質問主意書

第155回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第四号

内閣参質一五五第四号
  平成十五年二月十四日
内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 倉田 寛之 殿

参議院議員中村敦夫君提出黒部川水系の治水と砂防に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員中村敦夫君提出黒部川水系の治水と砂防に関する質問に対する答弁書

一の1について

 国土交通省北陸地方整備局(旧建設省北陸地方建設局。以下「北陸地方整備局」という。)及び富山県が策定した黒部川渓流環境整備計画基本計画(以下「基本計画」という。)において、お尋ねの「下廊下・十字峡地区」は、「高山帯植生、オオシラビソ、ダケカンバ、コメツガなどの亜高山帯植生、ブナ林等の山地帯植生が広く分布している。また、中部山岳国立公園に指定され、特別保護地区が大きく広がっている。このような自然を背景に学術的・法的に貴重な動植物が生息し、自然度がかなり高い区域である。北アルプスの大自然のもと一部に登山道が整備され、十字峡、S字峡、下廊下などの景観を求めて登山者が訪れる。また、観光シーズンには黒部ダムを拠点として多くの人々が訪れる。」という共通の特性を有していることから、「優れた自然、山岳美・峡谷美を保全する」ことを基本理念とする「Aゾーン」として設定されたものである。

一の2について

 基本計画において、お尋ねの「サンナビキ・嘉ヶ堂谷地区」は、「ブナの原生林のほか、ツガ、ネズコなどの針葉樹が混交する天然林が分布し、中部山岳国立公園の特別地域に指定されている。登山道や山小屋などは整備されておらず、利用度の少ない区域であるが、トロッコ電車から眺めた黒部峡谷の景観美が訪れた人々の目を楽しませてくれる。」という共通の特性を有していることから、「景観に配慮し、豊かな自然環境を保全する」ことを基本理念とする「Bゾーン」として設定されたものである。

一の3について

 基本計画において、お尋ねの「小黒部・黒薙・祖母谷地区」は、「日本を代表する高山帯植生群をはじめ、オオシラビソ、コメツガなどの亜高山帯植生、その下部にはブナ林や落葉広葉樹とネズコ、ツガなどの針葉樹が混交する原生林が広く分布している。また、中部山岳国立公園特別地域に指定されている。このような自然を背景に学術的・法的に貴重な動植物が生息し、景観資源も多く、自然度がかなり高い区域である。また、尾根沿いには登山道が分布し、シーズンになると登山者など自然を求める人々が行き来する。反面、荒廃状況が著しく、崩壊地が数多く分布する。過去に土砂災害を引き起こした渓流が位置し、土砂災害ポテンシャルがかなり高い区域である。」という共通の特性を有していることから、「豊かな自然環境と砂防事業の共生・調和を図る」ことを基本理念とする「Cゾーン」として設定されたものである。

一の4について

 基本計画において、お尋ねの「宇奈月温泉周辺地区」は、「コナラを優占種とする二次林のほか、トチノキ林が分布し、古くから人々の生活と自然が共存してきた地域で、貴重な動植物も生息しており、多様性のある里山的な風景を有している。宇奈月温泉街を中心とした観光地であり、黒部峡谷探勝への入り口であり、黒部川流域の地域産業・生活の基盤をなす区域である。一方で、過去に幾度となく土砂災害や洪水氾濫などの災害に見舞われている。黒部川内水面漁業協同組合によってアユをはじめ、数種類の魚類の放流が盛んに行われている。また、下流域では河川敷が想影公園などの河川公園に利用されているところもあり、河原利用が可能な場所も多くみられる。」という共通の特性を有していることから、「地域の拠点・宇奈月温泉街を災害から守る」こと及び「黒部川下流域に広がる河川空間を創造・利用する」ことを基本理念とする「Dゾーン」として設定されたものである。

一の5について

 基本計画における環境ゾーンの設定に際しては、平成七年から平成十年までの間、北陸地方整備局黒部工事事務所(以下「黒部工事事務所」という。)が、植物、動物、景観等に関する環境調査を実施したところであり、当該調査の詳細については、基本計画の中で明らかにされている。なお、基本計画については、黒部工事事務所等のホームページへの掲載等により公表することとしたい。

一の6について

 お尋ねの「それぞれのゾーンにおける土砂流出対策」については、現在、「Cゾーン」及び「Dゾーン」において砂防えん堤等の整備を実施しているが、「Aゾーン」及び「Bゾーン」においては対策を実施していない。また、それぞれのゾーンにおける今後の対策については、現在のところ未定である。今後とも、砂防事業の実施に当たり、それぞれのゾーンにおいて掲げている基本理念を踏まえ、合理的かつ効果的に土砂を処理するよう必要な措置を講ずることとしている。
 また、基本計画は、砂防事業の実施に当たっての渓流の自然環境等の保全、創造等に関する基本理念等を定める計画であり、個別の砂防設備の整備に関する計画ではないため、お尋ねの「それぞれのゾーンの最下流域における計画生産土砂量及び計画流出土砂量」は、算出していない。

二の1について

 一級河川黒部川水系黒薙川においては、現時点で砂防えん堤四基が完成し、一基が施工中であるが、今後建設する予定の砂防えん堤について、その計画地点を特定する具体的な計画は有していない。

二の2について

 平成八年十月に黒部工事事務所及び富山県が公表した「第9次治水事業五箇年計画の要望主要プロジェクト」において記載されている「柳又谷砂防ダム群第一号砂防ダム」は、黒部工事事務所及び富山県の要望主要事業の一つとして同資料に示されたものであるが、現時点においては、御指摘の「黒部川水系黒薙川に関する資料」において回答したとおり、当該事業についての具体的な計画はない。

二の3について

 お尋ねの「柳又谷及び北又谷一帯」を砂防指定地としている事実はない。

三の1について

 黒薙ダムは、実施計画調査の段階に至っておらず、事業化されていない。

三の2について

 現在、護岸、根固めの施工等、黒部川水系工事実施基本計画に記載されている治水対策を着実に実施しているところであるが、同計画全体の実現の見込み年度は未定である。

三の3について

 平成七年十月十三日に開催された宇奈月ダム事業審議委員会(以下「審議委員会」という。)に、その事務局である北陸地方整備局が提出した資料においては、黒薙ダムの事業の段階に関し、「予備調査中」と記載しており、実施計画調査の段階に至っていないことを示している。

三の4について

 一般的に、水力発電所における発電量は、ダムの利用形態、河川の流況、水力発電所の位置等により変動するものであるため、一概にダムの規模との比較だけで発電量の多寡を評価することは適当ではなく、関西電力株式会社(以下「関西電力」という。)宇奈月発電所について、「ダムの規模に比べて発電量が小さい」との御指摘は当たらないと考える。
 また、関西電力に聴いたところ、平成十三年四月一日から平成十四年十月三十一日までの同発電所における日ごとの発電実績は、別表のとおりである。

三の5及び6について

 宇奈月ダムは、洪水調節による黒部川水系の洪水防御、新川広域圏(魚津市、黒部市、宇奈月町、入善町及び朝日町の二市三町をいう。以下同じ。)に対する水道用水の供給及び発電を目的とする多目的ダムとして、平成十三年度から運用管理を開始している。
 水道事業を実施する富山県からは、審議委員会に対し、宇奈月ダムは是非必要であるとの新川広域圏からの意見を踏まえ水道事業について変更する必要があるとは考えていない旨回答がなされ、これを踏まえて、審議委員会から、宇奈月ダムをできるだけ早期に完成することが妥当であるとの提言がなされた。その後、国土交通大臣は、特定多目的ダム法(昭和三十二年法律第三十五号)第十五条第一項に基づいて、申請者の富山県の意向を踏まえ、水道用水の供給を目的とする宇奈月ダムのダム使用権を富山県に対し平成十三年四月一日付けで設定している。
 また、発電については、宇奈月ダムからの放流水を使用する関西電力宇奈月発電所が平成十二年五月十七日から運転を開始するとともに、関西電力新柳河原発電所では平成十二年六月二十二日から宇奈月ダム貯水池を逆調整池として使用している。
 このように、宇奈月ダムにおいて、水道用水の供給及び発電を目的とする利水容量が必要とされていることから、御指摘のように、「宇奈月ダムの利水容量を治水容量に転用すること」はできないと考える。
 なお、宇奈月ダムの排砂ゲートは、貯水池にたまった土砂を流水と共にダム下流に排出する際に開放するものであり、御指摘のように、これを常時開放することは、同ダムの洪水調節等を目的とした操作をする上で考えられないため、排砂ゲートを常時開放とした場合の同ダムの洪水調節効果を算定することはできないと考える。

四の1について

 黒部川水系に係る河川整備基本方針及び河川整備計画については、現在、必要な調査、その結果の分析等を行っているところであり、これらの調査等を踏まえて策定することとしている。

四の2について

 河川法(昭和三十九年法律第百六十七号)第十六条の二第三項は、「河川管理者は、河川整備計画の案を作成しようとする場合において必要があると認めるときは、河川に関し学識経験を有する者の意見を聴かなければならない」と規定しているところ、御指摘の「流域委員会」とは、同項の意見聴取を行うために設置する委員会のことを指すものと思われるが、現時点では、黒部川水系に関する同項の意見聴取の方法については未定である。

四の3について

 河川整備計画の案の作成に際しての意見聴取の方法については、各水系の特性を勘案して検討されるものであり、黒部川水系に係る河川整備計画についても、今後、北陸地方整備局において検討する予定である。

五について

 お尋ねは、富山県漁業協同組合連合会と関西電力との間の関係に係るものであり、政府としてお答えする立場にない。
 なお、御指摘の平成十四年四月十六日の参議院農林水産委員会における木下寛之水産庁長官の答弁は、富山県から報告のあった事項に基づき行ったものである。

別表