質問主意書

第150回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第五号

内閣参質一五〇第五号

  平成十二年十二月八日

内閣総理大臣 森 喜朗   


       参議院議長 井上 裕 殿

参議院議員加藤修一君提出地球温暖化とメタンハイドレードに関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員加藤修一君提出地球温暖化とメタンハイドレードに関する質問に対する答弁書

一について

 気候変動に関する国際連合枠組条約(平成六年条約第六号)第五回締約国会議で採決された「年次目録に関する報告書のための指針」によれば、メタンは、単位重量当たり二酸化炭素の二十一倍の温室効果を有し、同指針に基づく算定によれば、平成十年度における我が国のメタンの排出量を二酸化炭素に換算した量(温室効果ガスたる物質の排出量に、当該物質の温室効果の二酸化炭素の温室効果に対する比率を乗じて得た数値をいう。以下同じ。)は、我が国のすべての温室効果ガスの排出量を二酸化炭素に換算した量の合計の約二パーセントを占めている。なお、同指針は、当該算定にメタンハイドレートの崩壊によるメタンの排出を含めていない。
 政府としては、メタンが高い温室効果を有することから、その排出の抑制等を図ることが重要であると考えており、このため、未焼却の廃棄物の分解によって、メタンが排出されることから、その直接埋立ての縮減を廃棄物を処理する者に働き掛けるとともに、メタンの排出源となる家畜について、その適切な飼養管理技術の確立に努めるなどの対策を推進している。

二の1について

 我が国のエネルギー供給構造については、主要先進国と比べて一次エネルギー供給に占める石油の比率が高く、石油供給に占める輸入比率が高いなどの脆弱性が指摘されているところである。政府としては、我が国のエネルギー供給構造の多角化及び国産エネルギーの開発を図る等によってエネルギーの安定供給を確保する観点から、我が国周辺海域で相当の量が賦存すると試算されているメタンハイドレートを将来のエネルギー資源として期待している。
 なお、平成六年六月に取りまとめられた石油審議会答申においても、「我が国周辺海域では、南海トラフ、オホーツク海、日高・十勝沖、西津軽沖、北海道西部沖等において、メタンハイドレートの存在を示唆する地震探鉱記録が得られ、相当の量が賦存するとも試算されていることから、将来の国内エネルギー資源として期待されている。」と提言されているところである。
 また、通商産業省においては、石油公団等の関係機関とともに、メタンハイドレートの賦存状況の把握や採取技術等に関する基礎的な調査及び研究を実施してきており、その一環として行われた平成十一年度御前崎沖の南海トラフでの試掘の結果、その存在を確認したところである。
 これまでのメタンハイドレートに関する調査及び研究に係る年度ごとの予算額と予算項目及びその概要は、別表のとおりである。

二の2について

 御指摘の大規模な津波の原因については、様々な見解が示されているところであり、現時点において、ハイドレート層の急激な崩壊による海底地滑りによって、それらが引き起こされたと確定的に判断することはできないと考えている。

二の3について

 メタンハイドレートについては、我が国のエネルギー供給構造の脆弱性を克服するため、将来の国内エネルギー資源として期待しているが、その安全性等についても十分配慮していく必要があると考えている。このため、メタンハイドレート層の形成及び崩壊の仕組みの解明を含めて、環境保全に配慮した採取技術等に関する調査及び研究を行っていく必要があると考えている。

三の1について

 メタンハイドレートの崩壊によるメタンの排出量については、国際的にも科学的知見が乏しい状況にあり、地球温暖化に対するメタンハイドレートの影響については、十分に明らかになっていない。
 なお、地球温暖化による気温上昇がメタンハイドレートに与える影響について申し上げれば、メタンハイドレートは、海底下又は凍土下部に存在することから、気温上昇による影響を直ちに受けることはなく、メタンの排出量をほとんど変化させないと考えられ、それが地球温暖化を更に助長する可能性は小さいと考えている。
 メタンハイドレートの地球温暖化に対する影響について、政府として調査及び研究を実施した例はないが、通商産業省においては、メタンハイドレートの賦存状況についての調査や実験室内における安定性の解明など、関連した調査及び研究を実施しており、また、環境庁においては、凍土上部に気泡として含有されているメタンが凍土の融解に伴い大気中へ放出される現象について、調査及び研究を実施しているところである。

三の2及び3について

 メタンハイドレートの崩壊によるメタンの排出量については、国際的にも科学的知見が乏しい状況にあるため、我が国を始め世界各国で開発されている全地球規模の気候モデルでは、メタンハイドレート層から排出されるメタンによる気候変動への影響及び全地球規模の炭素収支におけるメタンハイドレートの役割について考慮されていない状況にある。
 気候モデルにおいて、メタンハイドレート層から排出されるメタンによる気候変動への影響及び全地球規模の炭素収支におけるメタンハイドレートの役割を考慮することについては、メタンハイドレート層からのメタンの排出の仕組みやその排出量の推定などの基礎的な研究を実施し、科学的な知見を得た上で検討すべきであると考えている。

三の4について

 気候変動に関する政府間パネル(以下「IPCC」という。)は、新たな調査や研究を行うのではなく、気候変動に関する最新の科学的知見を取りまとめて評価し、各国政府に助言することを目的として設立されたものである。
 なお、メタンハイドレートについては、IPCC第二次評価報告書において、将来的かつ潜在的なエネルギー資源として記述されているが、地球温暖化への影響という観点からの評価は行われていない。このため、メタンハイドレートに関する国際的な調査、研究及び開発の進ちょく状況を逐次確認しながら、必要に応じて、メタンハイドレートの気候変動に対する影響評価の実施について、IPCCに働き掛けてまいりたい。

三の5について

 海洋法に関する国際連合条約(平成八年条約第六号)においては、国際海底機構(以下「機構」という。)が、深海底(国の管轄権の及ぶ区域(排他的経済水域又は大陸棚)の境界の外の海底及びその下をいう。以下同じ。)における概要調査、探査及び開発といった資源の商業利用に関する活動(以下「活動」という。)について、活動が環境に与える影響等を考慮した上で、規則及び手続を作成することとされている。しかしながら、深海底の各種の資源は、その性質、賦存状況、活動に関連して使用される技術及び機器等に相違があり、その活動が環境に及ぼしうる影響についても一様ではないことから、機構においては、具体的な活動の対象となりうる資源について優先的に規則及び手続が作成されることとなっている。
 メタンハイドレートについては、国際的にも科学的知見が乏しい状況にあるため、現在のところ、深海底においてその活動を行うという動きはない。今後、科学的知見が蓄積され、関連する技術が進歩し、深海底においてメタンハイドレートに係る活動について、機構において規則及び手続の作成が必要となれば、政府としても、環境の保護及び保全の必要性等を踏まえ、その作成に積極的に参画してまいりたい。

四について

 メタンハイドレートは、世界的にも相当量の賦存が確認されており、国際的な観点からみても今後の重要なエネルギー資源として利用される可能性があるものと考えているが、メタンハイドレートの崩壊によるメタンの排出が地球温暖化に与える影響については、国際的にも科学的知見が乏しい状況にあり、十分明らかになっていない。
 このため、関係諸国と共同研究を行うなどの連携を図りながら、メタンハイドレート層の形成及び崩壊の仕組みの解明を含めて、環境保全に配慮した採取技術等に関する調査及び研究を行っていく必要があると考えている。

別表 これまでのメタンハイドレートに関する調査研究に係る年度ごとの予算額と予算項目及びその概要 1/7

別表 これまでのメタンハイドレートに関する調査研究に係る年度ごとの予算額と予算項目及びその概要 2/7

別表 これまでのメタンハイドレートに関する調査研究に係る年度ごとの予算額と予算項目及びその概要 3/7

別表 これまでのメタンハイドレートに関する調査研究に係る年度ごとの予算額と予算項目及びその概要 4/7

別表 これまでのメタンハイドレートに関する調査研究に係る年度ごとの予算額と予算項目及びその概要 5/7

別表 これまでのメタンハイドレートに関する調査研究に係る年度ごとの予算額と予算項目及びその概要 6/7

別表 これまでのメタンハイドレートに関する調査研究に係る年度ごとの予算額と予算項目及びその概要 7/7