また、高値は付けられないというのであれば、新エネルギー特措法の枠組みは、太陽光発電や風力発電など自然エネルギー電気の売電価格を劇的に低下させ、自然エネルギーの普及を阻むものとなるが、それがこの法律の目的にかなうのか。

  右質問する。