質問主意書

第151回国会(常会)

答弁書


答弁書第二〇号

内閣参質一五一第二〇号

  平成十三年六月一日

内閣総理大臣 小泉 純一郎   


       参議院議長 井上 裕 殿

参議院議員中村敦夫君提出「核不拡散・核軍縮に関する東京フォーラム」などを踏まえた日本の核軍縮政策に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員中村敦夫君提出「核不拡散・核軍縮に関する東京フォーラム」などを踏まえた日本の核軍縮政策に関する質問に対する答弁書

一の1について

 核兵器の不拡散に関する条約(昭和五十一年条約第六号。以下「NPT」という。)は、国際的核不拡散体制の基礎として、また、核軍縮追求のための基礎として、極めて重要であると考えている。
 昨年四月から五月にかけて、NPT運用検討会議がニュー・ヨークにおいて開催され、核軍縮・不拡散分野における将来に向けた前向きな措置が盛り込まれた最終文書(以下「最終文書」という。)が全会一致により採択されたところであるが、政府としては、最終文書は、国際社会における今後の方向性を示したものとして高く評価しており、その実施に向けて外交努力を強化しているところである。

一の2について

 段階的削減を通じて核兵器を廃絶することは重要であると考えている。
 政府としては、NPT運用検討会議の結果を踏まえ、昨年、第五十五回国連総会に全面的核廃絶に至るまでの具体的な道筋を示した新たな核廃絶決議案である「核兵器の全面的廃絶への道程」を提出したところであり、同決議案は、圧倒的多数の諸国の支持を得て採択されたところである(以下、採択された決議を「道程決議」という。)。

一の3について

 包括的核実験禁止条約(以下「CTBT」という。)は、核兵器のない世界を実現するための現実的かつ具体的な措置として、極めて重要な意義を有すると考えている。
 我が国は、千九百九十九年十月の第一回CTBT発効促進会議の議長国を務めたところであり、また、政府としては、未署名・未批准国に対し、内閣総理大臣及び外務大臣による親書の発出、ミッションの派遣等により署名・批准の働き掛けを行うなど、CTBTの早期発効に向けて、積極的な外交努力を行ってきたところである。今後とも、本年九月にニュー・ヨークで開催される第二回CTBT発効促進会議の成功等に向けて、更に努力していきたいと考える。

一の4について

 全面的核廃絶達成のためには、核兵器国、特に、アメリカ合衆国(以下「米国」という。)とロシア連邦(以下「ロシア」という。)の両国が核軍縮を進めることが重要であると考えており、また、戦術核兵器の削減を核軍縮の不可欠なプロセスとして重視している。
 政府としては、先般、米国のブッシュ大統領が核戦力削減のために迅速に行動する旨表明したことを歓迎しており、また、ロシアのプーチン大統領が核弾頭の大幅な削減を行う意向を示していることも歓迎している。

一の5について

 核についての透明性が図られることは、核兵器及び関連物資の軍備管理・削減措置の検証に資するものであり、解体核兵器から生じた核物質が再び核兵器に用いられないことを確保するため有益であり、さらに、核軍縮における関係各国間の信頼醸成に資するものであって、重要であると考えている。
 我が国が提出し、採択された道程決議においては、すべての核兵器国が核軍縮の一層の進展を担保するための自発的な信頼醸成措置として、透明性の向上の重要性を強調しているところである。

一の6について

 核兵器について即時警戒態勢を解除することは、核軍縮における関係各国間の信頼醸成を図るためにも重要であると考えている。
 我が国が提出し、採択された道程決議においては、核兵器システムが運用される状態を一層低減するために具体的措置に合意することの重要性に言及しているところである。

一の7について

 核分裂性物質を厳重に管理することは、核軍縮・不拡散上重要であると考えている。
 政府としては、冷戦後の米国とロシアの核軍縮交渉の進展に伴うロシアによる核兵器の廃棄について、米国とロシアの核軍縮の今後一層の進展を促すためにも、先進国首脳間の合意をも踏まえ、従来から積極的に支援してきたところであり、例えば、解体された核兵器から生じるプルトニウムの管理・処分のためのプロジェクトについて、既にロシアに対して具体的な協力を開始しているところである。

一の8について

 昨年の九州・沖縄サミットで採択された先進国首脳コミュニケにおいて表明された、動機のいかんを問わずあらゆる形態のテロリズムと闘うとの決意にも示されているとおり、政府としては、千九百九十五年の地下鉄サリン事件の教訓等も踏まえつつ、テロリスト等による大量破壊兵器及びその関連物資の入手やそれらを標的としたテロを未然に防止するための国際協力に積極的に参加することが重要であると考えている。
 政府としては、今後とも、各国及び国際機関との間でテロ防止のための情報交換を行っていくほか、各国が核物質の防護に関する条約(昭和六十三年条約第六号)の規定を遵守するよう呼び掛けるとともに、現在国連で交渉中のいわゆる核テロ防止条約の採択に向けて努力していく考えである。

一の9について

 大量破壊兵器の運搬手段たる弾道ミサイルの拡散は、地域及び国際の平和及び安全への脅威をなすものと認識しており、これに対する措置を強化することは重要であると考えている。
 政府としては、ミサイル技術の拡散を防止することを目的とする国際的な枠組みであるミサイル技術管理レジームの設立に関与し、この枠組みの中で、ミサイル並びにその開発に寄与し得る関連物資及び技術の国際的な輸出管理の実効性の強化に努めてきたところであり、また、本年三月には、アジア諸国の担当者を東京に招き、弾道ミサイルの拡散に立ち向かうための諸施策について意見交換を行ったところである。政府としては、今後とも引き続き積極的な取組を行っていきたいと考える。

一の10について

 政府としては、弾道ミサイルの拡散がもたらす深刻な脅威につき米国と認識を共有しており、米国が、これに対処するため各般の外交努力を行うとともに、ミサイル防衛計画を検討していることを理解している。また、政府としては、ミサイル防衛問題が軍備管理・軍縮努力を含む国際安全保障環境の向上に資する形で扱われていくことを望んでおり、米国が同盟国やロシア、中華人民共和国(以下「中国」という。)等と十分協議すると表明していることを歓迎している。
 なお、政府としては、弾道ミサイル防衛(以下「BMD」という。)に係る日米共同技術研究を実施しているが、これは技術研究段階のものであり、開発段階への移行、更には配備段階への移行については別途判断する性格のものであって、これらの判断は、BMDの技術的な実現可能性、将来の我が国の防衛の在り方等について十分検討した上で行うこととしている。

一の11について

 国際の平和及び安全のためには、南アジアにおける大量破壊兵器及びその運搬手段(以下「大量破壊兵器等」という。)の不拡散は重要であると考えている。
 政府としては、あらゆる機会をとらえ、インドとパキスタン・イスラム共和国(以下「パキスタン」という。)の両国に対し、CTBTへの早期署名を始めとする核不拡散のための措置を進展させるよう粘り強く働き掛けてきているところであり、今後ともこのような努力を続けていきたいと考える。

一の12について

 国際の平和及び安全のためには、中東における大量破壊兵器の廃絶は重要であると考えている。
 我が国は、昨年の国連総会に提出された中東における非大量破壊兵器地帯構想に係る決議案にも賛成したところである。

一の13について

 北朝鮮による核兵器の開発及び弾道ミサイルに関連する活動は、国際的な大量破壊兵器等の不拡散への取組に背馳する重大な問題であるとともに、我が国を含む北東アジアの安全保障に直接かかわる問題であると考えている。
 政府としては、北朝鮮に対し、核兵器開発問題については、CTBTへの署名及びCTBTの批准、朝鮮半島エネルギー開発機構によるプロジェクトへの協力、国際原子力機関(以下「IAEA」という。)によるフルスコープ保障措置協定の完全履行等を求めるとともに、弾道ミサイル問題については、米国と緊密に協議しつつ、弾道ミサイルに関連する活動全般を中止するよう粘り強く求めていきたいと考える。

一の14について

 大量破壊兵器等の拡散は国際の平和及び安全に対する脅威をなすものと認識しているところ、国際の平和及び安全の維持については、国際連合憲章(昭和三十一年条約第二十六号)上、安全保障理事会が主要な責任を負っている。
 政府としては、安全保障理事会の常任理事国による拒否権の行使は、大量破壊兵器等の拡散の問題に限らず、一般に、最大限自制されることが不可欠であると考える。

一の15について

 NPT運用検討会議の成功にもかかわらず、軍縮会議が依然として停滞状態にあり、全く進展が見られないのは遺憾であると考えている。
 政府としては、軍縮会議を再活性化するなどのため、本年五月に、ジュネーヴにおいて、いわゆるカットオフ条約に関するワークショップを開催するなどの具体的な措置を講じているところである。

一の16について

 軍備管理・軍縮・不拡散に関する合意の完全な実施を確保するためには、検証措置の強化が不可欠であると考えている。
 核兵器については、我が国は、従来から、NPT締約国として、IAEAによる保障措置を受け入れてきており、特に最近は、核兵器の不拡散に関する条約第三条1及び4の規定の実施に関する日本国政府と国際原子力機関との協定の追加議定書(平成十一年条約第十七条)をIAEAとの間で締結し、千九百九十九年十二月、世界で八番目に発効させたところであり、政府としては、アジアの国々を始めとする同追加議定書の未締結国に対し、早期にこれを締結するよう働き掛けているところである。生物兵器については、現在、細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約(昭和五十七年条約第六号)を強化するための検証措置に係る議定書の作成交渉が行われており、政府としては、引き続き目標期限である本年中の妥結に向けて努力していく考えである。化学兵器については、我が国は、化学兵器の開発、生産、貯蔵及び使用の禁止並びに廃棄に関する条約(平成九年条約第三号)の締約国として、化学兵器禁止機関による検証措置を受け入れているところであり、政府としては、同条約の普遍性と実効性を高めるための努力を行っているところである。

一の17について

 核軍縮・不拡散の違反に対して効果的な制裁メカニズムを構築することは重要であると考えている。
 NPT上の義務違反が生じた場合には、IAEAから国連の安全保障理事会に対してその旨が報告されるところ、政府としては、そのような場合には、国際社会が断固たる措置を採るべきであると考えており、また、NPT非締約国によるNPTの規定に反する行為については、大量破壊兵器の拡散が国際の平和と安全に対し与える脅威に係る千九百九十二年の安全保障理事会議長声明に基づき、しかるべき措置が採られる必要があると考える。

二について

 政府が、千九百九十六年九月から本年三月までの間に行った、各国に対するCTBTへの署名及びCTBTの批准の働き掛けのうち、主なものは次のとおりである。

1 千九百九十八年十一月に、高村外務大臣(当時)から、CTBTの発効要件国の外相にあてて、書簡を発出した。
2 千九百九十九年十月に、小渕内閣総理大臣(当時。以下同じ。)から、米国のクリントン大統領(当時。以下同じ。)にあてて、書簡を発出するとともに、河野外務大臣(当時。以下同じ。)から、米国のオルブライト国務長官(当時。以下同じ。)にあてて、書簡を発出した。
3 千九百九十九年十月に、山本外務政務次官(当時。以下同じ。)が、米国、インド及びパキスタンを訪問し、働き掛けを行った。
4 千九百九十九年十月に、河野外務大臣から、米国を除く未批准国の外相にあてて、書簡を発出した。
5 二千年二月に、高村衆議院議員が、小渕内閣総理大臣の親書を携行して、エジプト・アラブ共和国及びアルジェリア民主人民共和国を訪問し、働き掛けを行った。
6 二千年二月に、山本外務政務次官が、中国を訪問し、働き掛けを行った。
7 二千年八月に、森内閣総理大臣(当時)が、インド及びパキスタンを訪問し、働き掛けを行った。
8 二千一年一月に、河野外務大臣が、米国を訪問し、働き掛けを行った。

三について

 政府としては、米国に対し、例えば、千九百九十九年十月の米国の上院によるCTBT批准法案の否決を受け、小渕内閣総理大臣からクリントン大統領あてに、河野外務大臣からオルブライト国務長官あてに、それぞれ書簡を発出したほか、山本外務政務次官を派遣して米国の上院議員等に対して働き掛けを行い、また、本年一月の日米外相会談においても、河野外務大臣からパウエル国務長官に対して働き掛けを行うなど、CTBTの早期批准を求めてきたところであるが、今後とも、米国政府と緊密に協議しながら、各種の機会を通じ、米国の議会等に対し、早期批准を働き掛けていく考えである。

四について

 政府としては、本年九月に開催される第二回CTBT発効促進会議の成功に向けて、今後とも、引き続き、各種の機会を通じて、米国以外の未署名・未批准国に対しても、早期の署名・批准を求めていく考えである。

五について

 政府としては、核兵器のない世界の一日も早い実現を目標とし、この目標に向けて核軍縮・不拡散のための様々な外交努力を行ってきているところである。他方、現実の国際社会においては、いまだ核戦力を含む大規模な軍事力が存在しており、そのような厳しい安全保障環境の下で我が国として安全保障に万全を期するためには、核を含む米国の抑止力に依存することが必要であると考えている。
 政府としては、このように、国の安全保障という最重要の責務を遂行していく中で核軍縮・不拡散及び核廃絶を唱えているものであって、米国の核抑止力に依存することと核廃絶を唱えることは何ら矛盾するものではないと考える。