質問主意書

第150回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第六号

内閣参質一五〇第六号

  平成十二年十二月一日

内閣総理大臣 森 喜朗   


       参議院議長 井上 裕 殿

参議院議員井上美代君外三名提出政府の核・生物・化学兵器(NBC兵器)対処に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員井上美代君外三名提出政府の核・生物・化学兵器(NBC兵器)対処に関する質問に対する答弁書

一の1及び三の4について

 冷戦終結後、核・生物・化学兵器(以下「NBC兵器」という。)及びその運搬手段である弾道ミサイルについては、その世界的な拡散が懸念される状況にある。また、特に生物兵器及び化学兵器は比較的安価かつ製造が容易であり、その拡散は新たな脅威と認識されている。NBC兵器は、これが使用された場合、地域が汚染されるとともに大量無差別の殺傷の結果を生ずる可能性があり、決して使用されるべきでない兵器であると考えるが、このような兵器が依然として存在し、その拡散が懸念される現状にかんがみれば、国家以外の主体による場合や偶発的な場合も含め、その使用の可能性は否定できないと考えられる。
 防衛庁においては、これらの事態に対し、より効果的に対処し得る態勢を確立するため、NBC兵器への対処能力の充実強化を図ることとしており、平成十二年度予算において、NBC兵器対処関連事業として、総額二十四億三千六百六十二万七千円を計上した。具体的には、部外有識者を中心とした生物兵器対処についての会議の開催、米軍での研修等による研究面及び教育面での強化のための経費千六百九十二万九千円、各種防護及び検知器材の取得による装備面での強化のための経費二十三億五千百二十九万二千円並びにその他化学防護車の分解修理等のための経費六千八百四十万六千円を計上している。
 平成十三年度概算要求においても、引き続きNBC兵器への対処能力の充実強化を図ることを目的とし、NBC兵器対処関連事業として、総額二十九億千八百七十八万九千円を計上している。具体的には、研究用器材の取得、米軍での研修等による研究面及び教育面での強化のための経費三億七千九百四十万五千円、各種防護及び検知器材の取得による装備面での強化のための経費二十四億九千三百八十一万八千円並びにその他化学防護車の分解修理等のための経費四千五百五十六万六千円を計上している。

一の2について

 防衛庁においては、平成十二年度末、陸上自衛隊三宿駐屯地内に陸上自衛隊開発実験団部隊医学実験隊(定員約二十名)を編成し、同隊に医学・特殊武器衛生研究科を設置する計画である。
 同科には、医師、臨床検査技師等の資格を持った自衛官を配置し、同科において、武器の使用等の自衛隊の任務の特性及び野外環境から生起する傷病(NBC兵器による傷病を含む。)の予防、応急治療等に関する研究を実施する予定であるが、現時点では、いまだ同隊を編成していないため、同科における今後の研究計画について申し上げる段階にない。

一の3について

 一の2についてで述べたとおり、現時点では、いまだ陸上自衛隊開発実験団部隊医学実験隊を編成していないため、医学・特殊武器衛生研究科においてお尋ねのような研究等を行うこととなるか否かについて申し上げる段階にない。
 生物兵器として使われる可能性がある細菌にどのようなものがあるかについては、現在、生物兵器への対処に関する懇談会(以下「懇談会」という。)において検討しているところである。

一の4について

 生物兵器として使われる細菌に関する研究をどのように実施するかについては、今後、防衛庁において、懇談会がまとめる予定の報告書等を踏まえ、検討してまいりたい。

一の5について

 防衛庁においては、現在各職種別の学校で行われている陸上自衛隊の運用、編成、装備等に関する研究を総合的かつ一元的に実施するため、平成十二年度末、陸上自衛隊朝霞駐屯地(以下「朝霞駐屯地」という。)内に新たに陸上自衛隊研究本部を編成する予定である。
 同研究本部は、陸上自衛隊の研究機関として中心的な役割を担い、総合的な研究を行うこととなり、その中にはNBC兵器への対処に関する研究も含まれる予定である。

一の6について

 防衛庁においては、平成十三年度概算要求において、平成十三年度末、朝霞駐屯地内に、陸上自衛隊東部方面隊の隷下に新たに東部方面衛生隊を編成するとともに、同隊の隷下に新たに野外病院隊を編成することとしている。
 これらの部隊は、負傷した隊員の治療、後送を行うこと等を任務としており、NBC兵器が使用された場合の偵察、防護及び除染といった対処能力は有していない。

一の7について

 平成十三年度概算要求において新たに編成することとしている東部方面衛生隊及び同隊隷下の野外病院隊は、朝霞駐屯地内の埼玉県朝霞市の行政区域内に所在する建物を使用することを計画している。

一の8について

 陸上自衛隊化学学校においては、これまで、NBC兵器が使用された場合の偵察、防護及び除染を行うため、化学防護、化学技術等に関する研究を行ってきた。今後、同学校においては、平成十二年度末に新たに編成する予定の陸上自衛隊研究本部と連携しつつ、引き続き、かかる研究を行っていく予定である。

二の1について

 懇談会の委員及びその肩書は、別紙一のとおりである。また、懇談会の事務局の職員は、防衛庁衛生担当参事官、同庁人事教育局衛生課長及び同課職員である。

二の2について

 懇談会は、防衛庁職員以外の専門家から広く意見を頂くことを目的として開催しているものであるため、これまで開催した二回の懇談会の議事概要には、防衛庁職員の発言内容は記録していない。

二の3について

 懇談会の第一回及び第二回会合の際に委員に配布した参考資料については、既にその内容を公表しているところであるが、各参考資料の表題は、別紙二のとおりである。

二の4について

 厚生省においては、平成十二年度補正予算において、化学兵器を使用したテロ災害等の化学災害に医療機関が適切に対応できるよう、地域における災害医療及び救急医療の体制の充実を図ることを目的として、総額五億二千五百八十九万六千円を計上している。具体的には、化学災害対策設備整備事業として、救命救急センターに配備する簡易毒劇物検査キット、防護服等の購入に係る都道府県に対する国庫補助費五億二百七十四万円を計上するとともに、化学災害研修事業として、救命救急センター等に勤務する医師に対する急性中毒処置に関する研修等に係る財団法人日本中毒情報センターに対する委託費二千三百十五万六千円を計上している。

二の5について

 我が国及び米国は、いずれも、「細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約」(昭和五十七年条約第六号。以下「生物兵器禁止条約」という。)及び「化学兵器の開発、生産、貯蔵及び使用の禁止並びに廃棄に関する条約」(平成九年条約第三号。以下「化学兵器禁止条約」という。)を締結しており、生物兵器禁止条約第一条は、締約国は、いかなる場合にも、生物兵器を開発せず、生産せず、貯蔵せず若しくはその他の方法によって取得せず又は保有しないことを約束する旨を、また、化学兵器禁止条約第一条は、締約国は、いかなる場合にも、化学兵器を使用することを行わないことを約束する旨を、それぞれ規定している。
 したがって、生物兵器及び化学兵器を使用しないことは、国際法上、我が国及び米国が負っている義務であり、御指摘のような事態において、自衛隊が生物兵器及び化学兵器を使用することはなく、また、米軍が生物兵器及び化学兵器を使用することも想定されない。

二の6について

 防衛庁においては、NBC兵器対処に関する技術情報を得るため、平成十二年十月に米陸軍化学学校等へ自衛官一名を八日間の日程で派遣しており、平成十二年度予算において、そのための経費七十一万三千円を計上している。また、生物剤による負傷者の診断、治療技術等を習得するため、同年七月から米陸軍感染症研究所等へ自衛官一名を一年間の日程で派遣しており、同年度予算において、そのための経費三百九十三万二千円を計上している。さらに、NBC兵器対処に係る教育訓練内容等を調査するため、同年十一月に米陸軍化学学校等へ自衛官四名を約二週間の日程で派遣しており、同年度予算において、そのための経費二百五十万七千円を計上している。

二の7について

 懇談会においては、平成十二年九月、いずれも米国政府の機関である米陸軍感染症研究所、米陸軍兵士生物化学コマンド、生物防護統合計画室、ウォルターリード陸軍医療センター及び米国疾病管理センターを訪問することにより、米国における生物兵器対処の現状及び今後の動向を調査した。同調査には、懇談会の委員九名全員が参加した。また、平成十二年度予算において、同調査のための経費五百八十八万五千円を計上している。

二の8について

 懇談会は、生物兵器が使用された場合に、自衛隊が任務を遂行する上で必要となる対処能力等について検討することを目的として、防衛庁長官が開催している行政運営上の会合であり、懇談会がまとめる予定の報告書は、防衛庁において、生物兵器への対処に必要な体制の構築に当たって活用することを予定している。
 また、懇談会の委員については、微生物の研究、感染症治療、諸外国の軍事情勢等、懇談会における議論に必要な分野の専門家を選定しているのであって、委員が所属する組織とは無関係である。
 したがって、政府が、懇談会の意見等を踏まえて、地方自治体等を総動員したNBC兵器対処体制づくりに踏み出そうとしているとの御指摘は当たらない。

二の9について

 核物質、生物剤、化学剤等による大量殺傷型のテロ(以下「NBCテロ」という。)への対処に係る関係省庁の施策を取りまとめるため、平成十二年八月一日、内閣危機管理監が主宰する危機管理関係省庁連絡会議の下に、警察庁、防衛庁、科学技術庁、外務省、厚生省、通商産業省、海上保安庁及び消防庁の局長級の者が参加する関係省庁会議として、「NBCテロ対策会議」を設置した。
 同会議は、NBCテロが発生した際の対応における関係省庁の役割分担を明確にするとともに、NBCテロの原因物質及び治療法についての迅速な分析及び特定体制、被害者の救助、救命及び医療体制等の被害管理体制を確立し、医薬品等の備蓄体制を整備し、並びに核物質管理及び保安体制の強化等による発生防止対策を強化することを目的とし、平成十二年八月一日に開催した第一回会合においては、今後関係省庁が協力してこれらの施策を推進することを確認した。

三の1について

 平成十二年八月二十七日から同年九月二日までの間に相模総合補給廠で行われた医療訓練においては、太平洋地区における不測の事態、災害及び人道的救助に係る活動を支援し得る野戦病院の運用の訓練並びにその評価が行われたものと承知しており、周辺事態に際し我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律(平成十一年法律第六十号。以下「周辺事態安全確保法」という。)第一条に規定する周辺事態を特に想定してこれが行われたものとは承知していない。
 周辺事態安全確保法第二条においては、政府は、周辺事態に際して、適切かつ迅速に、後方地域支援、後方地域捜索救助活動その他の周辺事態に対応するため必要な措置(以下「対応措置」という。)を実施し、我が国の平和及び安全の確保に努めることとされており、対応措置の一つとして、自衛隊を含む国の医療機関等において、米軍人の負傷者等の治療を行うことは想定されるが、政府としては、現時点では、自衛隊を含む国の医療機関等がこうした対応措置を円滑に行うことを念頭に、傷病者に対する医療等に関連する米軍の訓練に参加・協力することについて、具体的に検討を行っているわけではない。
 また、地方公共団体の医療機関等が傷病者に対する医療等に関連する米軍の訓練に参加・協力することについても、政府としては、具体的に検討を行っているわけではなく、これに参加・協力するか否かについては、それぞれの地方公共団体の医療機関等において判断されるべきものと考えている。

三の2について

 医療・衛生の分野においても、自衛隊及び米軍が共同で訓練を行うことは、それぞれの技量の向上や日米間の連携要領の向上を図る上で有益であると考えているが、政府としては、現時点では、朝霞駐屯地で御指摘のような訓練を行うことについて、具体的に検討を行っているわけではない。

三の3について

 周辺事態安全確保法第二条においては、政府は、周辺事態に際して、適切かつ迅速に、対応措置を実施し、我が国の平和及び安全の確保に努めることとされており、対応措置の一つとして、自衛隊を含む国の医療機関等において、米軍人の負傷者等の治療を行うことがあり得るが、その際に治療を行うことができる受傷原因が特に限定されているわけではない。
 また、周辺事態安全確保法第九条に基づき、国が国以外の者に対して求め又は依頼する協力の内容については、事態ごとに異なるものであり、あらかじめ具体的に確定されるものではないが、一般論として、同条第二項に基づき、公立及び民間の医療機関に対し、米軍人の負傷者等の受入れについて協力を依頼することは想定される。なお、具体的にいかなる医療機関に対して協力依頼をするかについては、負傷者の状況、協力依頼をする地域における医療機関の状況等を総合的に勘案して決定することとなる。

別紙一

別紙二