質問主意書

第150回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第一五号

内閣参質一五〇第一五号

  平成十二年十二月二十二日

内閣総理大臣 森 喜朗   


       参議院議長 井上 裕 殿

参議院議員朝日俊弘君提出医療法における精神病床の人員配置基準に係る特例規定と社会権規約に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員朝日俊弘君提出医療法における精神病床の人員配置基準に係る特例規定と社会権規約に関する質問に対する答弁書

一について

 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(昭和五十四年条約第六号。以下「社会権規約」という。)第二条2は、「この規約の締約国は、この規約に規定する権利が人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位によるいかなる差別もなしに行使されることを保障することを約束する。」と規定している。障害に基づく差別は、この規定にいう「他の地位」による差別として禁じられているものと解されているが、この規定は、不合理な差別を禁ずる趣旨であって、合理的な差異を設けることまで禁ずるものではないと解している。
 千九百八十五年五月二十八日の国際連合経済社会理事会決議に基づき設置された経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会が作成した「一般的性格を有する意見」における御指摘の箇所については、社会権規約第二条2が禁じている「障害に基づく差別」に「障害に着目して合理的な差異を設けること」が含まれるという趣旨ではないことを前提として、基本的に同意できるものと考えている。

二の1及び2について

 現行の精神病床に係る医師、看護婦等の人員配置基準は、密度の濃い医療の提供を必要とする患者と病状が安定し療養を中心とする患者とが同一の精神病院(精神病院以外の病院で精神病室が設けられているものを含む。以下同じ。)に入院しているという状況等を踏まえて、精神病院が少なくとも有するべき標準を定めたものである。一方、診療報酬においては、医師を一般病床並みに配置した場合の加算、看護婦等の配置数に応じた入院基本料の設定等の措置を講ずるとともに、入院精神療法、精神科作業療法等の専門的な精神科療法を個別に評価する等質の高い医療の確保に配慮しているところである。
 また、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号)に基づき精神病院に入院している患者は、その症状に応じ、当該患者の医療又は保護に欠くことのできない限度において行動についての制限を受けるが、当該患者が身体的疾患等を有する場合は、その入院している病棟において当該身体的疾患等に係る診療を受けることができるほか、当該病棟において診療することが困難な重度の身体的疾患等を有する場合は、他の病棟で診療を受けることも可能である。
 お尋ねの「精神科入院患者が他の社会構成員と同じレベルの医療ケアを受ける権利」とは何を指すか明らかではないが、精神疾患を有する入院患者に対して、それぞれの疾病に即した適切な水準の医療を受けることが確保されていれば、千九百九十三年十二月二十日の国際連合総会決議「障害者の機会の平等化に関する基準規則」の御指摘の箇所との関係で問題が生ずることはなく、ひいては社会権規約第二条2及び第十二条2との関係で問題が生ずることはないと考えている。

二の3について

 精神疾患を有する入院患者に対しては、快適な環境の下で、質の高い医療を提供することが重要であると考えている。
 医療法等の一部を改正する法律(平成十二年法律第百四十一号)による改正後の医療法(昭和二十三年法律第二百五号。以下「新医療法」という。)において、高齢化に伴う疾病構造の変化等を踏まえた新たな病床区分が設けられ、それぞれの病床の機能にふさわしい構造設備基準及び人員配置基準を定めることとされたことを受けて、現在、精神病床に係る構造設備基準及び人員配置基準についても、精神疾患を有する者の特性を十分に踏まえながら、見直しを検討しているところである。その具体的な内容としては、大学附属病院等の精神病床については、新医療法第七条第二項第五号に規定する一般病床と同等の基準とし、その他の精神病床については、看護婦等の員数に係る基準等を引き上げることを考えている。