質問主意書

第156回国会(常会)

質問主意書


質問第一二号

電磁波問題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十五年三月四日

櫻井 充   


       参議院議長 倉田 寛之 殿



   電磁波問題に関する質問主意書

 電気や通信は人類に発展をもたらしたが、それと同時に、体に影響を及ぼすおそれのある電磁波の問題が懸念されるようになった。この問題は欧米では二十一世紀の公害と言われるほど関心の高い環境問題となっている。
 近年、電磁波についての研究が進み、それが発がん可能性を持っていることが指摘されたり、携帯電話から発せられるものについては脳に対する影響があるのではないかとする研究が幾つも出てきている。
 また、実際に我々の生活においても、電磁波によって健康被害を受けるというケースが頻発するようになってきている。例えば、携帯電話中継所や送電線からは二十四時間電磁波が照射されるため、業者と周辺住民との間に紛争が頻発している。
 このようにして、電磁波については、まだ人体に対する影響が解明されたわけではないが、その与える危険性が排除されない現在、国民の安全を守るために予防原則の立場に立って対策を講じていくしかない。
 そこで、以下質問する。

一 WHO(世界保健機関)内の機関であるIARC(国際がん研究機関)が二〇〇一年六月に十か国二十一名の専門評価ワーキンググループの採決で、日本で一般的に使われる電気の周波数である五十、六十ヘルツの極低周波(超低周波)の磁場を、ヒトに対して発がん可能性がある「2B」に分類したが、これに対する政府の見解を示されたい。

二 一で述べた「2B」は発がん可能性三十パーセントのランクであり、クロロフォルム、鉛、DDTなど二百三十一種の物質が入っている分類だが、このことは、電磁波が人体に対してかなりの程度で問題であることをWHOが認めたものと解釈すべきものと考えるが、これに対する政府の見解を示されたい。

三 WHOが極低周波の磁場を「2B」とした背景には、英国やオランダが、〇・三~〇・四マイクロテスラで小児白血病のリスクが二倍になる、という疫学調査分析評価、特に、二〇〇一年三月に、英国のNRPB(放射線防護局)内に設置されたAGNIR(非電離放射線諮問小委員会)が発表した報告書の影響があったと言われている。極低周波の磁場による影響には疫学調査が有効と思われるが、政府はこの有効性についてどのように考えているか。

四 二〇〇三年一月に、文部科学省は、「平成十四年度科学技術振興調整費中間・事後評価報告書」を発表した。その中に、「生活環境中電磁界における小児の健康リスク評価に関する研究」があるが、そこにおける「研究への評価」と「研究成果の概要」では内容がちぐはぐである。つまり、前者では「総合評価」「目標達成度」「研究成果」等すべての評価項目で、a・b・c三段階評価中最低のcが付けられた。ところが、後者では、本疫学調査の解析対象者は「症例約三百十例」「対照者約六百例」で調査サイズは世界で三番目の規模となっており、「得られたデータは、これまでの疫学調査の結果と比較して安定した解析結果が得られていることが直接間接に確認されている。それらの結果については、現在国際雑誌に投稿中である」としている。このことによれば、当研究の主要な成果の一つである「〇・四マイクロテスラ以上の磁場曝露で小児白血病発症のリスクは二倍以上」であるというのは有効と解釈すべきことになるが、これに対する政府の見解を示されたい。また、この報告書の評価の仕方や評価メンバーに問題があったのではないか。

五 日本国内において、送電線や変電所や各種極低周波磁場発生源周辺の学校・幼稚園など子供の居住環境で、〇・四マイクロテスラ以上ある箇所を調査すべきではないか。

六 二〇〇一年十月、WHOは「ファクトシートN-263」の発表を行ったが、この中で、幾つかの国の政府や産業界が採っている電磁波対策を紹介している。そこでは、国や産業界については、「電磁波曝露低減のための安全で低コストな方法を提供すべき」とし、個人については、「特定の電気器具の使用を最小限に止めるとか、比較的高い電磁波を出す発生源から距離をとることで曝露低減のための選択をすることができる」、といった「予防対策」を例示している。また、「送電線の新設の際は地方自治体・産業界・住民が協議する」ことも紹介している。これらはあくまで「推奨」であり、「強制力」は無いが、電磁波が国際的に問題になっている今日、日本政府としてもこのような方策を検討すべきではないか。

七 携帯電話では、マイクロ波と呼ばれる高周波が使用されるが、これについて、二〇〇〇年五月に英国政府の委嘱を受けた「携帯電話に関する独立専門委員会(座長ウィリアム・スチュワート)」が勧告を行った。そこでは、頭蓋骨が発達途上の子供の脳への携帯電話の影響を考慮し、十六歳未満の子供の携帯電話使用抑制と、子供への携帯電話販売の自粛などが勧告されている。英国政府は、パンフレットを学校に配布したり、七百四十万ポンド(約十三億円)の資金で携帯電話の健康影響調査に乗り出している。日本でも子供への影響を考え、英国並みの対策を行うべきではないか。

八 携帯電話での高周波については、頭部へのSAR(エネルギー吸収比)値が問題となるが、個々の携帯電話機種ごとにSAR値を公表し、説明書に明記することで使用者に周知させるよう国として指導を行うべきではないか。また、SAR値の高い機種には警告を出し、SAR値が低い機種を推奨すべきではないか。

九 送電線や携帯電話の中継基地局建設をめぐって、全国各地で電力会社あるいは携帯電話会社と周辺住民との間で紛争が頻発しているが、現在までに何件紛争が発生し、そのうち何件が解決済みで、何件が係争中か示されたい。

十 紛争が発生する要因は、人体への影響が指摘される電磁波を二十四時間漏洩ないし照射する送電線や携帯電話の基地局を、周辺住民への事前説明も無く突然設置するところにある。最低限、そうした施設を建設する前に周辺住民に説明することを義務付けるべきではないか。

十一 前述した「ファクトシートN-263」では、「送配電線の設置の決定にはしばしば景観や住民感情に配慮することが求められる」との紹介がなされている。送電線や配電線や変電所の設置の際に、日本でも景観や住民感情に配慮することが求められるべきと考えるが政府としてはどう考えるか。また、同様に、携帯電話中継基地局や電波塔についても建設に当たって景観や住民感情に配慮すべきではないのか。

十二 日本では、電磁波の人体への影響のうち、「刺激作用」と「熱作用」といった急性影響作用しか問題にしてこなかったが、現在世界的に問題視されているのは微弱だが長期間被曝することで人体に何らかの影響(作用)をもたらすおそれのある電磁波の「非熱作用(nonthermaleffects)」についてである。今後、非熱作用について政府として研究検討する考えはあるのか。

十三 電磁波のように、人体にどれほどの影響を与えるか解明されていないものの対策として予防原則というものがある。WHOの「国際EMF(電磁波)プロジェクト」が二月二十四日から二十六日までルクセンブルクで開かれているのも、電磁波対策に予防原則を適用すべきかどうかを議論するためである。日本でも早急に予防原則についての議論を行い、それを確立する必要があると思うが政府の見解を示されたい。

十四 WHOは極低周波については二〇〇三年、高周波については二〇〇六年に新しい環境保健基準(クライテリア)を作ろうと現在検討を重ねている。日本がこの流れに乗り遅れないためにも、予防原則や非熱作用を視野に入れた対策を始めるべきだと思うが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。