質問主意書

第150回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一四号

東海地震と浜岡原発の耐震性等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十二年十一月二十八日

福島 瑞穂   


       参議院議長 井上 裕 殿


   東海地震と浜岡原発の耐震性等に関する質問主意書

 東海地震の発生が非常に切迫していることを地震の専門家らがデータに基づいて警告している。科学技術庁防災科学技術研究所の岡田義光地震調査研究センター長は、「東海地震の震源域の駿河湾沿岸を中心とした静岡県中部地域で、昨年(一九九九年)夏から地震の回数が減っている。経験則からこの静穏化現象は、大地震の典型的な前兆現象として知られており、少なくとも一五年間で初めてのことである」(二〇〇〇年二月、地震予知連絡会に提出した観測レポート)と述べている。
 東海地震の発生に関してその前兆現象の監視・把握の任務を担い、最も信頼できるデータを把握している地震防災対策強化地域判定会の会長である溝上恵東京大学名誉教授は、一一月一四日に開催された静岡県等主催の「地震防災シンポジウム」で、「一九九六年に川根町直下で発生した地震を節目に、東海地震の震源と想定されているプレート同士の固着域で地震の静穏化が続いていること、御前崎の沈降の状況が変化したと見られること、最近の伊豆諸島周辺の地震活動などを解析し、総合的に考えて、東海地震は一段と切迫し、ステージが進んだとの疑いを持ちながら、更に追跡していく必要がある」という見解を述べている。
 政府がマグニチュード八クラスの巨大地震を想定している東海地震の想定震源域の真ん中に、中部電力浜岡原発の四基の原子炉があるが、東海地震は浜岡原発にとってほぼ直下の巨大地震となり、震度七の地震動となることを地震の専門家が指摘している。石橋克彦神戸大学教授は、「(原発の耐震設計は)地震の想定が根本的に間違っており、きわめて不十分(中略)、正常な安全感覚があるならば、(中略)浜岡原発は廃炉を目指すべきである。」と提言されている(岩波書店「科学」一九九七年一〇月号)。
 政府も中部電力も「浜岡原発は想定されるいかなる地震にも耐えられる」と主張しているが、その地震の想定が間違っていれば、浜岡原発が東海地震に耐えられないのは当然のことである。去る一〇月六日に発生した鳥取県西部地震は、原発の耐震安全性の根拠となっている「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(以下「耐震設計審査指針」という。)及び安全審査が間違っていることを改めて認識させる地震であった。
 原子炉内でウランを核分裂させて発電する原発は、膨大な放射能を内蔵する原子炉の健全性を守るために、あらゆる設備が完璧な耐震性を有していなければならず、地震により数ミリの亀裂が入ることも許されない。また、放射性物質は莫大な崩壊熱を有するため、発電中も、原子炉停止後も常に水で冷却して崩壊熱を除去しなければならない。したがって、炉心に水を送るすべての配管に絶対的な健全性が要求される。しかし、浜岡原発では、それぞれ重大な事故歴があったり、老朽化問題、原子炉圧力容器底部のひび割れ事故、配管検査データ捏造事件などがあり、絶対的な健全性を有しているとはいえない。
 浜岡原発が切迫している東海地震に耐えられるかどうかは、地域住民はもとより、すべての国民にとって重大な関心事である。政府がこの不安に対し、すべてを科学的なデータに従って健全性を明らかにすることは、高速増殖炉「もんじゅ」ナトリウム火災事故やJCO臨界事故等によって増大した原子力に対する国民の不安感と不信感を払拭するための唯一最高の手段であると考えるので、以下質問する。

一 東海地震の発生が切迫している可能性があるとする岡田義光氏や溝上恵氏の警告について、政府はどのように評価しているか明らかにされたい。

二 東海地震発生時の震源断層破壊の進行については様々なケースが考えられるが、浜岡原発一、二、三、四、五号機の耐震設計においてはどのようなケースを想定しているか。各号機についてすべてのケースを明らかにされたい。

三 二のそれぞれのケースについて、解放基盤表面での地震動及び周波数特性の計算手法、計算式、計算値を、浜岡原発一、二、三、四、五号機すべてについて、ケースごとにすべて明らかにされたい。

四 去る一〇月六日に発生した鳥取県西部地震は、気象庁の発表によると日野町観測点(以下「日野町」という。)では震度六強であった。原子力発電所の安全審査の手法を用いて、歴史地震から、日野町での最大震度を評価すると、最大震度五となり、それによる解放基盤表面での最大速度は九・六カインとなるが、これに間違いはないか。間違いであるとすれば何カインとなるか。

五 原子力発電所の安全審査の手法を用いて、活断層から、日野町での値を評価すると、震源距離から求める最大速度は一二・〇七カイン、断層距離から求める最大速度は一二・七八カインとなるが、これに間違いはないか。間違いであるとすれば何カインとなるか。

六 原子力発電所の安全審査の手法を用いて、地震地体構造から、日野町での値を評価すると、最大速度は一七カインとなるが、これに間違いはないか。間違いであるとすれば何カインとなるか。

七 原子力発電所の安全審査の手法を用いて、直下地震から、日野町での値を評価すると、最大速度は一三・五カインとなるが、これに間違いはないか。間違いであるとすれば何カインとなるか。

八 鳥取県西部地震発生以前に、日野町において原発の設置許可申請を行っていれば、最大速度は一七カインの想定で安全審査を通っていたこととなるが、これに間違いはないか。間違いであるとすれば、正しくは何カインで安全審査を通っていたことになるのか。

九 科学技術庁防災科学研究所のデータから、鳥取県西部地震における日野町での解放基盤表面での最大速度を求めると四四・〇七カインとなる。原子力発電所の安全審査の手法を用いて算定した最大速度一七カインは、その二分の一以下である。鳥取県西部地震に当てはめると、現行の安全審査及び耐震設計審査指針における最大速度の想定は著しく過小評価となると言わねばならないが、これに対する政府の見解を明らかにされたい。

十 現行の原子力発電所の安全審査及び耐震設計審査指針において、解放基盤表面における最大速度の算定に使われている金井式については、科学技術庁のK-ネット・データの実測値と比較した場合、鳥取県西部地震に当てはめた場合などから過小評価になることは明らかである。兵庫県南部地震を踏まえた原子力施設耐震安全性検討会委員である渡部丹慶応大学教授、東海第二原発訴訟政府側証人である伯野元彦東洋大学教授ほか、多くの専門家が既にそのことを認めている。したがって、政府が山口哲夫参議院議員提出の「浜岡原子力発電所の耐震性に関する質問主意書」に対する答弁書(一九九七年五月三〇日)で「金井式は、地震工学の分野において一般にその妥当性が十分認められており、今日においてもなお広く使用されている経験式である。浜岡原子力発電所は岩盤に直接支持される設計になっているため、岩盤上における地震動を算定する計算式として金井式を用いることは適切である」と回答したことは間違いと言える。そこで、政府の現時点での金井式についての見解を明らかにされたい。

十一 現行の原子力発電所の安全審査及び耐震設計審査指針において、活断層の認識されていない地点での直下地震の想定はマグニチュード六・五でよいとしている。しかし、活断層の認識されていなかった地点において、マグニチュード七・三(暫定値)の鳥取県西部地震は発生した。これは現行の安全審査及び耐震設計審査指針が明らかに誤りであることを示している。これについての政府の見解を明らかにされたい。

十二 地震学会会長である入倉孝次郎京都大学教授は、その論文「阪神・淡路大震災を起こしたものは何であったのか」(岩波書店「科学」二〇〇〇年一月号)で、「現行の耐震設計審査指針は、一九七八年に制定されたもので、阪神・淡路大震災の経験と二〇年間の地震学及び地震工学の研究成果をふまえた検討が必要と考える」と指摘している。最新の知見を用いた耐震設計審査指針の改定が早急に必要であると考えるが、これに対する政府の見解を明らかにされたい。

十三 東海地震発生が切迫している可能性があるにもかかわらず、浜岡原発の耐震設計の前提となる地震の想定が間違っており、地震動(最大速度)の想定が過小評価であるという指摘が専門家からなされている。よって東海地震発生時に浜岡原発の四基の原子炉が放射能放出事故を絶対起こさないという保証はない。防災上の観点から、中部電力に対する浜岡原発即時停止命令の発令をも含めた緊急措置を講ずる必要があると考えるが、これについての政府の見解を明らかにされたい。

十四 石橋克彦神戸大学教授は、朝日新聞本年一一月一日の「論壇」において、(鳥取県西部地震によせて)「この地震は、日本列島のほぼ全域が大地震活動期に入っていることをあらためて示したと考えられる。」、「原発の耐震設計審査指針の改訂と全国の原発の耐震性の総点検は一刻の猶予もならない。」と主張している。このことからも、耐震安全性に対する不安は、浜岡原発にとどまらず、日本列島全域に設置されているすべての原子力施設について言えることである。よって、すべての原子力施設について、老朽化・事故歴等を勘案した、耐震安全性についての早急な再検討が必要であると考える。これに対する政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。