質問主意書

第151回国会(常会)

質問主意書


質問第四六号

トラック輸送の安全確保と公正取引の確立に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十三年六月二十八日

筆坂 秀世   
緒方 靖夫   
山下 芳生   
阿部 幸代   


       参議院議長 井上 裕 殿


   トラック輸送の安全確保と公正取引の確立に関する質問主意書

 わが国のトラック運送事業は、国内貨物輸送全体の九一%(トン数ベース)を担っており、日本経済を支える物流の軸ともいえる役割を果たしている。しかし、この間の日本経済の深刻な不況の下で、トラック運送事業は極めて厳しい状態にある。しかも一〇年前の物流二法の規制緩和措置により、過当競争に拍車がかかり運賃ダンピング問題や大型トラックなどの重大事故が増加している。
 九〇年一二月の物流二法の施行以降、現在までトラック運送事業者は、三万八二一六社から現在五万五二九社と一万二三一三社(三二%増)も増加、毎年約二〇〇〇社を超える新規参入となっている。明らかな過密、過剰の状態であり、熾烈な過当競争による影響で、物流二法施行前には年間で一〇〇件程度であった企業倒産件数が、毎年五〇〇件から六〇〇件へと急増している。一方、廃止業者は四〇〇社から六〇〇社に及んでいる。
 また、警察庁の「交通統計」によれば、営業用トラックによる交通事故件数は、物流二法が施行される前年の八九年が二万二七五〇件であったのに対し、その後増加を続け、九九年には二万九七二一件へと大幅な増加をみている。死亡事故件数も六九二件(九九年)と、依然高い水準にある。
 大阪労働局が二〇〇〇年に行った労働災害調査では、交通労働災害による死亡者のうち、トラック輸送が占める割合が四六%の高率になっていることを指摘し、その六〇・五%が午前〇時から午前六時の間に発生して六三・二%が追突及び激突によるものであることに注目し、「深夜運行、到着時刻指定、天候などの労働環境や労働条件からもたらされる疲労の蓄積や睡眠不足などが発生原因の一つになっていると考えられる」と分析している。
 大阪労働局による調査分析の結果は、(社)全日本トラック協会(全ト協)や(社)日本物流団体連合会(日本物流連)、あるいは全日本建設交運一般労働組合(建交労)が行った、「トラック運送事業の経営やトラック労働者の実態調査」によっても裏付けられている。全ト協が、二〇〇〇年に二四七一人のトラック労働者から行った聞き取り調査では、一か月間の平均休日数は、四日から五日が四九・四%と約半数を占め、三日以内が、二〇・一%もあった。荷主から過積載を強要されたトラック労働者も五三・九%を数えている。また、全ト協がまとめた「トラック運送事業の賃金実態」(二〇〇一年版)及び「タンクトラック運輸事業の労働、稼働、賃金実態」(二〇〇〇年版)によれば、トラック運転労働者の年間賃金の総額は三年連続して低下し、労働時間は全産業の年間総労働時間(一八四五時間)を大きく上回る二五四五時間となっている。特に石油類輸送労働者に至っては、前年度(九九年)の総労働時間を八七時間も上回り、二八四九・八時間(北海道では、三一四三・六時間。)に達する異常な長時間労働の実態が浮き彫りになっている。
 日本物流連は、九九年に一〇〇〇社のトラック運送事業者を対象に「物流業における規制緩和の影響と安全輸送」に関する調査を行い、「運賃の低下にともなうトラック運送事業者の人件費コスト削減や無理な連行スケジュールなどが、トラック労働者の過度な負担につながり、安全面への影響が懸念される」と分析した報告書を二〇〇〇年三月に発表している。
 トラック労働者を組織する建交労が、毎年行っているトラック労働者の実態調査では、運転中に居眠りをした経験が「ある」「時々ある」「常にある」を合わせた回答が、常に七〇%前後に達している。
 日本の物流を担うトラック輸送現場のこうした実態は一刻も放置できないものであり、トラック輸送の安全確保に向けた実効ある対策は緊急の課題となっている。
 よって以下質問する。

一 安全輸送を確保するための公正取引、適正運賃の収受について

 トラックの安全輸送にとって、荷主の理解と協力が決定的に重要なことは明らかであるが、荷主とトラック業者との取引は極めて不公正な状態にあり、安全輸送を担保する発注条件は確保されていない。

1 運賃ダンピング問題に関して何度も国会で取り上げ改善を求めてきた。とりわけ、九六年五月二一日の参院運輸委員会で筆坂議員の指摘を受け、運輸省が初めて「運賃実態調査」を実施したのは大変重要なことであった。その調査の結果「協力金」などの名目による運賃ダンピングが行われていることが裏付けられた。その調査結果に基づいて荷主に対しどのように指導したのか具体的に例示されたい。また、荷主はどのような対応をしたのか具体的に示されたい。
 運賃ダンピングがこのように常態化している状況で改善是正していく上で毎年定期的に実態調査を実施すべきであると考えるがどうか。
2 しかし、この調査以降も依然として運賃ダンピングは継続されている。国土交通省(旧運輸省)は、二〇〇〇年二月八日に自動車交通局長名で、「トラック運送事業者の過積載違反等の防止に関する協力依頼について」と題する文書を荷主九七団体に発出した。ここでは、「過積載等の違法行為を防止するためには、(中略)荷主の方々のご理解とご協力が不可欠である」とし、「貨物の運送依頼に当たって過積載等違法な行為を惹起することとならないよう格別の配慮を」と荷主団体に求めている。これに続いて各地方運輸局からも同趣旨の協力依頼文書が地方の荷主団体に発出されている。
 大阪労働局からは、二〇〇〇年一一月二一日付けで「トラック運送事業の交通労働災害防止のための協力依頼要請について」との文書が荷主一五〇〇団体に発出された。要請文では、先に述べたトラック交通労働災害の調査結果に基づいて「特に、トラック運送事業における交通労働災害防止には、荷主の発注条件が労働環境や労働条件に大きく影響を与えており」と規定した上で、「荷主の方々が無理な発注条件を提示することがないよう、ご理解、ご協力をいただくことが交通労働災害を防止する上で不可欠」としている。
 こうした関係当局から荷主への協力依頼、要請にもかかわらず、事態は改善されていない。
 日本物流連の調査によれば、荷主との運賃交渉に当たってトラック運送会社がイニシアチブを発揮している例は〇・九%に過ぎない。全ト協では、「運賃値下げは限界です」といった悲鳴に近い意見広告を荷主の業界紙などを使って再三掲載せざるを得ない状況に追い込まれている。
 建交労が今年行ったトラック業者の経営実態調査では、この間に「運賃が下がった」と回答した企業は七九・八%に上り、運賃下落への対応としては、「賃金労働条件の見直し」が圧倒的に多く、五〇・六%を数え、三二%が労働基準法の遵守や社会保険の加入も困難と回答している。また、今年三月一日に建交労が行った国土交通省への要請の中で、同省は「トラック産業の健全な発展にとって、公正取引、適正運賃収受は基本中の基本」との見解を表明したものの同省が昨年二月八日に荷主九七団体へ発出した協力依頼文書は効果が上がっていないことを認めている。
 これらの例は、トラック業者が荷主との関係で極めて弱い立場にあり、そのしわ寄せがトラック労働者に向けられていることを実証するものである。
 したがって政府は、関係する行政当局から荷主団体に発出された「協力依頼、要請」を実効あるものにするため、荷主の優越的地位を濫用した不公正な取引実態を調査し、不当な取引を強要する荷主に対しては、届出運賃に基づく適正な運賃、料金の支払など、強力な指導をすべきではないか。
3 貨物自動車運送事業法第六四条に荷主勧告制度がある。しかし、この間一度も発動していない。荷主勧告制度の目的とねらいについて運輸省は「運送業界は荷主からの不当な要求を受けやすい環境にある。その改善する施策が必要である」とわが党の議員に答弁している。しかし、政府の対応は荷主に対する、「お願い」の範囲のものであり、「不当な要求を受けている実態からも毅然とした態度で指導勧告することが求められているがどうか。
 また、荷主側が「不当な運賃の要求をしたという事実が明らかな場合には荷主勧告の対象である」と国会答弁しているが、九六年の運輸省調査結果からも運賃ダンピングはまさに不当な運賃に当たるのではないか。もし不当な運賃ではないというならその根拠を示されたい。
4 石油類輸送にかかわる取引を中心として「運賃、料金の入札」による契約が広がっているが、この入札の在り方は、石油元売りメーカーが、あらかじめ設定した運賃、料金に下がるまで入札を繰り返すなど、事実上、「運賃、料金引下げの道具」として機能している。
 大手の石油類輸送会社の中には、石油輸送のタンクトラック運転手の賃金を一日当たり、六〇〇〇円に設定した運賃、料金の「入札」で石油メーカーとの契約を独占し、これを下請運送会社に「丸投げ」する事態も発生している。こうした契約実態から生み出される劣悪な労働条件が、輸送の安全と相容れないことは明白である。また、石油類輸送などに使用するタンクトラックは、特定使用車であり転用ができない。九九%以上が中小零細企業の業界にあって、不当な「入札」制度で契約継続を絶たれた輸送業者は壊滅的な打撃を避けられない。
 貨物自動車運送事業法に規定されている届出運賃制度と、明らかに運賃ダンピングを目的とする入札は矛盾するものと考えるがどうか。また、政府はこうした一方的入札の実態を調査し、届出運賃を無視して運賃ダンピングを目的とするような「入札」を行う石油メーカーなどに対し、同法六四条に基づく荷主への是正勧告を行うべきではないか。
5 トラック産業では、九〇年一二月の物流二法(規制緩和)施行以来、バブルの崩壊、長期不況とも相まって、業界秩序が著しく混乱している。運賃、料金に関する現状は、先に述べたとおり、適正な原価及び適正な利潤を基準とするものとはかけ離れ、過積載などの違法行為を惹起するような運賃、料金の引下げが横行している。
 政府は、安全を無視したトラック輸送の実態を直視し、トラック産業の健全な発展を目的として「貨物自動車運送事業法」第六三条に基づく「標準運賃及び標準料金」の設定、同法第六七条による「緊急調整措置」の速やかな発動に踏みきるべきではないか。
6 過積載や過労運転など違法行為を前提とするような発注条件を強要する荷主に対しては、是正勧告を含めた断固とした措置を講ずるとともに、過積載防止のための措置として、「自重計」の設置義務や荷主による輸送状の発行を徹底するなどの対応が必要不可欠ではないか。

二 安全輸送を確保するためのトラック労働者の労働条件改善について

 二〇〇〇年一月三一日に、日本共産党の寺前前衆議院議員から提出された「危険有害物輸送の事故再発防止と安全確保に関する質問主意書」の四の4の問いに対し、同年二月二五日の答弁書は、「過労運転等を防止し、輸送の安全を確保することは、貨物自動車運送事業法第十七条等の規定により運送事業者の義務とされている。(中略)政府としても、輸送の安全の確保について所要の指導を行ってまいりたい」とし、「タンクローリー運転者を含むトラック運転者の労働時間等の労働条件の改善を図るため、(中略)自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(平成元年労働省告示第七号)のほか労働基準関係法令の遵守の徹底に努めてきたところであり今後とも、業界団体に対する指導及び個別事業者に対する監督指導を実施してまいりたい。」と述べている。

1 石油類輸送労働者の前年を上回る異常な長時間労働や、三年連続して低下しているトラック労働者の賃金、重大事故の増加などが示すように、事態は改善されるどころか後退していると思われるが、政府はどう受けとめているか。
2 政府は、この一年間にどのような具体的指導監督を行ってきたのか。また、安全輸送に不可欠な過労運転防止などに向け、荷主を含めた罰則規定の強化などが必要ではないか。
3 トラック貨物輸送の交通事故多発要因として、長時間・過労運転があることは明白である。しかも、運転者の「拘束時間」「連続運転時間」「休息時間」などの違反率は五〇%を超えている。こうした過労運転の防止対策のため、法や改善告示の遵守の徹底を図るべきではないか。
 また、国土交通省の過労運転防止のための安全規則の趣旨からしても、いわゆる「休息時間」を車両べットで充当することは適当ではないと考えるがどうか。

三 物流二法の見直しについて

 以上指摘したように物流二法の改正後過当競争に拍車がかかり運賃問題、過積載問題、過労運転、交通事故などこの十年間で問題は山積みされて出されている。この際物流二法の抜本的見直しを検討すべきではないか。

  右質問する。