質問主意書

第154回国会(常会)

答弁書


答弁書第三四号

内閣参質一五四第三四号
  平成十四年九月六日
内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 倉田 寛之 殿

参議院議員齋藤勁君提出給与所得者の納税制度の見直しに関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員齋藤勁君提出給与所得者の納税制度の見直しに関する質問に対する答弁書

一について

 給与所得に対する源泉徴収制度は、適正な課税を実現し、納付の便宜を図り、納付を平準化することなどのために必要な制度であると考える。また、年末調整制度は、納税者の手続を簡便化し、納税のために必要な社会的な費用をできる限り小さくする仕組みとして評価できるものと考える。したがって、これらは今後とも基本的に存置するべきであると考える。仮に、これらの制度を廃止した場合には、納税者の申告の事務負担や税務行政に要する定員及び経費が増加することなどの問題に留意しなければならないと考える。

二の1について

 フランスにおいては、賦課課税方式が採用されており、納税者の各暦年の納税額は税務当局が決定するが、原則として、納税者は通常夏季に行われる納税通知書の交付があった日から三十日以内に全額を納付しなければならないものと承知している。
 しかしながら、すべての納税者は月払制度の適用を選択することを認められており、これを選択した場合、一月から、その年の納税額に達するまで、原則として、前年の納税額の十分の一に相当する額を、毎月の口座振替によって納付することができるものと承知している。また、この月払制度の適用を選択しなかった納税者で前年の納税額が一定額以上である者は、二月十五日と五月十五日までに、それぞれ前年の納税額の三分の一に相当する額を納めなければならないものと承知している。
 給与所得に対する源泉徴収制度が採用されていない国としては、例えばスイスがそれに該当すると承知している。スイスの個人所得課税制度においては賦課課税方式が採用されており、税務当局からの税額の通知を受けて納付が行われるものと承知している。

二の2について

 給与所得に対する源泉徴収制度を採用しつつ、年末調整制度を採用していない国としては、例えばカナダがそれに該当すると承知している。

二の3について

 お尋ねの対処の方法については、それぞれの国において、社会経済情勢を始めとする様々な事情に違いがあり、源泉徴収制度や年末調整制度以外の制度についても我が国と異なる点があることから、源泉徴収制度や年末調整制度が採られていないために、一についてで述べたような問題がどの程度生じ得たかは明らかでなく、これらの制度が無いことから生ずる問題に対処するために採られたと考えられる特定の施策をお示しすることは困難である。
 いずれにせよ、「あるべき税制の構築に向けた基本方針」(平成十四年六月十四日税制調査会答申。以下「基本方針」という。)において、「給与所得者が自ら確定申告を行うことは、社会共通の費用を分かち合っていく意識を高める観点から見れば重要である。電子申告をはじめとする申告手続簡便化の環境整備など、税務執行面にも配慮しつつ、これを拡充する方策について引き続き検討する必要がある。」と指摘されており、今後、給与所得に対する課税の在り方を検討する際には、この指摘も踏まえながら検討していく必要があると考える。

三について

 所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第五十七条の二に規定する給与所得者の特定支出の控除の特例(以下「特定支出控除」という。)は、給与所得者が同条第二項に規定する特定支出をした場合において、その年中の当該特定支出の額の合計額が給与所得控除額を超えるときは、確定申告により、給与等の収入金額からその給与所得控除額及びその超える部分の金額の合計額を控除した金額を給与所得の金額とすることができる制度である。
 特定支出控除を選択して申告した者の数は、平成九年分が一人、平成十年分が三人、平成十一年分が三人、平成十二年分が七人、平成十三年分が四人となっている。特定支出の範囲は、諸外国の類似の制度とおおむね同等であると考えるが、その一方で、特定支出控除を選択して申告した者が少ないのは、給与所得控除の水準が高いためであると考えられる。
 基本方針においては、「今後、給与所得控除の水準を縮減すれば、特定支出控除の選択的適用が増加することになろう。また、同制度の対象となる特定の支出の範囲は主要国と比較して狭いものではないが、社会経済情勢の変化を踏まえ、その範囲についての検討も必要であろう。」と指摘されており、給与所得者の多くが確定申告を行うような制度については、今後、この指摘を踏まえながら検討していく必要があると考える。