質問主意書

第155回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一八号

原子力発電所を維持するに当たって従うべき技術基準に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十四年十二月十三日

福島 瑞穂   


       参議院議長 倉田 寛之 殿



   原子力発電所を維持するに当たって従うべき技術基準に関する質問主意書

 電気事業法第三十九条第一項は、「事業用電気工作物を設置する者は、事業用電気工作物を経済産業省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない。」と規定している。これにより電気事業者は、運転中の原子力発電所を維持するに当たって、「経済産業省令で定める技術基準」に適合することが求められている。一方で、原子力発電所の建設や改造工事等における工事計画認可について定めた電気事業法第四十七条は、その条件として、「その事業用電気工作物が第三十九条第一項の経済産業省令で定める技術基準に適合しないものでないこと。」と定めている。つまり現行法令の下では、電気事業者が、運転中の原子力発電所を維持するに当たって従う技術基準すなわち「維持基準」と、設計時及び建設時に従う技術基準すなわち「設計基準」は、全く同一のものとして明確に規定されている。このことは、電気事業者が技術基準の適合状況について確認する際に用いる解説書である、「解説 原子力設備の技術基準」(通商産業省資源エネルギー庁公益事業部原子力発電安全管理課編)にも「電気事業法上の技術基準は、電気工作物の設計、製造の基準であると同時に、電気工作物が維持運用されるべき水準の基準でもあるという両面性を有している。」と明記されていることからも確認することができる。
 技術基準は、「発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令」(通商産業省令第六十二号)で定められており、このうち、原子力発電所の材料構造設計に関しては、省令第六十二号第九条(材料及び構造)、第十条(安全弁等)、第十一条(耐圧試験等)、第十二条(監視試験片)で規定されている。これを受けた詳細規定が、「発電用原子力設備に関する構造等の技術基準」(通商産業省告示第五百一号、以下「告示五百一号」という。)である。現行法令の下では、告示五百一号は、原子力発電所の設計時及び建設時に従うべき「設計基準」であり、原子力発電所を維持するに当たって従うべき「維持基準」としても位置付けられている。この点は、第百十九回国会参議院科学技術特別委員会(一九九〇年十一月二日)において、森信昭通商産業省資源エネルギー庁公益事業部原子力発電安全審査課長が、告示五百一号を指して、「確かにこの技術基準、製造基準であり維持基準でございます。」と答弁していることからも明らかである。
 ところが、「東電不正事件」の経緯の中で、経済産業省原子力安全・保安院が公表した「原子力発電所における自主点検作業記録の不正等の問題についての中間報告」(二〇〇二年十月一日)には、「現行技術基準の設備の設計時、建設時及び使用時への適用ルールが不明確であったため、例えば、設計時及び建設時のみに適用される材料に係る技術基準を、事業者が設備の使用時についても適用しなければならないという判断を招いたこと」との記述がある。これは現行法令の下においても、原子力発電所の使用時にひび割れ等を放置しての運転が可能であると解され、これまでの法解釈とは矛盾する。
 原子力安全・保安院の解釈は、これまで国及び電気事業者が堅持してきた安全規制の考え方を、法律や省令の改訂作業やそのために必要な審議を経ずして、強引な法令解釈によって変更を行っているとみなさざるを得ない。安全規制を行う側にあるはずの原子力安全・保安院が、不正を犯した電気事業者に対し、ひび割れを放置しての運転のために、法令の抜け道を指南しているようにしか見えず、原子力安全・保安院の姿勢には大いに疑問がある。よって、以下質問する。

一 国及び電気事業者は、以上の枠組みの中で、運転中の原子力発電所においてもひび割れの放置を許さず、「新品同様」の状態を維持することを課し、機会あるごとに、日本の原子力の安全規制は「世界標準をはるかに上回る世界一厳しいものであり、常に新品同様に整備してあるから安全である」などと説明してきたが、その説明は誤りであるのか、若しくは虚偽説明であったのか。

二 原子力安全・保安院が、「使用時」においては告示五百一号は適用されないとする法的根拠は何か。

三 原子力安全・保安院が、「使用時」においては告示五百一号は適用されないというのは、ひび割れ等を放置しての運転が、これまでも違法ではなく可能であったとの立場にあるということか。

四 ひび割れ等を放置して原子力発電所を運転することが可能であるということであれば、日本の原子力安全規制が、そのような立場に変わったのはいつの時点からか。

五 地元住民、地元自治体を含め、国民の多くが、現行法令の下では、ひび割れは許されず、新品同様の状態を維持することが要求されており、そのように規制されていると理解してきた。これに対し、国はひび割れを容認するという立場について、二〇〇二年八月二十九日以前に何らかの説明を行ったことがあるか。

六 第一種管である再循環系配管について、告示五百一号第四十四条は、「第五条に規定する非破壊検査を行い、これに合格するものでなければならない。」と定め、実質的にひび割れ等の無い材料を用いることを要求している。よって現行法令の下では、原子力発電所の再循環系配管において、非破壊検査においてひび割れを発見しながら、これを放置して運転することは、技術基準適合義務に反する行為に当たるのではないか。

七 炉内支持構造物であるシュラウドについて、告示五百一号第九十四条は、「超音波探傷試験(中略)を行い、これに合格するものでなければならない。」と定め、実質的にひび割れ等の無い材料を用いることを要求している。よって現行法令の下では、原子力発電所のシュラウドにおいて、超音波探傷試験においてひび割れを発見しながら、これを放置して運転することは、技術基準適合義務に反する行為に当たるのではないか。

八 告示五百一号には、各規定の対象ごとに、「材料」についての条項と「構造の規格」についての条項がある。これは例えば、非破壊検査に合格したひび割れの無い「材料」を用い、「構造の規格」で要求される許容応力を満足するように設計し、建設し、その状態を維持することを求めるというようなものである。この告示五百一号の「構造の規格」についての条項は、「使用時」においても適用されると理解してよいか。

九 原子力安全・保安院は現在、告示五百一号の「構造の規格」についての条項だけを取り出し、「構造の規格」によって計算される必要最小肉厚を侵さない限りのひび割れは容認される、というような強引な解釈により、ひび割れを放置したままでの運転を行うことは可能であるとの立場にあるのか。そうであれば、いつからこのような立場であったのか。

十 その場合、「構造の規格」によっては必要最小肉厚が計算できないシュラウド等の炉内支持構造物のひび割れについては、どのような扱いになるのか。もし、第一種管等には告示五百一号を部分的に適用しながら、シュラウドひび割れについては全く適用しないというのであれば、二重基準となるのではないか。

十一 その場合でも、保守的な立場に立つならば、シュラウドのひび割れについては「材料」の条項のみを適用するのが当然ではないか。

十二 第百五十五回国会で可決成立した電気事業法等の改正案にあっては、電気事業法第三十九条及び第四十七条に変更はない。したがって、今後施行されたとしても、そのことによって、電気事業者が、運転中の原子力発電所を維持するに当たって従うべき技術基準と設計時及び建設時に従うべき技術基準が、告示五百一号を含む全く同一のものであるという状況が変化することはないと考えるが、いかがか。

  右質問する。