質問主意書

第149回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第七号

内閣参質一四九第七号

  平成十二年九月八日

内閣総理大臣臨時代理             
国務大臣 中川 秀直   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員櫻井充君提出薬物依存に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員櫻井充君提出薬物依存に関する質問に対する答弁書

一について

 現在、我が国で最も乱用されている薬物は覚せい剤取締法(昭和二十六年法律第二百五十二号)に規定するフェニルメチルアミノプロパンであり、このほか、大麻取締法(昭和二十三年法律第百二十四号)に規定する大麻、麻薬及び向精神薬取締法(昭和二十八年法律第十四号)に規定するコカイン及びジアセチルモルヒネ(別名ヘロイン)、毒物及び劇物取締法施行令(昭和三十年政令第二百六十一号)に規定するトルエン及びシンナー等の薬物が乱用されている。
 薬物の俗称については、覚せい剤は「エス」、「シャブ」、「スピード」等と、乾燥大麻は「ハッパ」、「マリファナ」等と、大麻樹脂は「チョコ」等と、コカインは「コーク」、「スノー」等と、ヘロインは「ペー」等と、トルエンは「純トロ」等と呼ばれていると承知している。

二について

 平成十一年度の厚生科学研究費補助金により実施した「薬物使用についての全国住民調査」(以下「全国住民調査」という。)によれば、十五歳以上の者のうち、生涯において一回でも大麻、覚せい剤、コカイン、ヘロイン、LSD又はシンナーを乱用したことのある者(以下「薬物の生涯経験者」という。)の数は、約二百三十四万人と推定されているが、薬物依存症者の数は把握していない。
 また、依存性薬物情報研究班が実施した調査によれば、平成十一年度の薬物中毒又は薬物依存の報告症例の中では覚せい剤によるものが最も多く、五十八・六パーセントを占めている。

三について

 全国住民調査によれば、十五歳以上の者のうち薬物の生涯経験者の割合は、平成七年は一・八パーセント、平成十一年は二・二パーセントと推定されており、増加傾向にあると考えられる。これは、十歳代及び二十歳代の者の間で薬物乱用・依存問題を個人の自由と考える者の割合が増加していること、外国人による薬物の密売が増加したこと、携帯電話、インターネット等を利用した取引の増加により誰でも容易に薬物を入手できる環境が作り出されたこと、吸入による覚せい剤の使用が広まったこと等により、薬物に対する抵抗感、警戒感等が薄れたことや薬物の入手が容易になったことが原因であると考えられる。

四について

 薬物依存症から回復した者の数は把握していない。
 なお、平成十一年度の厚生科学研究費補助金により実施した「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」によれば、精神病院に受診している覚せい剤精神疾患患者の覚せい剤の平均使用期間は約九年であること、覚せい剤事犯検挙者のうち再犯者が約半数を占めること等から、薬物依存症から回復することは容易ではないと考えられるが、平成二年に国立下総療養所が実施した調査によれば、同療養所を退院後三年から八年を経過した覚せい剤精神疾患患者のうち過去一年間に覚せい剤を使用しなかった者は五十六・四パーセントを占めており、患者本人に立ち直る意志があり、かつ、適切な治療及び指導が行われれば、薬物依存症から回復することは可能であると考えられる。

五及び七について

 政府においては、昭和四十五年六月に総理府に総理府総務長官を本部長とする薬物濫用対策推進本部を設置し、薬物乱用に対する総合的かつ効果的な対策に取り組んできたが、平成九年一月には、取組を更に強化するため、同本部を改組し、内閣に内閣総理大臣を本部長とし関係閣僚で構成する薬物乱用対策推進本部を設置したところである。平成十年五月には、青少年の薬物乱用傾向の阻止、密売組織に対する取締りの徹底、薬物の密輸に対する取締り体制の強化等及び薬物依存症者等の治療と社会復帰の支援を主要な目標とする「薬物乱用防止五か年戦略」を策定する等、関係省庁の連携により、総合的な薬物乱用防止対策に取り組んでいる。
 特に、薬物依存症者の更生を図るためには、薬物依存の早期発見及び薬物依存症者に対する早期の指導、教育、治療等の取組を総合的に推進することが重要である。このため、従来から、麻薬中毒者相談員、保健所等による相談業務の実施、薬物依存症者に対する医療提供体制の整備、医療関係者に対する薬物依存に関する研修の実施、精神障害者地域生活援助事業の活用等を図ってきたところである。また、平成十一年度からは、全国の精神保健福祉センターにおいて、薬物依存に関する相談の実施、薬物依存症者等の家族教室の開催、相談業務従事職員の研修等を行うとともに、薬物乱用防止指導員が関係行政機関や各種団体等と連携しつつ、各地域において啓発活動を行っている。今後とも、医療機関、精神保健福祉センター、保健所、麻薬取締官事務所等の関係機関が緊密な連携を図りつつ、薬物依存症者の治療、相談及び社会復帰支援の充実に努めてまいりたい。
 また、刑務所、少年院等の矯正施設においては、薬物乱用経験を有する被収容者に対し、施設職員や外部の専門家による講義、集団討議等を中心とした薬物乱用防止教育を継続的に行っている。今後もこのような教育をより効果的に行うため、指導技法の向上、指導教材の開発等に関する研究を推進することとしている。
 さらに、保護観察所においては、薬物事犯者の社会復帰の促進のため、捜査機関、医療機関等との連携を図りつつ、薬物事犯者の特性に対応した効果的な処遇に努めるほか、引受人や保護者に対する啓発活動を実施している。今後もこのような保護観察が一層効果的に実施できるよう、工夫を重ねてまいりたい。
 政府としては、医療、矯正、保護観察等それぞれの分野における取組を強化するとともに、関係機関の連携の強化を図ることにより、薬物依存症者の社会復帰の促進に努めてまいりたい。

六について

 薬物依存症者の社会復帰のための専門的機能を有する施設としては、御指摘の「ダルク」以外にも、国立下総療養所を始めとして、薬物依存症者を受け入れ、専門的医療を提供すること等により薬物依存症の治療等に積極的に取り組んでいる病院及び診療所が存在する。また、薬物依存症者の会において、参加者相互の対話等を通じて薬物依存症からの回復を目指すNAミーティングと呼ばれる取組も行われている。
 御指摘の民間施設については、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号)第五十条に規定する精神障害者社会復帰施設又は同法第五十条の三に規定する精神障害者地域生活援助事業を行う施設に該当すれば、国庫補助の対象となる。また、精神障害者社会復帰施設の設備及び運営に関する基準(平成十二年厚生省令第八十七号)を満たさないいわゆる小規模作業所のうち、一定の要件を満たすものに対しても、運営費に対する助成を行っているところである。