質問主意書

第153回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一号

アイヌ民族についての日本政府の認識に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十三年十月十一日

峰崎 直樹   


       参議院議長 井上 裕 殿


   アイヌ民族についての日本政府の認識に関する質問主意書

 我が国に居住するアイヌの人々の民族的位置付けに関する政府対応は、これまで様々な紆余曲折を経ながらも平成八年の「ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会報告」と、これに基づき平成九年に制定を見た「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」(以下「アイヌ文化振興法」という。)をもって規定したところである。
 すなわち、前述の有識者懇談会報告は、アイヌの人々の「民族としての先住性」に関して「当時の『和人』との関係において日本列島北部周辺、とりわけ我が国固有の領土である北海道に先住していたことは否定できない」として、アイヌの人々が「先住民族」であるとの概念を示した。さらに、その今日的な存在については「民族としての帰属意識が脈々と流れており、(中略)民族としての独自性を保っていると見るべきであり、近い将来においてもそれが失われると見通すことはできない」としたのである。
 一方、アイヌ文化振興法は、先住民族であり、かつ現に存在しているアイヌの人々に関して、その民族としての誇りが尊重される社会の実現と民族の誇りの源泉であるアイヌ文化の振興と伝統の普及を目的に制定された。しかるに最近、閣僚等においてアイヌ民族の誇りを傷つけ、またアイヌ文化振興法の精神を蔑ろにするかの発言があることは憂慮すべき事態と思慮する。そこでこれらに関連して、以下質問する。

一、平沼経済産業大臣の単一民族発言について

1 平沼大臣は去る七月二日、札幌市内で開催された政経セミナーの講演において「日本ほどレベルの高い単一民族で詰まっている国はない」と発言した。この発言は、発言の真意のいかんを問わず、アイヌ民族の存在を否定することであり、アイヌ民族の誇りと尊厳を著しく傷つけたばかりか、アイヌ文化振興法はもとより、我が国が批准する国際人権規約及び人種差別撤廃条約等の精神にも著しく反し、我が国を代表する国務大臣の資質に欠けるものと思慮するが、政府の見解を示されたい。
2 平沼大臣は、同発言に対する財団法人北海道ウタリ協会(以下「協会」という。)の質問に対し、「アイヌの方々の民族としての誇りを傷つける意図は微塵もなかった」とする一方、「単一民族との言葉を用いたことにより、アイヌの方々に誤解を生じたとすれば遺憾」等とする回答を行った。この回答は意図不明であるばかりか、アイヌ民族の存在を否定したと受け取ることは「アイヌの方々の誤解(誤った解釈)」とも受け取れ、責任の転嫁を図ったものである。
 平沼大臣は、自己の非を率直に認め関係する発言の撤回をするとともに、大臣名をもって公式に謝罪すべきが妥当と思慮するが政府の見解を示されたい。あわせて平沼大臣の任命権者である小泉総理大臣の任命責任を明らかにされたい。
3 平沼大臣は、自己の「単一民族」発言について、八月二十四日付けの協会への回答において「単一民族」との発言は不本意であり、講演で私が主張しようとした本意は『日本国民』であります」と答えている。平沼大臣の本意に従えば、発言は「日本ほどレベルの高い『日本国民』で詰まっている国はない」との表現になるが、このような認識自体が母国や民族を異にする様々な人たちとの共生を否定し、「単一民族」観を生み出す誤った認識なのである。閣僚のこのような認識は、国連人種差別撤廃委員会が第千四百五十九回会合において我が国政府に発した最終所見、なかんずくC項「懸念事項及び勧告」の趣旨に反するものと思慮するが、政府の見解を示されたい。

二、田中外務大臣のユーゴスラビア大統領との会談発言について

 田中大臣は、去る七月十六日、ユーゴスラビアを公式訪問中、同国大統領との会談において「日本は単一民族」と述べたと外務官僚が記者団に説明、その後、この発言はなかったとの報道がなされた。これが事実であるならば、人権及び民族差別等に関する国際規約等を所掌する外務大臣の発言として看過できないものがあり、政府は、田中大臣とユーゴスラビア大統領との会談記録の公表及び外務省担当官の記者発表の経緯等を明らかにすべきと思慮するが、政府の見解を示されたい。

三、反人種主義・差別撤廃世界会議へのアイヌ民族の代表派遣について

1 政府は、去る八月二十八日から九月七日の期間、南アフリカのダーバンにおいて開催された反人種主義・差別撤廃世界会議に派遣する政府代表団にアイヌ民族を加える方針を固め、七月十一日にはその意向を協会に伝えた。また、八月三日には外務省としての人選結果を伝えたと報道された。
 しかしその後、協会は役員人事の異動に伴う人選の差し替えを外務省に申し出たが、外務省は協会の人選に難色を示したことから、協会は政府枠での派遣を見送ったとされている。この件に関して協会は八月二十一日、「(外務省の)人選に不明確な点がある」「(人選については)当協会の意向が尊重されなかったのは遺憾」「(協会役員が外務省に出向いた際の担当官の応接について)デスクをたたいて大声で威圧するなど極めて高圧的」等を要旨とする抗議文を田中外務大臣に送付した。外務省による一連の対応は、協会に対する政府の不当な組織介入、人選への介入、人権と人格を無視した侮蔑行為をうかがわせるに充分なものがあるが、本件に係る一連の政府対応について事実関係と見解を明らかにされたい。
2 反人種主義・差別撤廃世界会議に派遣する政府代表団の人選について、会議を統括する国連人権高等弁務官事務所からの事前の誘引等があったのか否か。あったとすれば、人選に何らかの前提条件等が付されたのかについて明らかにされたい。
3 協会への今後の対応について、政府の方針を示されたい。

  右質問する。