質問主意書

第156回国会(常会)

質問主意書


質問第三六号

医薬品販売の規制緩和の危険性に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十五年六月十六日

又市 征治   


       参議院議長 倉田 寛之 殿



   医薬品販売の規制緩和の危険性に関する質問主意書

 本件については去る二〇〇一年一〇月二二日に行政監視委員会で質問したところ、厚生労働省より、「医薬品は薬局の開設者や薬事法に基づく販売業の許可を得た者でなければ販売等をできない。一般小売店で販売することはできない。医薬品は国民の健康や生命に直接かかわるものであり、また過量使用とか副作用のおそれがある。専門的知識を有する薬剤師等の管理のもとで使用されるべきものであり、一般小売店で医薬品を販売することは認められないと従来より主張している。今後とも国民の安全性を第一に、医薬品が適切に国民に提供されるよう、安易に取り扱われることがなきよう、業務に取り組んでいく」旨の答弁を得ているところである。
 しかし政府の総合規制改革会議は今年になって再び「医薬品の一般小売店における販売」を、小泉首相と経済財政諮問会議に迫っている。
 もしこれが実施されると、後述のように国民生活の安全に大きな脅威となるので、以下のとおり質問する。

一、薬事専門家不在の規制緩和論議について

 厚生労働省は前記答弁にもあるとおり、医薬品は、過量使用・副作用のおそれがあるため、薬剤師が常駐して対面で服薬指導を行える薬店などでしか販売してはならないとしてきた。
 ところが総合規制改革会議のアクションプラン実行ワーキンググループは、「一般の薬店、ドラッグストア等で対面指導されている実態は乏しい。消費者ニーズに対応するためにも危険性の低い医薬品については販売可能とすべきだ」と、規制緩和の方向へまとめようとしている。
 しかしここに至る同グループでの論議の経過を聞くと、専門外の委員ばかりの間で多くの誤解や早飲み込みがあって「自由化」が急がれていると思われる。例えば宮内義彦同グループ主査(オリックス(株)代表取締役会長)は、「事故を防ぐよりも医薬品をよく利用してもらうことの方が重要なのかも分からないという感じで聞いていた。」旨述べている。
 同じく鈴木良男副主査((株)旭リサーチセンター代表取締役社長)は、「医薬品の中で、作用・効果の非常に大きなものは特殊な商品だろう。そうした商品と例えば、うがい薬あるいは非常に副作用の軽微なかぜ薬、目薬のたぐいといったこの二つを区別して考えなくてはいけない。医薬品といったら、もう一つの商品だ。これらは生命、身体にかかわるから別だというとらえ方は、現実的ではないと思う。薬を薬として、売らせるべきだと思う。したがって、いかに軽微なものでも、多少の副作用はあるかもしれないと、国民に伝えた上で、売るべきだと私は思う。」旨発言している。
 これらの発言は、医薬品の一面の危険性を認識せず、単なる商品に分類し、「消費者の利便性」を盾に、売上増のため一般小売店での販売を可能にしようとしているのにすぎない。
 この方向性を出した総合規制改革会議の一五人の委員のうち、一〇人が産業界代表、五人が学識者であり、薬事の専門家が一人もいない。委員の構成を改善すべきではないか。

二、市販薬による薬害の実態について

 現に市販の医薬品について、今年五月三一日の新聞各紙は、一九九八年以降一八のかぜ薬で二六人の間質性肺炎の発症が判明したとし、市販の軽微なかぜ薬であるパブロンゴールド錠、エスタックイブ、ストナプラス2、新ルルエース、コンタック総合感冒薬、新ジキニン顆粒、ベンザブロックなど四二のかぜ薬の製造元一五社に対し、厚生労働省が、「間質性肺炎の副作用が起きるおそれあり」として、使用上の注意を改訂するとともに、薬局等に速やかに情報提供し、消費者に注意を喚起するよう呼び掛けたことを報じている。
 最近では、鼻炎やかぜ薬の成分PPA(フェニルプロパノールアミン)の副作用、かぜ薬、解熱鎮痛剤とスティーブンス・ジョンソン症候群、ライエル症候群の関係、さらに解熱鎮痛剤とインフルエンザ脳症の関係、咳止めシロップ、咳止め薬の多用による覚醒事件、過去にはアンプルかぜ薬の多用による死亡も相次いでおり、これらはすべて市販の軽微なかぜ薬で起きている。
 目薬についても、総合規制改革会議のメンバーは、副作用が軽微だから売るべきだと主張しているが、充血を取る成分ナファゾリンが多用され、血管の膨張を招き、まぶたが開かなくなる事件もあった。
 うがい、洗眼に使用されたホウ酸は、一九六〇年代に子供のホウ酸中毒を起こし、現在は眼科での洗浄のみに使われている。同じくうがいに使われるイソジンの頻回使用は、ヨウ素アレルギー、甲状腺障害、耳下腺炎の副作用を起こすことが判明している。
 市販の乗り物酔い止め、鎮咳去痰薬、禁煙補助剤では、テオフィリン、アミノフィリンの血中濃度上昇に伴い、心室性細動、心室性頻脈、心停止などの循環器症状、興奮、けいれん、昏睡などの中枢神経症状、嘔吐、吐き気、心窩部痛などの消化器症状、その他電解質異常、横紋筋融解症、呼吸促進等中毒症状が発現しやすくなり、急に重篤な症状が発現することがある。
 正露丸等の胃腸薬についても肝機能障害の報告がある。胃腸薬のロートエキス剤は緑内障等重篤な症状が悪化する。
 店頭で山積みのパップ剤成分のインドメタシンは使用上の注意を守らないと副作用が起こりやすく、一一歳未満は使用してはならないことになっている。
 このように、たとえ軽微なかぜ薬、目薬のたぐいでも重篤な副作用のあることは前述のとおりである。医薬品を一般商品と考え、売れることを優先する産業界主導の不適切な規制緩和は国民の健康に重大な薬害被害を与えることは目に見えている。
 国は規制緩和の前に、このような不適切な医薬品使用の危険な実態についてもっと広報し、薬剤師その他による適切な販売管理を徹底すべきではないか。

三、立入検査結果について

 総合規制改革会議の八代委員((社)日本経済研究センター理事長)は、「厚生労働省の検査によれば薬局に薬剤師がいない場合がある。これは当たり前であって実効性のない規制に基づく指導を強化しているわけだが、消費者の利便性を考えているのかお聞きしたい。」旨述べて、危険な違反実態をむしろ是認している。
 しかしながら薬事法に基づく医薬品の販売等に関する諸規制は、医薬品の品質、有効性及び安全性を確保し、国民の生命、健康を守るために必要不可欠な社会規制であり、経済的規制ではない。
 「ドラッグストア等一般販売業に薬剤師が不在で薬を売られているから、規制緩和して、医薬品をどこでも売れるようにしよう」という理論は、「法律を守らないものが多いから守らない人に合わせよう」という法治国家では通用しない理論である。
 一九九八年、首都圏でチェーン展開のドラッグストア等一般販売業を立入検査した折、薬局でさえ九・一%、一般販売業では実に三一・四%で薬剤師が不在であった。一九九九年の全国一斉監視では若干減って、薬局の三・四%、一般販売業の二二・八%で薬剤師が不在であった。二〇〇〇年は、全国では、薬局二・六%、一般販売業一九・一%と承知しているが、二〇〇一年、二〇〇二年の立入検査の実態はどうだったか。

四、行政監視について

 二〇〇一年一〇月二二日参議院行政監視委員会で、片山総務大臣も「薬というのはこれは大変特殊な製品でございますので、対面の指導その他、今も薬剤師さんを各薬局に置いてちゃんと管理させろと、こういうお話がございましたが、私もかなり同感の部分がございますので、今後の行政監視・評価等につきましては、御指摘の点を踏まえて対応してまいりたい」と答えている。
 末端の薬事監視員は、「総合規制改革会議のやり方、言い分を聞いていると監視が非常にやりにくい」と言っている。総務省としても、対面指導販売が行われているかどうか、国民・消費者の立場に立った行政監視・評価を続けているのか。

五、わが国独特の販売・指導システムの活用について

 日本は第三次薬物乱用期にあり、なかなか終息しないものの、先進国の中の薬物乱用比較は、アメリカ約四〇%、ヨーロッパ約二〇%に比べ日本が約一%で、先進国の中、唯一成功を収めている。その理由の一つに、江戸元禄のころより三百年来、全国津々浦々ヒューマンな「先用後利」の福祉的精神で医薬品を供給した医薬品配置販売(これは世界大衆薬会議で世界に冠たるシステムを絶賛された)、二百年来の薬種商・特例販売業、明治より百年来の薬剤師制度等が、きめ細かな医薬品供給システムを構築し、安易に快楽を求める風習を定着させなかったことや、薬事法による薬事行政及び薬物取締法による強力な取締りが、功を奏したことが挙げられる。
 加えて現在、全国二万人の薬物乱用防止推進委員制度による官民一体となった国民一人一人への啓発活動が挙げられる。薬物乱用防止推進メンバー八団体のうち、薬剤師会、薬種商協会及び医薬品配置協会は、重要な構成員として働いてきた。地域においても対面指導をし、ヒューマンエラーを無くすよう生涯学習制度を取り入れ、研修制度を実施し、薬害を出さないよう努力している。
 他方、若者の間では、アメリカ等のドラッグ社会の影響から、薬物に対する認識不足は拡大している。医薬品の一般店での販売を可能にし、放置すれば、薬物乱用はたちまちヨーロッパ、アメリカ並みに近づくであろう。折しも六月二六日は「国際麻薬乱用撲滅デー」で、テーマは「薬物乱用とエイズの撲滅」であり、小泉首相は、薬物乱用対策推進本部長でもある。
 わが国における医薬品事故の予防と、薬物乱用の歯止めには、このようにきめ細かな医薬品流通網が国民の健康と安全を守ってきた実績を評価し、活用すべきであると考えるが、いかがか。

六、医薬部外品指定について

 医薬品の販売許可制度は、人の命と健康を守るための大切な規制であり、一般の経済活動を制限するものではない。医薬品は必ず副作用が存在するので、専門知識を有する薬剤師等の関与の下で提供されるべきであり、国民の生命、健康の保護を第一に、利便性は第二と考えるべきである。
 そこで、医薬品をよく審査し、作用の緩和なものは医薬部外品に指定してコンビニ等の一般小売店でも売れるようにするという、一九九八年三月一二日の中央薬事審議会の判断は、専門家として正しいと思うがどうか。
 また、専門家により構成される新指定医薬部外品検討会を活用し、作用の緩和なものについては、医薬部外品に移行することにより、一般小売店での販売に対応すべきと考えるがいかがか。

七、危険かつ違反である販売方法の「緩和」について

 現在まで、チェーン展開する大型店による薬剤師不在の医薬品販売や、都市型事業所中心の不特定多数販売を行う配置販売は、違反であるにもかかわらず売上げ至上主義で一世を風靡してきた。それを見た産業界等のメンバーが規制改革を旗印に参入しようとしているのが、今回の規制緩和論の実態である。これは消費者にとって危険であると同時に、まじめな薬業人にとっては、廃業・倒産し(自殺者もでている)、一般大企業等の軍門に降るほかない生業の危機である。
 コンビニなど一部大手流通業者による、よく売れる薬のみを置き、知識や資格の無いアルバイトなどに売らせる、利益追求のみで危険な、利用者不在の規制緩和は、許されるべきではないと考えるがいかがか。

  右質問する。