質問主意書

第155回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第二号

内閣参質一五五第二号
  平成十四年十二月六日
内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 倉田 寛之 殿

参議院議員櫻井充君提出自衛隊員とジュネーブ条約上の捕虜との関係に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員櫻井充君提出自衛隊員とジュネーブ条約上の捕虜との関係に関する質問に対する答弁書

一について

 政府が条約を締結する場合に憲法を遵守することは当然である。

二について

 お尋ねは、我が国における憲法又は法律と条約又は確立された国際法規との間の国内における適用上の効力の優劣関係について問うものと解されるところ、当該条約の規定等が直ちに国内において適用され得るものであることを前提として述べると、次のとおりである。まず、憲法と条約との関係に関しては、一般には憲法が条約に優位すると解される。憲法と確立された国際法規との関係に関しては、国際社会の基本的な法則とでもいうべき慣習的な国際法規については、このような法則を前提として各国家が存在しており、我が国憲法もその秩序の中に受け入れているところであって、これら法規と憲法との間に抵触が生ずることはないと解される。条約及び確立された国際法規と法律との関係に関しては、条約等が法律に優位すると解される。

三及び八について

 戦争犠牲者の保護に関する千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ諸条約(昭和二十八年条約第二十三号、第二十四号、第二十五号及び第二十六号。以下「ジュネーヴ諸条約」という。)は武力紛争における傷者及び病者や捕虜の待遇等について定める条約であり、ジュネーヴ諸条約にいう軍隊とは、武力紛争に際して武力を行使することを任務とする組織一般を指すものと考えている。自衛隊は、憲法上自衛のための必要最小限度を超える実力を保持し得ない等の制約を課せられており、通常の観念で考えられる軍隊とは異なるものであって、憲法第九条第二項で保持することが禁止されている「陸海空軍その他の戦力」には当たらないと考えているが、直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる任務とし自衛権行使の要件が満たされる場合には武力を行使して我が国を防衛する組織であることから、一般にはジュネーヴ諸条約上の軍隊に該当すると解される。我が国がジュネーヴ諸条約を締結したとしても、自衛隊が通常の観念で考えられる軍隊となるわけではなく、「陸海空軍その他の戦力」となるわけでもないことから、我が国がジュネーヴ諸条約を締結することについて憲法との関係で問題を生ずることはない。このような自衛隊の法的位置付けは、お尋ねの自衛隊員がジュネーヴ諸条約の規定による捕虜となった場合においても異なるものではない。

四から七までについて

 ジュネーヴ諸条約における捕虜に関する規定は、「二以上の締約国の間に生ずるすべての宣言された戦争又はその他の武力紛争の場合について、当該締約国の一が戦争状態を承認するとしないとを問わず」適用され(ジュネーヴ諸条約の各第二条第一項)、また、「一締約国の領域の一部又は全部が占領されたすべての場合について、その占領が武力抵抗を受けると受けないとを問わず」適用される(同条第二項)。
 ところで、平成十三年九月十一日のアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応して行われる国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する措置及び関連する国際連合決議等に基づく人道的措置に関する特別措置法(平成十三年法律第百十三号。以下「テロ対策特措法」という。)に基づく対応措置は、我が国領域以外においては、現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる地域において実施される(第二条第三項各号列記以外の部分)。また、外国の領域において対応措置を実施するのは、当該対応措置を実施することについて当該外国の同意がある場合に限られ(同項第二号)、対応措置を実施する区域の範囲を定めるに当たっては、当該外国と協議を行うこととしている(第四条第四項)。さらに、テロ対策特措法は、実施区域の全部又は一部がテロ対策特措法又はこれに基づいて定める基本計画に定められた要件を満たさないものとなった場合には、防衛庁長官は、速やかに、実施区域の指定を変更し、又はそこで実施されている活動の中断を命じなければならないとしており、また、対応措置を実施している場所の近傍において、戦闘行為が行われるに至った場合又は付近の状況等に照らして戦闘行為が行われることが予測される場合には、当該対応措置の実施を命ぜられた自衛隊の部隊等(自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第八条に規定する「部隊等」をいう。以下同じ。)の長等は、当該対応措置の実施を一時休止し又は避難するなどして当該戦闘行為による危険を回避するものとしている(テロ対策特措法第六条第四項及び第五項、第七条第四項並びに第八条第三項)。したがって、テロ対策特措法に基づいて派遣される自衛隊の部隊等がいずれかの国又はこれに準ずる組織から国際的な武力紛争の一環として行われる攻撃を受けて、当該部隊等に所属する自衛隊員が捕らえられ、ジュネーヴ諸条約上の捕虜となる事態は想定されない。
 また、国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(平成四年法律第七十九号)に基づき我が国が国際連合平和維持活動に参加するに当たっては、武力紛争の停止及びこれを維持するとの紛争当事者間の合意(第三条第一号)並びに当該活動及び我が国による当該活動のための国際平和協力業務の実施についての当該活動が行われる地域の属する国及び紛争当事者の同意(同号及び第六条第一項第一号)の存在を要件とし、かつ、これらの要件が満たされなくなった場合には当該業務を中断し、又は国際平和協力隊の派遣を終了することとしており、国際連合平和維持活動のために実施される国際平和協力業務を行っている自衛隊の部隊等又は自衛隊派遣隊員(第十二条第六項に規定する「自衛隊派遣隊員」をいう。以下同じ。)が当該活動が行われる地域の属する国又は紛争当事者から国際的な武力紛争の一環として行われる攻撃等を受けて、当該部隊等に所属する自衛隊員又は当該自衛隊派遣隊員が捕らえられ、ジュネーヴ諸条約上の捕虜となる事態は想定されない。
 万が一、自衛隊員が外国等に不法に身柄を拘束された場合には、政府としては当該自衛隊員の即時解放を求め、解放されるまでの間は、その身柄は、少なくとも、普遍的に認められている人権に関する基準並びに国際人道法の原則及び精神に従って取り扱われるべきことは当然であると考えている。したがって、仮に当該自衛隊員に対し拷問等が行われた場合には、お尋ねのように政府として断固として抗議を行うべきものであると考える。