質問主意書

第154回国会(常会)

質問主意書


質問第四三号

セクシュアル・ハラスメントの被害者救済に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十四年七月二十六日

福島 瑞穂   


       参議院議長 倉田 寛之 殿



   セクシュアル・ハラスメントの被害者救済に関する質問主意書

 「衆議院議員阿部知子君提出セクシャルハラスメントの被害者救済に関する質問に対する答弁書」が提出されたが、セクシュアル・ハラスメントの問題の本質、また被害者救済を考えると極めて不十分であると言わざるを得ない。
 セクシュアル・ハラスメントの本質は性暴力であり、最も大切なことは、被害者の権利の擁護と尊厳の回復という点である。
 前年成立した「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」の前文においても、ドメスティック・バイオレンスが「個人の尊厳を害し、男女平等の実現の妨げとなって」おり、「被害者の救済が必ずしも十分に行われてこなかった」と述べられている。また、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」の第一条の目的規定でも、「児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ」と、近年の立法においても、一般的に性犯罪が、個人の権利を侵害し、尊厳を奪うものであるという認識が示されるようになった。
 セクシュアル・ハラスメントも、多くが密室で行われ、加害者がその地位を利用して暴力を行う点で、ドメスティック・バイオレンスと何ら暴力の形態において変わらない。しかし、一九九九年に改正された男女雇用機会均等法においても、職場の配慮義務にとどまり、救済や罰則の規定がないために、被害者を救済する直接的な根拠にはならない点を考えると、法的措置を急ぐとともに、運用面においても、早急に、被害者救済に取り組み、被害者個人の権利と尊厳の回復に努める必要があると言えよう。
 以上のことを踏まえた上で、以下質問する。

一、人事院規則一〇-一〇について

1 人事院規則においては、目的が「人事行政の公正の確保、職員の利益の保護及び職員の能率の発揮」と規定されており、セクシュアル・ハラスメントの防止は、あくまでも円滑な行政の運営のため行われている。そのため被害者の保護、権利の救済がどうしても後回しになっているのではないかと思われる。この目的とセクシュアル・ハラスメントの被害者救済に関する政府の見解を示されたい。
2 第四条において、各省各庁の長の責務として、セクシュアル・ハラスメントを訴えた職員が、「職場において不利益を受けることがないよう配慮しなければならない」としているが、この「不利益」が想定している事例を、具体的に示されたい。
3 職場の監督者の責務として、セクシュアル・ハラスメントに対する環境配慮義務を設けていないのはなぜか。改正均等法第二十一条にも、事業主の配慮義務についての規定が設けられているところであり、当然のことながら、人事院規則には、より厳しい配慮義務違反に対する罰則(職場名の公表や監督者の処分等)の規定が設けられるべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
4 過去に、セクシュアル・ハラスメントに対する配慮義務違反として、監督者が処分を受けた事例はあるか。件数とそれぞれの概要を明らかにされたい。
5 第五条において、職員の責務として「セクシュアル・ハラスメントをしないように注意しなければならない」との規定があるが、なぜ、「セクシュアル・ハラスメントをしてはいけない」と禁止することができないのか、その理由を明らかにされたい。また、セクシュアル・ハラスメントをしてはいけないことは自明の理であり、であるとすれば、例えば、「行政及び公務員に対する国民の信頼を回復するための新たな取組について」(平成八年十二月十九日付事務次官等会議申合せ)において「関係業者等との接触に当たっての禁止事項」を定めているように、セクシュアル・ハラスメントを禁止規定とすべきではないのか。政府の見解を明らかにされたい。
6 第七条において研修を規定しているが、各省各庁ごとの研修の具体的内容を、研修体制、対象、人数、時間、回数等についてまで明らかにされたい。また、所管の外郭団体の取組についても、個別具体的に明らかにされたい。特に、セクシュアル・ハラスメントが発生した職場には、再発防止のための特別な研修を行うべきと考えるが、そのような措置を採っているかも含めて明らかにされたい。

二、事実認定について

1 答弁書の回答五について、人事院規則のセクシュアル・ハラスメント事実認定における加害者の立証責任とは、事実認定をめぐって、当事者間の主張に不一致がある場合に加害者の側が、自分の主張を裏付ける責任があるということである。具体的には、加害者が事実を否認する場合には、当該の言動を行っていないことを証明したり、加害者が事実を合意とする場合には、当該の言動の合意であることを証明することを指す。加害者と被害者の力関係を考慮することはもちろんだが、加害者側の立証責任を求めることも必要と考えるが、この点について、政府の見解を示されたい。
2 過去に受けたセクシュアル・ハラスメント相談のうち、人事院が認定できないことが理由で、若しくは言い分が対立していることが原因で調停不能となった事例はあるか。それぞれの概要と件数を示し、その理由も説明されたい。
3 答弁書の回答十一にあるように、セクシュアル・ハラスメントの事実認定では、当事者以外の者からの事情聴取等の方法により事実関係を十分に確認することが必要であるとしている。当事者以外の者とは、被害者、又は加害者と職場内で利害関係のある関係者であったり、自らが監督責任の問われかねない立場にいる者であったりし、中立的な意見を聴取できるとは言い難いケースも出てくる。そこで、セクシュアル・ハラスメントの事実認定では、被害者が当時相談をしていた部外の人などを含めて、被害者と加害者の主張を対等に聴くことが、中立、公正なのではなく、被害者と加害者の力関係を考慮して、行うことが必要である。被害者の立場に立ち、かつ客観的な事実認定を行うには、どのような工夫が必要と考えるか。
4 答弁書の回答四において、「双方の主張に不一致がある場合には、それぞれの主張を踏まえて双方から更に聴取すること等により、事実関係の確認が適切に行われるものと考える」としているが、これは被害者に、被疑者である加害者の言い分を明らかにした上で、それに対する十分な反論と訴えの機会を与えることと解釈してよいか。実際には、加害者に被害者の陳述書を渡したり、言い分を伝えたり、加害者の反論を先にさせているような事例が見受けられる。セクシュアル・ハラスメントの本質からすれば、被害者の反論を先に始めるのはもちろんのこと、被害者のプライバシーの保護を優先させるべきと考えるが、いかがか。
5 当事者以外の者からの事情聴取等を経てもなお、セクシュアル・ハラスメントの事実認定が困難であった事例はあるか。また、その場合、どのような対応を取ったか、それぞれの事例につき具体的に説明されたい。

三、加害者の処遇について

1 過去(人事院規則一〇-一〇施行後から現在に至るまで)に各省庁から、人事院がセクシュアル・ハラスメントの加害者の処分量定について、相談を受け指導したケースは何件あるか。それぞれの事例における助言内容と、実際の処分量定、それに対する政府の見解を示されたい。
2 答弁書の回答六では、「懲戒処分の指針について」は、標準的な処分量定として、相手の意に反することを認識の上で、セクシュアル・ハラスメントを行った場合に処分を受ける旨明記してあるが、加害者が認識していない場合、懲戒処分に当たらないという認識であるのか明らかにされたい。セクシュアル・ハラスメントの認定については、人事院規則一〇-一〇に基づく「セクシュアル・ハラスメントをなくすために職員が認識すべき事項についての指針」の基本的な心構えに、「セクシュアル・ハラスメントに当たるか否かについては、相手の判断が重要であること」とあるように、加害者が相手の意に反することを認識していないからといって、懲戒処分の対象とならないとすれば、セクシュアル・ハラスメントの本質を全く理解していないものと言わざるを得ない。この点についての政府の見解を示されたい。
3 答弁書の回答六では、「被害者が受けた精神面への打撃についても」処分量定として考慮されるとのことだが、過去、セクシュアル・ハラスメントの被害者が精神疾患を訴えてきたことはあるか。あるとしたらそれぞれの事例概要を具体的に明記されたい。また、加害者の処分量定の決定に際し、精神疾患を考慮したことはあるか。あるとしたら何件あり、それぞれの決定にどのように影響を与えたのか明記されたい。過去に精神疾患を被害者が訴え、加害者の処分量定が重くなったケースがあれば示されたい。また、既に処分量定が決定した場合でも、その後、被害者がセクシュアル・ハラスメントにより精神疾患に罹患したことが、医師・専門家等の証明により認定された場合、当然のことながら処分量定の見直しが行われるものと理解してよいか。
4 加害者の処分量定において、既に加害者が被害者に示談金を支払う等の民事的な償いをしている場合は、軽微な処分で終わるという事例が見受けられる。行政の処分は、国家の懲戒規定に基づいて厳正になされるべきであり、被害者への個人的な償いのいかんによって左右されるべきではないと考えるが、政府の見解を示されたい。

四、被害者の保護、救済について

1 被害者からセクシュアル・ハラスメントの訴えがあった場合は、まず被害者の心身の安全を最優先する必要があり、何よりもまず加害者と接触しなくてよい環境を保障することが求められる。被害者保護の観点から、加害者の速やかな配置換えや、被害者の休暇保証など被害者保護のための具体的な対策を取るべきと考えるがどうか。
2 答弁書の回答三で、「各府省において、個別の事例に応じ、事後における調査も含めた必要な措置を適切に講ずることとしている」とあるが、被害者への配慮措置、就労・就学・研究継続のための環境整備も含む被害者の権利回復がどのように行われたかについて、その調査方法も含め、事例別に明らかにされたい。また、事後における各職場からの報告制度の検討についての見解を示されたい。
3 答弁書の回答二において、セクシュアル・ハラスメントに起因する問題で人事異動の措置を講じた事例二十一件のうち、配置換えを行ったことにより、起因となるセクシュアル・ハラスメントの問題が解決したかどうか、それぞれの事例について明らかにされたい。
4 国家公務員が公務上受けた心身のダメージに対しては、国家公務員災害補償法によって補償される。セクシュアル・ハラスメントについても、当然それが公務上行われたものと認定されれば、第十条の療養補償に基づき、被害者の心身のダメージについて補償されると考えてよいか。また、加害者が国家公務員で、被害者が国家公務員以外、例えば非常勤職員や学生であった場合でも、補償の対象となると考えてよいか。
5 各職場に対して、セクシュアル・ハラスメントの認定に必要な資料の提供協力を義務付けることについての見解はいかがか。
6 実際の被害者の心身のダメージは、胃潰瘍になったり、うつ状態になる等、他の心身症状として認識されることも多い。PTSD以外の疾患でも、被害者の心身のダメージを総合的に考慮し対応する必要があると考えるが、いかがか。
7 セクシュアル・ハラスメントを申し立てた被害者に、「被害者をトラブルメーカー視する」「非常勤職員を雇い止めする」「現場の相談窓口で、事実認定を放棄されたりもみ消される」というような二次被害が多発している。人事院はこのような二次被害の実態を把握しているか。もし把握していないとすれば、解決後、一定期間の後に追跡調査を実施するなど実態の把握を行い、アフターケアーをすべきである。被害者が二次被害を被らないために、人事院ではどのような対策をしているか。
8 元職員、元非常勤職員、元学生らが、セクシュアル・ハラスメントを申し立てたことによって、雇い止めや解雇をされたり、退学奨励される等の著しい不利益(人権侵害)が生じた場合には、現行法の解釈においても、速やかに、「職場に復帰させて、環境を調整する」「学校に復学させて環境を調整する」という具体的な救済措置を採る必要があると考えるが、政府の見解を示されたい。
9 二次加害(脅迫・報復・プライバシー暴露など)の実態を把握しているか。またどのような対策を講じているか明らかにされたい。

五、苦情相談、不服申立てについて

1 答弁書の回答九に対する回答では、人事院規則のセクシュアル・ハラスメントの苦情処理相談の対象者として、元職員、元学生、元関係者からの被害申立てにも積極的に応じると解釈してよいか。そうであれば、この点について、各省庁にどのように周知しているか。各省庁に通知を出す必要があると考えるが、いかがか。
2 答弁書でも述べているとおり、人事院規則では、セクシュアル・ハラスメントに関する苦情相談に係る問題を、迅速かつ適切に解決するよう努めるものとすることを定めているが、中には、被害者が人事院に苦情相談の申立てをして、セクシュアル・ハラスメントの事実認定から、職場への指導まで、約半年から、一年近く時間が掛かっている事例があると聞いている。どのくらいの期間であれば被害者が不利益を被らずに「迅速に」解決できると考えるか。個々の事例により異なるところであろうが、目安となる期間を示されたい。また、過去のセクシュアル・ハラスメントの相談において、解決に至るまでどの程度の時間が掛かっているか、各事例について明らかにされたい。
3 セクシュアル・ハラスメントの苦情相談において、被害者が、関係省庁の相談体制、相談員の対応、また解決方法等に不服のある場合は、どこに訴えることができるか。加害者にのみ処分の不服申立て制度を与えるのではなく、被害者にも当然の権利として処分の不服申立て制度を認める必要があると思うがいかがか。また、第八条第三項において、「人事院に対しても苦情相談を行うことができる」としているが、人事院の苦情相談に上記のような不服があった場合、どこに申し立てることができるか明らかにされたい。このような場合の不服申立ての手段について、政府はどのように配慮しているのか。
4 不服申立てのできる被害者には、当然のことながら、元職員、元学生、元関係者も含まれると解釈してよいか。
5 過去において、被害者から不服申立てがあった事例は何件か。それぞれの事例について具体的に説明されたい。

  右質問する。