質問主意書

第154回国会(常会)

答弁書


答弁書第三三号

内閣参質一五四第三三号
  平成十四年九月六日
内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 倉田 寛之 殿

参議院議員齋藤勁君提出納税者の権利利益の保護のための国税通則法の改正に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員齋藤勁君提出納税者の権利利益の保護のための国税通則法の改正に関する質問に対する答弁書

一について

 アメリカ合衆国においては、内国歳入庁による調査や徴収の過程における納税者の権利保護を図るため、千九百八十八年、千九百九十六年及び千九百九十八年に内国歳入法典の一部を改正した。これらの改正により設けられた納税者の権利保護を図るための規定を納税者権利章典と呼んでいると承知している。また、千九百八十八年から納税者の権利を分かりやすく説明した「納税者としてのあなたの権利」と題する文書を作成していると承知している。納税者権利章典や「納税者としてのあなたの権利」においては、主に、調査及び徴収の手続、申告書の確認や調査により知り得た納税者の情報についての税務職員の守秘義務、納税者保護官制度等が定められている。
 イギリスにおいては、納税者の権利を規定した法律として千九百七十年に制定された租税管理法等があるが、千九百八十六年に納税者の権利保護や納税者に対するサービスの向上を目的として、納税者憲章を作成したと承知している。これは、サッチャー政権の下で、原則としてすべての行政機関がサービスの向上を目的とする憲章を作成することとされたことの一環として、税務当局により定められたものであり、法律に根拠を有するものではないことから、新たな権利を創設する性格のものではないと承知している。租税管理法等や納税者憲章においては、主に、税務当局が行動規範を作成し公表すること、調査の手続、申告書の確認や調査により知り得た納税者の情報についての税務職員の守秘義務等が定められている。
 フランスにおいては、納税者の権利をより一層保護するため、千九百八十一年に制定された租税手続法典に定められている納税者の権利保護に関する部分を納税者に分かりやすく説明したものとして千九百八十七年に納税者憲章を作成したと承知している。これは、租税手続法典にその根拠を有しているものの、新たな権利を創設する性格のものではないと承知している。租税手続法典や納税者憲章においては、主に、税務当局による調査時における納税者憲章の交付義務、調査の手続、申告書の確認や調査により知り得た納税者の情報についての税務職員の守秘義務等が定められている。
 韓国においては、税収の確保を優先して徴税の便宜に資するよう運営されていると言われていた税務行政の民主化を図り、納税者の権利を保護するため、千九百九十六年に国税基本法を改正し、この改正を受けて、千九百九十七年に納税者権利憲章を作成したと承知している。この納税者権利憲章は国税基本法にその根拠を有しているものの、同法の納税者の権利保護に関する章を納税者向けに分かりやすく要約したものであることから、新たな権利を創設する性格のものではないと承知している。国税基本法や納税者権利憲章においては、主に、国税庁による調査時における納税者権利憲章の交付義務、調査の手続、申告書の確認や調査により知り得た納税者の情報についての税務職員の守秘義務等が定められている。
 なお、お尋ねの問題点については、各国の納税者の権利保護の諸制度の運用の実態を把握することが困難であるので詳細は把握していないが、例えば、アメリカ合衆国において、会計検査院が、千九百九十八年の内国歳入法典の改正の目標の達成度や効果を判断するのは時期尚早であるとしながらも、内国歳入庁において頻繁な事務手続の変更に対応することが困難な事態が生じていると認識しているとの見解を示していると承知している。

二について

 経済協力開発機構(OECD)に加盟している三十か国中、納税者の権利保護を明確化するための法律等を整備しているとされているのは、おおむね三割程度にとどまるものと承知している。また、このうち法律を改正して新たな権利を創設した国は少ないと承知している。
 諸外国の納税者の権利保護に関する法律等に規定されているような納税者の権利については、日本国憲法第八十四条に定められているいわゆる租税法律主義の下、国税通則法(昭和三十七年法律第六十六号)その他の国税に関する法律(以下「各税法」という。)において具体的な規定が設けられているものがあること及び各税法の具体的規定等の趣旨に則した適正な税務行政により、基本的にその保護が図られている。また、このような納税者の権利の取扱いは、これらの規定や分かりやすい広報活動等により明らかになっている。
 したがって、国税通則法について、御指摘のような改正を行う必要はないと考えている。

三の1について

 アメリカ合衆国においては、千九百七十九年に創設された納税者オンブズマンが内国歳入庁長官により任命され、その指示に従って任務を遂行することとされていたため、納税者の利益が十分に代表されていないのではないかとの批判等を受け、千九百九十六年に従来の納税者オンブズマン制度を廃止する一方、納税者保護官制度を新たに創設し、千九百九十八年にこれを財務長官が任命することとしたと承知している。具体的には、一定の要件を満たし、財務長官により任命された納税者保護官が、内国歳入庁職員が従事する苦情処理制度を全般的に管理し、納税者と内国歳入庁との間で発生した問題を把握し内国歳入庁の業務改善に向けた方策を提案するとともに、個別の重要案件に関して内国歳入庁に対して納税者救済命令を発することができるという制度であると承知している。

三の2について

 イギリスの内国歳入庁は、納税者に対するサービスの向上を目的として、納税者憲章に基づき、その一定の職務について行動規範を定めて、これを税務署等で配布されるパンフレットや内国歳入庁のホームページ上において公表し説明することを通じて、納税者と内国歳入庁の双方の権利を明確化するとともに、納税者が、税務調査等において生じ得る事態を予測することをより容易にしていると承知している。

三の3について

 フランスにおける文書による調査の事前通知の制度は、税務調査が、いわゆる税の前の平等を保障するという現代社会の要請に対応していないと言われていたため、千九百七十七年に導入されたものであると承知している。その内容は、帳簿書類の内容の調査等については、調査通知書の送付又は交付により、納税義務者に対し事前に通知しなければ実施することはできないが、事業用資産や帳簿の備付けの状態等を確認するための調査の場合には、その調査の開始の際に調査通知書を交付することで足りるとされていると承知している。

三の4について

 千九百九十六年の国税基本法の改正により、国税庁長に対して納税者権利憲章の作成が義務付けられ、これを受けて、千九百九十七年に納税者権利憲章が作成されている。また、税務調査等の際に納税者権利憲章を交付することが義務付けられ、税務職員は、調査の際に納税者権利憲章を交付しているものと承知している。

三の5について

 国により課税方式、税務調査の方法、挙証責任の所在、不服申立制度等に違いがあることを考慮すれば、諸外国の納税者の権利保護に関する法律等に掲げられている項目のすべてを我が国の制度に採り入れることが必要となるわけではない。
 我が国においては、納税者から寄せられた苦情等については、納税者の視点に立って迅速かつ的確に対応しているところであり、納税者が適正かつ円滑に納税義務を履行するために必要な助言及び教示並びに調整を行う納税者支援調整官を各国税局及び主要な税務署に配置していること、不服申立てについては、納税者の正当な権利利益の救済を図るとともに、併せて税務行政の適正な運営を確保するため国税不服審判所を設けていること、税務行政の運営の在り方については、中央省庁等改革基本法(平成十年法律第百三号)第十六条第六項第二号の規定に基づき財務省訓令により国税庁の事務の実施基準等を明らかにしていること、税務調査については、調査の目的を達成することができなくなるような場合を除いて事前通知を行っており、平成十二事務年度では、事業所得者(農業所得者を除く。)に対する所得税事案で約八割、法人税事案で約九割について実施していること等、各税法の規定等の趣旨に則して、納税者の権利に配慮した適正な税務行政が行われている。
 したがって、御指摘のような国税通則法の改正を行う必要はないと考えている。