質問主意書

第149回国会(臨時会)

答弁書


第百四十九回国会答弁書第五号

内閣参質一四九第五号

  平成十二年十月三日

内閣総理大臣 森 喜朗   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員竹村泰子君提出政府の国際人権条約履行義務に基づく東京都知事発言への対応に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員竹村泰子君提出政府の国際人権条約履行義務に基づく東京都知事発言への対応に関する質問に対する答弁書

一、二及び四について

 あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(平成七年条約第二十六号。以下「人種差別撤廃条約」という。)第四条(c)と平成十二年四月九日の陸上自衛隊創隊五十周年第一師団及び練馬駐屯地創立記念行事における石原東京都知事の発言(以下「都知事発言」という。)との関係についての政府の見解は、政府の国際人権条約履行義務に基づく東京都知事発言への対応に関する質問に対する答弁書(平成十二年七月七日内閣参質一四七第四一号。以下「前回答弁書」という。)のとおりであり、この点についての具体的な検討の内容は次のとおりである。
 人種差別撤廃条約第四条の柱書は、締約国が非難すべき対象を、ある人種の優越性等の思想若しくは理論に基づく宣伝等又は人種的憎悪及び人種差別を正当化し若しくは助長することを企てる宣伝等に限定していることからも明らかなように、同条は、人種差別の助長等の意図を有する行為を対象として締約国に一定の措置を講ずる義務を課しており、そのような意図を有しない行為は、同条の対象とはならないと考えられる。
 したがって、国又は地方の公の当局又は機関の言動が人種差別を助長し又は扇動するものであると受け止められることがあったとしても、人種差別を助長し又は扇動する意図を有さずに行われた場合は、人種差別撤廃条約第四条(c)にいう「人種差別を助長し又は扇動すること」には該当しないものと解され、都知事発言が同条(c)にいう「人種差別を助長し又は扇動すること」に該当するか否かを検討するに当たっては、石原東京都知事が都知事発言によって「人種差別を助長し又は扇動する」意図を有していたかどうかが重要となる。
 このため、都知事発言の全文及びその後の石原東京都知事の記者会見の記録等を入手し、検討したところ、都知事発言中の「三国人」という言葉については、石原東京都知事は平成十二年四月十二日の都庁での臨時記者会見において外国人の意味で使用したと説明しており、この言葉の使用自体に人種差別を助長し又は扇動する意図はなかったと解される。一方、都知事発言中の「不法入国した三国人、外国人が非常に凶悪な犯罪を繰り返している。(中略)こういう状況で、すごく大きな災害が起きたときには大きな大きな騒擾事件すらですね想定される、そういう現状であります。」という部分については、都知事発言のみでは、人種差別を助長し又は扇動する意図を有するものであったかどうかが必ずしも明らかではなく、人種差別撤廃条約第四条(c)にいう「人種差別を助長し又は扇動すること」に該当するかどうかの判断が困難であった。
 以上のような状況の中で、石原東京都知事は、平成十二年四月十九日、東京都議会民主党幹部に対して「今後とも在日韓国・朝鮮人をはじめとする一般の外国人の皆さんに対する差別意識の解消を図るなど、人権施策の推進に積極的に努めてまいります。」等と記載した文書を示し、今後とも差別意識の解消と人権施策の推進に積極的に努めることを表明した。この文書は、石原東京都知事が都知事発言を行った際に人種差別を助長し又は扇動する意図がなかったことを示すものと解されたため、前回答弁書において、結果として、都知事発言は、人種差別撤廃条約第四条(c)にいう「人種差別を助長し又は扇動すること」に該当するものではないと解される旨を答弁した次第である。

三について

 都知事発言と人種差別撤廃条約との整合性に関する検討結果及び検討経緯については先に述べたとおりであり、御指摘のような点に関する検討は行っていないが、これらの点に関連する統計等については、次のとおりである。
 警察庁の統計によれば、平成七年から平成十一年までの各年における来日外国人刑法犯検挙人員に占める不法滞在者(不法入国者、不法残留者等をいう。)の比率は二十パーセントから二十七パーセントであるが、来日外国人による凶悪犯(殺人、強盗、放火及び強姦をいう。)検挙人員に占める不法滞在者の比率は各年とも五十パーセントを超えている。
 また、都知事発言の社会的影響については、都知事発言に関し様々な報道が行われ国民の関心は高かったと考えられるが、人権相談件数の推移を見ると、都知事発言以後外国人に対する嫌がらせ行為等が増加しているとはいえない。