質問主意書

第149回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一二号

フロン問題についての政府の対応に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十二年八月九日

加藤 修一   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   フロン問題についての政府の対応に関する質問主意書

 オゾン層破壊物質であるフロン(特定フロン・CFC)の代替物質として、近年、代替フロンの生産量が急速に増加している。これらのフロンガスは二酸化炭素に比べて非常に高い温室効果が認められ、一九九七年に気候変動枠組条約第三回締約国会議(COP3)において締結された「気候変動に関する国際連合枠組条約京都議定書」(以下「京都議定書」という。)においては、二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素に加えて、HFC(ハイドロフルオロカーボン)類、PFC(パーフルオロカーボン)類、SF6(六フッ化硫黄)の三ガスも温室効果ガスとして規制の対象となった。
 政府はこれまで、特定フロンを削減するために、代替フロンの普及を進めるという施策をとってきており、ここにきて温暖化効果の観点から代替フロンの削減に取り組まなければならないことは、これまでの政策の方針を見直す必要があると言わざるを得ない。
 現在でも政府は、HFC等に代わる代替物質の開発を進めているとも聞いているが、これまでの特定フロン削減における政策方針の誤りを反省しているとは思えない。これまでにとってきたフロン対策政策の方向性を再度検討すべきである。
 このような観点から以下、質問する。

一 フロン等の生産量に対する回収量の見通しや排出抑制について

 毎年九月一日に通産省と環境庁が特定フロンの回収実態調査報告を行っており、カーエアコン、業務用冷凍空調機器、家庭用冷蔵庫など機器別のフロン回収率が出されている。昨年は、カーエアコン十二%、業務用冷凍空調機器五十六%、家庭用冷蔵庫二十九%という数字が出ており、この数字だけを見ても非常に低い回収率であることを指摘せざるを得ない。さらに、ここで指しているのは特定フロンだけで業務用冷凍空調機器などに使われているHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)やHFCなどは含まれていない。また「回収率」とは各機器の「回収可能量」を分母としており、例えばカーエアコンでは一台当たり平均七百五十グラム程度のフロンガスを含有しているが、そのうちの四百五十グラム程度が「回収可能量」とされているため、使った量に対してどれだけ回収しているかはこの数字からは分からない。
 通産省オゾン層保護対策室のデータによれば、一九九九年のHCFC出荷量は五万二千六百トン、HFC出荷量は一万四千七百トンで計六万七千三百トンである。このうち冷媒は三万七千七百トンとされている。一方、年間に破壊されたフロン量は年間一千トンにも満たず、冷媒出荷量年間平均を約四万トンとしたときの二~三%程度にしかすぎない。これを見れば、日本の回収処理対策が遅々として進んでいないのが明確である。
 今後は拡大生産者責任の原則を踏まえ、機器製造者が製造時のフロン量やその年に補充用として製造されたフロンガスを加えた量を公表し、それに対する回収の責任を負う形で回収・破壊量が共に報告されるべきである。

1 政府は、HFCを含めたフロン全体の放出抑制のため、「回収・処理」を重要な対策の一つに位置付けているが、生産されたフロン全量に対して「回収・処理」でどの程度の放出抑制を見込んでいるのか。
2 冷媒や断熱材など、生産時から回収時までに数年から十数年のタイムラグがあるとはいえ、物質の生産から含有機器の製造、使用、廃棄、また廃棄時の回収、破壊に至るまでの各過程の数量について把握し、どの段階でどの程度排出されているのかを含めて全体的な対策を講ずるべきであると考えるが、具体的な数量把握の方法は検討されているのか。

二 「地球温暖化対策推進大綱」における代替フロン二%増加容認について

1 地球温暖化対策推進大綱に盛り込まれている「代替フロン等三ガスの排出量については、プラス二%程度の影響に止める」というのは、京都会議直後に何の根拠もなく出された数字だと言われている。この二%増という表現は、基準年九五年の六ガス排出量合計、十二億二千三百五十万トン(化学品審議会の九九年フォローアップ時資料より。CO2換算)に対して二%という意味であり、HFC等三ガスで二千四百四十七万トンの増加を認めることになる。この結果、三ガスの排出量は、目標年には七千三百万トン、九五年と比べて五割の増加という大幅増加を意味している。
 一方、九八年五月の化学品審議会による業界の自主計画取りまとめ(数字の積上げ)は、基準年九五年のHFC等三ガス排出量、四千八百五十万トンに対して五%増、すなわち六ガス排出量に対しては増加率がほぼゼロ%という数字となっている。これは、大綱の「二%増」に対応していない。

(表)HFC等三ガス排出量及び業界自主計画対策後の排出量見通し 1/2

(表)HFC等三ガス排出量及び業界自主計画対策後の排出量見通し 2/2

 表を見るとおり、実際は九九年で、自主計画による二〇一〇年の対策の数値を既に上回る抑制を実施している。これは十分な対策をとったからというより、漏えい防止などとれる対策をすぐにとっただけのものであり、対策として必ずしも十分なものとは思えず、また今後HFCが廃棄される際に大きく排出量が増えることも予測されている。しかしながら、この表を見ると自主計画の目標自体が甘いとも言え、それより更に大きな排出を認める政府大綱の「二%増容認」は、何ら実情と合っていないということが説明できる。
 自主計画でより高い数字を出しているのに、大綱ではそれを守らなくてもよいという姿勢で二%も上乗せしているのは、いったいどういう根拠によるものか。また、実情に合わせてこの対策を見直す予定はあるのか。
2 今の業界自主計画では、HFC等の利用の抑制や自然冷媒への転換、また回収義務付けなどの方向性が全くないが、今後、利用抑制などを図っていく指導を行う予定はあるのか。行わないのであれば、どのようにしてHFC等からの排出抑制を担保するのか。

三 自然系物質の導入についての政府の考え方

 通産省は京都議定書によって規制対象となったHFC等の対策として、HFE(ハイドロフルオロエーテル)など新規代替物質の開発等を政策の重点事項としている。しかしHFEの温暖化効果はHFCに比べて低いとはいえ、物質によっては二酸化炭素の五百倍にもなるという米国からの報告があり、米国では気候変動枠組条約の事務局に各国が自主的に報告すべき物質として掲げている。このように、これらの物質も強力な温室効果ガスであることから、今後新たに規制対象となる可能性が十分に考えられる。
 通産省のオゾン層保護対策では当初から温室効果ガスであることが分かっていたHFCへの転換を推進し、官民挙げて巨額の投資をしてきたが、HFCの国際的排出規制により業界に大きな負担を負わせる結果となったのは完全に政策の失敗であると言わざるを得ない。

1 通産省のHFC等対策としての新規代替物質の開発は、これまでオゾン層保護対策として代替フロンへの転換を強要してきた政策の失敗を繰り返し、関係業界に再度経済的負担を強いる結果になるのではないか。
2 このような代替物質の開発を進めることより、自然冷媒や断熱材の導入と開発を促進することの方が、温暖化対策及びオゾン層保護の両立にかなう施策となると思われる。これらの導入・開発の促進に係る政府の方針を示されたい。

四 排出防止に係る経済的手段についての政府の取組

1 この平成十二年六月に中央環境審議会の地球温暖化対策検討チームから出された「地球温暖化対策検討チーム報告書」では、温暖化対策における経済的措置について「温室効果ガスは国民経済のすべての局面において何らかの形で排出される。単独の政策手段のみで温室効果ガスを効率的かつ効果的に削減することは困難となっている。このため、京都議定書の削減目標を遵守するための国内制度の検討に当たっては、自主的取組、経済的措置、規制的措置、環境投資など有効な政策措置のすべてを有機的に組合わせるポリシーミックスの検討が重要である」とあり、現在、国内的にも炭素税の検討がなされているところである。
 一方、京都議定書で規制対象となったHFC、PFC、SF6は、人工的に作られた化学物質であり、二酸化炭素などに比べても管理しやすい物質で有効な政策を組み合わせることによって全体量の削減を図るべきであろう。
 かつてアメリカはCFCへの課税措置で生産量を削減した経緯もあり、現在製造されている温室効果ガスであるHFC類やHCFCの削減にも有効な手段である。省冷媒化や漏えい防止対策、さらにはフロンを使わない製品への転換を目指して、こうした「フロン税」のような課税措置も検討されるべきだと考えるが、政府の見解を示されたい。
2 税制措置とは別に、冷媒等で回収するべきフロンを確実に集める経済的手法として、例えばデンマークでは当初の価格に処理費を上乗せし、事業者が回収したものを輸入販売業者のところに持ち運んだ時にその量や質に応じて費用が返ってくるいわゆる「デポジット制度」で回収のインセンティブを働かせる措置がとられている。日本の回収処理が進まない現状は回収処理費用を事業者がユーザーから排出時に徴収できないなどの問題があることもその大きな要因だと考えられるが、日本でこうした措置を制度として取り入れることについてどう考えているか。

五 フロン等規制法の検討及びCFC管理戦略の進捗状況について

1 アメリカ、イギリス、ドイツ、スウェーデンではフロンの排出禁止・回収に関する法制度が一九九〇年代初頭までに確立されている旨、環境庁の資料でも明らかである。本年二月七日、衆議院予算委員会において柳本環境政務次官(当時)は「必要に応じ、回収、破壊の義務化についても検討してまいる所存」と答弁している。我が国におけるフロンの排出禁止・回収に関する法制度確立に向けた進捗状況を示されたい。
2 第十一回モントリオール議定書締約国会合(一九九九年十一月二十九日から十二月三日)において、CFC管理戦略を策定し、二〇〇一年七月までに事務局に提出することを要請されている。政府のこれまでの取組だけではCFC管理戦略としては不十分と考えるが、今後戦略策定に向けてどのような政策の見通しを立てているのか。

  右質問する。