質問主意書

第156回国会(常会)

質問主意書


質問第四六号

鍼灸マッサージ医療に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十五年七月二十五日

平 野 貞 夫   


       参議院議長 倉 田 寛 之 殿



   鍼灸マッサージ医療に関する質問主意書

 鍼灸マッサージは、我が国の伝統医療として千年にわたり国民の医療として支持され、民族の財産でもある。近代医学の導入により医療行政から排除的取扱いを受け、制度上十分な位置付けがなされないままになっている。近時、人間の心身にわたる総合的医療として東洋医学が世界的に見直される中で、鍼灸マッサージの効用が高く評価されている。しかしながら、我が国医療行政における鍼灸マッサージとほかの医療との差別は大きく、国民の健康管理の上からも看過できない。
 まず、国民が、健康保険で鍼灸マッサージ治療を受けようとするとき、法律ではない裁量権の下に発せられた団体協定禁止の通知により、国民と施術者との間の支払制度の確立を阻んでいる。患者は、毎回治療費を十割支払い、後からまとめて保険者に請求しなければならず、国民・患者にとって金銭的負担、煩瑣な手続等、負担が大きい。
 一方、柔道整復師には、昭和十一年から保険給付金受領委任協定を認めている。受領委任制度は、患者は保険負担割合の三割を支払い、残りの七割は、医療提供者と保険者が直接授受する制度で、国民の利便性を図り、健康回復に資するものである。国は、鍼灸マッサージ師に対しては、理由付けもない通知で、この協定による受領委任制度導入を、禁止している。近時、介護保険でも受領委任は一般的であるが、鍼灸マッサージ師に対しては、いまだに解除されていない。
 さらに、保険による鍼灸治療では、健康保険法、健康保険法施行規則、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律に定めのない、裁量権による要求である同意書の添付が求められている。つまり、保険医療機関の医師による、鍼灸治療を受けるのに賛成という旨の同意書の添付を要求されることである。しかしながら、西洋医学を修めた医師にとっては、専門外の東洋医学による治療の適否の判断を求められても躊躇し、一部の医師は、知らないことについて判断できないと、同意書の発行に否定的な回答をする場合もある。
 ついては、実態の確認と改善のため、次の点について質問する。

一、鍼灸マッサージ師と保険者が、被保険者の利便性のため協定を結ぶことは、民法上の契約関係である。契約関係を完全に成し得ない成年被後見人等でない限り、規制を受ける理由はなく、もちろん、健康保険法に抵触してもいない。何を法的根拠に、鍼灸マッサージ師と保険者の協定を禁止しているのか、明らかにされたい。

二、療養費の支給対象疾患については、昭和四十二年九月十八日保発第三十二号及び平成八年五月二十四日保発第六十四号で「はり及びきゆうに係る施術の療養費の支給対象となる疾病は通知でいう慢性病であるが、これらの疾病については慢性期に至らないものであっても差し支えないものであること。」と指導しながら、「医師による適当な治療手段のないもの」と限定している。それらの療養費の支給対象疾患とされているのは、神経痛、リウマチ、頸腕症候群、五十肩、腰痛症、頸椎捻挫後遺症等の疾患と定めている。通知に従って、医師が同意書を発行するには、医師自身が、これらの対象疾患に対して適当な治療手段が無いことを患者に告げた上で、同意しなければならない。これらのことは、通知でいう疾患に対して「適当な治療手段が無い」と言明している医師が存在しなければ、この通知は意味の無い指導と認識できる。医師自身が適当な治療手段が無いと言明し、若しくは、治療しても効果は期待できないと言明している医師が、平成十四年七月一日から平成十五年六月三十日までの一年間で何人いるのか、明らかにされたい。

三、日本医師会は、平成二十七年までに自立投資という方式で、病院等での鍼灸治療を目指していることを表明した。また、わずか四年間に鍼灸師を養成する専門学校等の定員が約六倍に急増している。こうした状況の中で、既に多くの病院等で鍼灸治療が実態として行われており、今後、病院等で行われる鍼灸治療の急増が予測される。そのため、鍼灸治療を健康保険で受けようとした場合、開業している鍼灸師と病院で実施される鍼灸治療との間に、保険の取扱いの格差を生じさせないことが必要である。
 あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律第五条及び柔道整復師法第十七条では、あん摩マッサージ指圧師と柔道整復師は「医師の同意を得た場合の外、脱臼又は骨折の患部に施術をしてはならない。」と同意を要する規定がある。鍼灸師は、医師の同意を義務付けられていないが、健康保険法の療養費取扱手続上の通知により、同意書の添付義務を課せられている。
 仮に、医師が同意書の発行を拒否し、病院等での鍼灸治療を患者に勧めた場合、患者は、健康保険による開業鍼灸師の治療を受けることが事実上不可能となる。既に実態として行われている病院等での鍼灸治療と開業鍼灸師の保険取扱いをどのように考えているか、医師の同意書の添付による不公平の是正ついて見解を示されたい。

四、患者が、療養費支給要件にかかわる鍼灸治療の同意書の発行を求めたところ、近隣のすべての医師より、熟知していない範疇である東洋医学による治療の適否の判断をできないと断られた場合、患者は、どのようにしたら健康保険による鍼灸治療を受けられるのか、具体的に明らかにされたい。

五、平成十五年六月二十四日、平成十二年(ワ)第百十二号鍼灸師マッサージ師差別国家賠償等請求事件に関して、千葉地方裁判所において、秋田県より昭和二十五年一月十九日保発第四号(按摩、鍼灸術にかかる健康保険の療養費について)の副本が提出され、被告の国側は、副本内容が原本内容と同一であると回答している。原本の内容は副本の内容と一致しているか、改めて明らかにされたい。

六、『療養費の支給基準』(社会保険研究所発行。以下「基準書」という。)は、保険者が療養費の支給判断に当たり判断根拠としている書物である。同じ日付同じ番号の「昭和二十五年一月十九日保発第四号」通知が、平成十四年版以前の基準書に記載されている通知、平成十五年版基準書に記載されている通知、千葉地方裁判所において明らかになった通知の合計三つが存在する。なぜ三つの同名通知が併存しているのか、明らかにされたい。

七、平成十五年版基準書に記載されている保発第四号の文言中、「標記については療術業者の団体と契約の下に、これを積極的に支給する向もあるやに聞き及んでいるが本件については従前通り御取り扱いを願いたい。従って、この施術に基いて療養費の請求をなす場合においては、緊急その他真に已むを得ない場合を除いては、すべて医師の同意書を添附する等、医師の同意があつたことを確認するに足る証憑を添えるよう指導することとして、その支給の適正を期することと致されたい。」を、平成十四年版以前の基準書に記載されている保発第四号の文言中、「施術業者の団体と協定して、あんま・はり灸の療養費を積極的に支給する向きもあるやに聞き及んでいるが、施術業者と協定のうえ、療養費の支給をあたかも現物給付のごとく取り扱うことは認められない。この施術に基づいて療養費の請求をなす場合においては、緊急その他真に已むを得ない場合を除いては、すべて医師の同意書を添付する等、医師の同意があったことを確認するに足る証憑を添えるよう指導することとして、その支給の適正を期すること。」と、内容変更して表示されていた理由を、明らかにされたい。

八、平成十五年版基準書に記載されている保発第四号の文言中、「標記については療術業者の団体と契約の下に、これを積極的に支給する向もあるやに聞き及んでいるが」と明記されているが、昭和二十三年度、二十四年度、二十五年度及び二十六年度の医療費総額とあん摩・はり・きゅうの療養費総額を明らかにされたい。

九、平成十五年版基準書に記載されている保発第四号の文言中「本件については従前通り御取り扱いを願いたい」の「従前通り」とは、どのような取決め、規則、通知等があったのか、具体的に示されたい。

十、平成十五年版基準書において、「施術業者」の文言を「療術業者」に変えたのはなぜか、明らかにされたい。

十一、「療術業者」について、「いわゆる無届医業類似行為業に関する最高裁判所の判決について」(昭和三五年三月三〇日 医発第二四七号の一各都道府県知事あて厚生省医務局長通知)において、次のとおり記載されている。
 「本年一月二十七日に別紙のとおり、いわゆる無届医業類似行為業に関する最高裁判所の判決があり、これに関し都道府県において医業類似行為業の取扱いに疑義が生じているやに聞き及んでいるが、この判決に対する当局の見解は、左記のとおりであるから通知する。
          記
1 この判決は、医業類似行為業、すなわち、手技、温熱、電気、光線、刺戟等の療術行為業について判示したものであって、あん摩、はり、きゅう及び柔道整復の業に関しては判断していないものであるから、あん摩、はり、きゅう及び柔道整復を無免許で業として行なえば、その事実をもってあん摩師等法第一条及び第十四条第一号の規定により処罰の対象となるものであると解されること。従って、無免許あん摩師等の取締りの方針は、従来どおりであること。なお、無届の医業類似行為業者の行なう施術には、医師法違反にわたるおそれのあるものもあるので注意すること。」
 この通知から判断すれば、「療術業者」とは、昭和二十三年一月一日施行「あん摩、はり、きゆう、柔道整復等営業法」を根拠としての見解と理解してよいか。

十二、保発第四号原本通知内容を知りながら、平成十四年版まで原本内容とは違う文言を基準書に記載して、国民、保険者及び鍼灸マッサージ師を指導してきた責任の所在はどこにあるのか、明らかにされたい。

十三、近年、無資格者が、あん摩マッサージ指圧という標示を避け、あん摩マッサージ指圧師の独占業務である、もむ、さする、たたく、おす、という業を反復して営業している。無資格者の取締りを、具体的にどのように講じているのか、示されたい。

  右質問する。