質問主意書

第154回国会(常会)

質問主意書


質問第三〇号

知的障害者及び精神障害者に係る歯科訪問診療料の算定基準に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十四年七月一日

浅尾 慶一郎   


       参議院議長 倉田 寛之 殿



   知的障害者及び精神障害者に係る歯科訪問診療料の算定基準に関する質問主意書

 健康保険法及び国民健康保険法に係る医科及び歯科の診療報酬については、その細目が「健康保険法の規定による療養に要する費用の額の算定方法」(平成六年三月十六日厚生省告示第五十四号)に規定されている。
 このうち、歯科の訪問診療料については、本年四月一日施行の同告示改正及び本年五月一日付厚生労働省保険局医療課事務連絡「疑義解釈資料の送付について」等において、請求の適正化を図る観点から、対象患者の明確化のための措置が講じられているが、同告示における「通院が困難な患者」の解釈については、文面上なお不明確であり、歯科医療の現場における混乱が予想される。
 特に、知的障害者及び精神障害者については、てんかん重積発作、脳性マヒ、自閉症、視覚障害との重複障害等、疾病そのものの多様性に加え、居宅又は社会福祉施設等における療養の態様及び患者の移動可能性等も他の疾病の患者と異なる部分があるため、歯科の訪問診療料の対象となるのか否か、その制度上の位置付けが必ずしも明らかではない。
 歯科医師による診療報酬支払請求は、社会保険診療報酬支払基金の審査委員会又は国民健康保険診療報酬審査委員会の審査を受けることとなるが、関係者間において診療報酬の算定基準に解釈の相違があれば、歯科医師は、最終的には民事訴訟を提起しなければならない。
 こうした事態は、判例の集積もない中で、真摯に患者の治療に従事する現場の歯科医師に過重な負担となるだけではなく、患者にとっても、到底望ましいことではない。
 思うに、内閣は憲法七十三条により、法律を誠実に執行することを任務とするのであって、法令の規定が不明確な場合には、国民の予測可能性を担保するため、明確な解釈を早急に示す義務がある。
 このような観点から、標記について以下質問する。

一、まず、歯科訪問診療料の対象となる「通院が困難な患者」とは、前出の事務連絡によれば、「常時寝たきりの状態又はこれに準ずる状態」であることが要件とされている。
 しかし、知的障害者及び精神障害者については、療養中の居宅や社会福祉施設等の屋内では、歩行が可能である等必ずしも寝たきりのような状態ではないが、屋外へ出ると精神的な不安定を来すがために通院が困難な場合がある。
 そこで、右の「寝たきりの状態又はこれに準ずる状態」とは、「通院が困難な患者」の要件を限定列挙したものではなく、「通院が困難な患者」の要件を例示列挙したものであって、右の知的障害者及び精神障害者の場合を排除する趣旨ではないと考えるが、かかる解釈に相違ないか、政府の見解を示されたい。

二、次に、前出の事務連絡においては、同じく「通院が困難な患者」の要件として、「疾病、傷病のため通院による歯科治療が困難」であることが挙げられている。
 ところが、知的障害者及び精神障害者については、歯科医院まで通ってくることはできるが、待合室等で精神の不安定を来すため、治療が困難である場合がある。
 そこで、「通院による歯科治療が困難」とは、歯科医院まで来ることはできても当該歯科医院内における歯科治療が困難である場合を含み、右の知的障害者及び精神障害者の場合を排除する趣旨ではないと考えるが、かかる解釈に相違ないか、政府の見解を示されたい。

三、さらに、本年六月十八日付政府答弁書(内閣参質一五四第二二号)によれば、「個々の患者が歯科訪問診療料の算定要件に合致するか否かについては、歯科医師が各患者の心身の状況に基づいて判断することとなる」とされている。
 そこで、「心身の状況に基づいて」とは、歯科訪問診療の対象となる患者には、通院が困難な患者であれば、知的障害者及び精神障害者も当然含まれる趣旨と考えるが、かかる解釈に相違ないか、政府の見解を示されたい。
 また、「心身の状況に基づいて」とは、介助人や患者輸送のための車が手配できない等の社会的経済的状況により通院が困難な場合も含む趣旨と考えるが、かかる解釈に相違ないか、政府の見解を示されたい。

四、最後に、知的障害者及び精神障害者の歯科治療については、障害者福祉の増進に資するだけでなく、症状の進行を食い止め、又は改善するという重要な意義を有するにもかかわらず、保険者等の関係者に、その治療の実態に関する理解が不足しているがために、診療報酬請求の場面において誤解を招く場合がある。
 そこで、歯科訪問診療については、知的障害者及び精神障害者の制度上の位置付けについて、右一ないし三の解釈を明確にした上で、関係者に然るべく通知すべきものと考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。