質問主意書

第154回国会(常会)

質問主意書


質問第四〇号

JCO臨界事故と安全審査に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十四年七月二十五日

福島 瑞穂   


       参議院議長 倉田 寛之 殿



   JCO臨界事故と安全審査に関する質問主意書

 一九九九年九月三十日に発生した茨城県東海村の核燃料加工施設JCO(ジェー・シー・オー)臨界事故は、二名の死者と地域住民、防災関係者など多数の被曝者を出し、多大な風評被害をもたらすなど、深刻な影響を地域社会に与えた。また臨界事故は起こり得ないと考えていた原子力業界や安全規制を担当してきた監督省庁にも大きな衝撃を与えた。この臨界事故後、政府は「臨界事故は起こり得る」ことを前提に原子力防災対策を見直し、新たに原子力災害対策特別措置法を制定し、原子力安全委員会の権限強化やオフサイトセンターの設置義務付けなどの対策を施すに至った。
 一方、この事故の原因と責任を明らかにする作業の一つとして、茨城県警は二〇〇〇年十月、株式会社JCOの社員六人を逮捕し、水戸地検は彼らを起訴して、二〇〇一年四月より現在まで、二十回に及ぶ公判が水戸地裁で行われてきた。証人及び被告人に対する質問はすべて終了し、九月二日が論告求刑、十月二十一日が最終弁論という予定となっている。この裁判では、これまで表に出てこなかった重要な事実が明らかにされてきた。水戸地検は、越島所長外四人の管理職と現場担当者である製造部製造グループ・スペシャルクルー班の横川副長と製造部計画グループ竹村主任を業務上過失致死、原子炉等規制法違反、労働安全衛生法違反で起訴した。JCO側は、罪を認めつつも情状酌量を求めて多数の証人を出し、科学技術庁や核燃料サイクル機構にも問題があったことを主張している。
 特に今年五月十三日の被告人質問で証言した越島所長(事故当時)は、事故の原因にかかわる重大な証言をしている。彼は、「つまるところ事故の原因は何だったと思うか。」という弁護士の質問に、第一に粉末(八酸化三ウラン)を作る施設で、溶液(硝酸ウラニル)を作ったこと、第二に一九八四年の許認可の在り方、第三に許可条件違反の放置、第四に臨界安全教育をしなかったこと、と述べた。この第一と第二に関連して、「溶液製造のことは、当初予定していなかったが、動燃から科技庁に出向して審査官を務めた人に示唆されて、急遽、枠取りとして申請した。濃度も不純物含有量の許容範囲も決められていたわけではなかった。」と証言した。彼の証言が真実であれば、いかなる技術、いかなる設備が硝酸ウラニル溶液製造にふさわしいかが検討されることなく申請が出され、許可も出されたことになる。言い換えれば、科学技術庁(当時)は、この施設が何をいかに作るかを問うことなく安全審査し、許可したことになる。安全審査は「施設の基本設計のみで、具体的運転条件の情報がなくても審査可能」という考え方が原因となって、このようにおざなりな安全審査が行われていたとしたら、日本の原子力安全行政に大きな欠陥が存在することを示す事実と言わざるを得ない。
 よってこの事実確認と併せ政府の原子力安全行政への姿勢を正すため、以下質問する。

一 JCOの核燃料加工施設の転換試験棟は本来、粉末の八酸化三ウランを作る施設である。粉末を作る施設で溶液を作ると、せっかく精製した八酸化三ウランを、設備の中に残されている不純物の中に再び戻すことになる。転換試験棟の溶解塔-抽出塔・逆抽出塔-貯塔-沈殿槽とつながっている施設は不純物を含むウランを精製する装置であって、機械的あるいは化学的処理によって純粋な粉末の八酸化三ウランを取り出す機能を持ったものである。したがって、塔や槽の中には不純物が溜まるのが当たり前で、それが目的にかなった使用の状態である。実際に、二〇〇一年十一月十九日に証言したN氏は、「溶解塔には網が入っていて、洗浄するのに三日掛かった」と証言している。これは事実上、設備の目的外使用であり、いわゆる「騙し騙しのものづくり」である。二回、三回は騙し騙しできても、四回、五回と無理を続ければ事故につながるのは必然と言える。

1 設置許可申請において、申請設備では到底作業できないような事業を「枠取り」として申請することは認められているのか。認められているとすれば、どのような根拠で認められているか示されたい。
2 越島証言では、臨界事故の引き金となった硝酸ウラニル溶液製造を「枠取り」として事業申請したとしているが、このような申請は認められるのか。
3 当時の科学技術庁が、この申請書を安全審査し事業認可した。内容を読めば、ウランを精製して不純物を取り除く装置で、溶液状のウランを作ることが理にかなっていないことに気が付くはずであるが、この安全審査は誰がどのように行ったのか。審査委員の名前、肩書き、審査日数(審査会が行われた年月日)、審査会の議事録等議事の内容を示すものなどを明らかにされたい。
4 現時点から見るならば、一九八四年にJCOに対し硝酸ウラニル製造の許可を出したことは、明らかに間違っていたのではないか。現時点の政府の判断を示されたい。
5 設備の目的外使用のような使い方を認めることは、ここ数年、厚生労働省が労働災害撲滅のために進めている「安全文化の確立」と相反するものである。「騙し騙しのものづくり」ではなく、事業目的にかなった設備を設置させ、労働者に安全な作業を行わせることが、厚生労働省の推奨する「ものづくりの精神の改革」ではないか。

二 臨界事故の原因を考える場合、もう一つの疑義がある。原子力安全委員会のウラン加工工場臨界事故調査委員会(以下「事故調査委員会」という。)は、事故原因を「硝酸ウラニルの濃度を混合し、均一化するために、沈殿槽に多量のウランを投入したので、臨界になった」と説明している。しかし、この「均一化」の中味が全く情報開示されておらず、沈殿槽使用の動機が不明のまま今日に至っている。
 沈殿槽使用の動機と精製施設使用の動機に対する疑義は、「何を、いかに作ろうとしたか」の問いを避けていることによって生まれている疑義である。このことをウヤムヤにして事故の原因や責任を論ずることはできないはずである。根本原因がウヤムヤにされ、現場で作業に当たっていた、社会的に弱い立場にある者にのみ責任が転嫁されるならば、結局問題の解決にはならず、同じような事故が繰り返されることになるであろう。

1 事故調査委員会の言う「均一化」とは濃度の均一化か、濃縮度の均一化か。
2 事故につながった一九九九年九月八日の核燃料サイクル開発機構とJCOの契約書に添付された仕様書(以下「仕様書」という。)には、ウラン濃度は三八〇gU/L以下と書かれているだけである。この仕様書に基づくならば、ウラン濃度は三〇〇gU/Lでも二〇〇gU/Lでも、極端には〇gU/Lですら構わないというように読めるのではないか。これを濃度の均一化と読むのであれば、濃度が何パーセントの誤差範囲に入っていなければならないのか示されるべきではないか。
3 ところが事故調査委員会の報告書では、均一化を「硝酸ウラニル溶液製品一ロット(約四〇リットル)を混合し、濃度を均一化する。」(報告書Ⅲ-二ページ)と書かれている。一九九九年の契約書と、この報告書の記載には大きな隔たりがあると言わざるを得ない。報告書の記述は、契約書以外のどのような資料、ヒアリング等によって導き出されたものか明らかにされたい。
4 さらに報告書には、「この均一化工程については、申請時には許可申請書に記載していなかったが、発注者との契約上、約四〇リットルを一ロットとして均一化する必要が生じ、規制当局に申請することなく均一化する製造を開始したものである。」(報告書Ⅲ-三ページ)と書かれている。そのために前回まで使っていた貯塔ではなく形状制限のない沈殿槽を用いたという解説であるが、仕様書からはこのように読み取ることが困難である。仕様書のどこに約四〇リットルを一ロットとして均一化するように書かれているのか。仮に仕様書でないとすれば、それはどのような指示で行われていたのか。
5 JCOと核燃料サイクル開発機構の間には、契約書や仕様書とは別の指示系統が存在していたのか。また、そのことを事故調査委員会は把握していたのか。
6 一九八四年に行われた安全審査の時点では、混合・均一化は仕様として求められていなかった。その後一九八六年から混合・均一化が求められるようになったというが、先に説明したように転換試験棟の設備を使って行うには余りにも理にかなっていない作業であり、少なくともこの時点で、技術や装置等について、安全審査の対象とすべきだったのではないか。
7 安全審査は、対象となる施設、設備の基本設計のみを審査対象とする考え方が、政府の一般的見解のようであるが、JCOにおける許可申請の内容を逸脱した作業や、JCOと核燃料サイクル開発機構の契約書や仕様書の内容を飛び越えた指示系統の在り方などは、安全審査が詳細設計をチェックできないという、日本独特の安全審査方法に由来していると考えるがいかがか。

  右質問する。