質問主意書

第156回国会(常会)

質問主意書


質問第四七号

有事法制下における自治体の住民福祉事務に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十五年七月二十五日

又市 征治   


       参議院議長 倉田 寛之 殿



   有事法制下における自治体の住民福祉事務に関する質問主意書

 地方自治法を見るまでもなく、自治体の基本目的は「住民の福祉の増進」である。その最大の障害は、人為的なものとしては、戦争をおいてほかにない。このことから、全国の多くの自治体は平和を願い、平和宣言をし、国交のない国との間を含めて草の根の国際平和交流を行い、また戦争体験や資料を保存し平和を尊ぶ活動を行っている。
 いわゆる「有事法制三法」が成立したが、この最初の案が出て以来、自治体住民・議会・首長の間に戦時協力体制への憂慮が高まり、政府は三月に内閣官房名で「地方公共団体からの質問・意見に対する回答」を配付するなどしてその鎮静に努めてきた。
 さらに同月「地方公共団体からの質問・意見に対する回答 Ⅱ」(以下「問答」という。)を配付し、問答の範囲をいわゆる「国民保護法制」までに拡大し、自治体の協力を得ようと努めているようである。
 しかしながら有事法制の成立を受け、住民・自治体の疑問はいよいよ深まるばかりであり、実際の「有事」(武力攻撃事態等)の有無は別として、これらの発動あるいはそれを想定した各種法制の新設、通達行政、訓練の実施等は、憲法・地方自治法・地方分権一括法等に定め、着実に前進してきた地方分権と住民自治を大きく後退させ、国民の基本的権利を「有事」の名で脅かすことになる。
 よって以下のとおり質問する。

一、法定受託事務の比重の増大について

 問答三三において、「国民保護法制に基づく事務は法定受託事務か」との問いに対し、「基本的に法定受託事務と位置付けられる」と答えている。
 しかし周知のとおり、右の事務は多数の自治体の事務にわたってくるため、法定受託事務の比率が激増し、先の地方分権改革により達成された「自治事務」化がほとんど意味をなさなくなる。すなわち、有事法制・国民保護法制自体が、長年の地方分権の努力に逆行し、地方分権推進法制に反して強大な中央集権の戦争遂行政府を作り上げ、自治体を再び国の「機関」の地位に陥れるものとなるのである。
 このように憲法・地方自治法・地方分権一括法の体系と全く相容れない戦時法制の体系を導入すること自体が、憲法上の疑義を生ずるのではないか。
 また仮に国民保護法制を制定するとしても、その定める事務は極力自治事務とし、中央統制によらず、それぞれの自治体の裁量により地域住民の安全を確保すべきではないのか。

二、国民の権利制限について

 問答三四において、武力攻撃事態対処法第三条による国民の権利制限について多岐にわたり説明している。これらのうち医療の提供、物資の売渡し、土地家屋の使用などに際する権利制限・強権発動の問題点は既に多く論じられているので、以下の点を問う。
1 回答中で、「原子炉等…に対する措置命令」とあるが「等」には何が含まれるか。放射性物質関連施設だけでなく、この規定が発電所、化学工場、燃料貯蔵施設など限りなく拡大解釈され、住民生活を幅広く規制するおそれはないか。
2 回答はそのほかの例として「付近にいる者にする負傷者の搬送などの協力要請」「警戒区域設定による立入制限」を挙げている。この協力要請等はだれがいつどのように発するのか。現場自衛官も要請権者に含まれるのか。
3 右要請や立入制限は、これを拒否する者に対し、自衛隊・警察による威嚇をもって従わせることができるとの解釈を含むのか。
4 権利の制限はいわゆる国民保護法制の本文で、明白かつ個別具体的に規定されなければならない。権利制限(指示・禁止・強制等)は文書により、指示等の権者、相手方、期間、補償請求権等を明記して交付すべきであると考えるが、どうか。

三、自治体の国民保護計画について 

 問答三六では、「国民(住民)の保護に関する計画」の作成がすべての自治体の義務かという問いに対し、回答が「必要であると考えます」と、あいまいである。自治体が住民とともに戦争の被害を回避する方策は右「保護計画」に限られるものではないので、「計画」は法定義務とすべきではないと考えるが、どうか。
 また、問答三九では右計画の条例化いかんについて政府が「検討中」とあるが、地方議会がこれを条例その他の議決事項とする権限は当然あるのであって、それを法で、長の専権(いわゆる狭義の行政計画)に留めるような規定はすべきでないと考えるが、どうか。

四、指定地方公共機関の指定について

 問答四一で、指定地方公共機関の指定については知事の判断による、と答えている。これによれば、知事が不要とすれば右指定は行われないこと、またその結果、都道府県が国等から不利な扱いを受けることはないことを、明らかにされたい。

五、知事による独自の避難指示について

 問答四六で、知事が独自に避難指示を行えるかとの問いに対し、国が最も多くの情報を有するゆえ、国が責任をもって判断するので、知事独自の判断による避難は想定していないと回答し、その一方で後段では、知事が避難指示区域を広げることや「市町村長による退避の指示」がある、と避難等の指示権者・権限に等級差を付けているが、これは言葉の違いだけで内容的な違いが不明である。「避難(の指示)」という用語に国の特別の権限を伴わせることを意図しているためだと推察するが、どのような権限か。また、問答四七で避難を拒否する国民に対して避難指示は警察官職務執行法による強制力があるとしているが、このほか具体的にどのような権限行使の態様が想定されるか。
 さらにこのような避難(等)の指示は地域の状況、資源等に精通した知事・市町村長等が第一義的に行う方が効果的で結局住民の安全に資すると思うが、なぜ国の専権事項とする必要があるのか。

六、避難に関し都道府県知事間の対立について

 問答四八で、都道府県域を越える避難を国が指示した後、避難先と避難元の知事間で対立し、受入れ要請を受入れ側知事が拒否した場合は、内閣総理大臣が是正措置を講ずるとしている。しかし、このような上からの対処では、現実に両都道府県住民の間の紛争に自衛隊・警察等による整理(実力行使)を導入するおそれなど、事態を一層悪化させるおそれがある。住民避難のようなデリケートな都道府県間の調整は、両当事者の連携協調による解決を旨とすべきではないのか。

七、都道府県間の応援体制の調整について

 問答五五において、避難住民を受入れた側の都道府県知事が応援を求め、ほかの知事がそれを拒否するおそれを想定し、この場合求められた知事は応援を拒んではならない、としている。この求められた知事とは、送り出す側の知事のみを指すのか、第三者、例えば近隣の都道府県の知事をも含むのか。
 これは前出六と同様、住民に責任を持つ知事相互の連携協調によって解決すべき課題であって、法による強制をすべきものではないと考えるが、どうか。

八、臨時の医療施設の設置について

 問答五六で臨時の医療施設の開設につき、「知事による土地や建物の一時使用」という形で行う旨説明している。これは国等がその医療施設を開設するが、そのための土地建物の借上げ等は知事に担当させるという意味か。
 またその際、知事が不適当と判断して国等に提供をしない場合、国等と知事との間には、予定される新法規上どのような関係が生ずるか。それは陣地構築等のための民有地等の使用とどのように異なるのか。
 このような医療施設は、被災住民への医療提供を任務とすべきであり、国の統制によらず知事の判断及び運営による設置こそが適していると考えるがどうか。

  右質問する。