質問主意書

第149回国会(臨時会)

質問主意書


質問第五号

政府の国際人権条約履行義務に基づく東京都知事発言への対応に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十二年八月四日

竹村 泰子   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   政府の国際人権条約履行義務に基づく東京都知事発言への対応に関する質問主意書

 四月一九日の衆議院外務委員会で、河野洋平外務大臣は、石原慎太郎東京都知事が四月に行った不法入国・滞在外国人の凶悪犯罪・騒擾事件に関する一連の発言が「あらゆる形態の人種差別撤廃に関する国際条約」(以下「人種差別撤廃条約」という。)に抵触するか否か、もう少し時間をかけて検討したい旨、答弁した。その検討結果に関する私の質問に対する答弁書(内閣参質一四七第四一号。以下「答弁書」という。)で、政府は次の見解を示した。すなわち、「(石原都知事は四月一九日、文書で)一般の外国人の皆さんの心を不用意に傷つけることとなったのは不本意であること、人権施策の推進に積極的に努めること等を明らかにしたと承知している。このような都知事文書の内容にかんがみると、結果として、都知事発言は、人種差別撤廃条約第四条(c)にいう『人種差別を助長し又は扇動すること』に該当するものではないと解され、第四条(c)との関係で問題が生ずるものではないと考える。(中略)したがって、政府としては、都知事発言に関連して、条約の規定に基づく義務を履行するために何らかの措置を採る必要があるとは考えていない」。
 この答弁書では、都知事の発言と条約との整合性に関する政府の見解が明らかではない。すなわち、都知事の発言と人種差別撤廃条約との関係に関する基本的な問題点に関する政府の見解が示されていないこと、都知事の発言内容、その効果及び影響に関する調査とその結果が示されていないこと、「都知事文書」の内容によって、なぜ石原知事の発言が「結果として」第四条(c)に該当するものではないのか、その理由が示されていないことなど不明又は不十分な点があるので、以下質問する。

一、政府は、都知事の発言と人種差別撤廃条約との整合性に関する検討について、どの点について、いかなる手法で検討したのか、検討内容とその方法及び結果を詳しく示されたい。

二、都知事の発言が人種差別撤廃条約との関係で最も問題となるのは、根拠を明示せず、また不実を根拠にして、「不法滞在」外国人の脅威を、挑発的な言葉で実際以上に誇張して人々の不安をあおっている点で、外国人に対する差別や敵意を助長するような性質をもつか否かであると考えられる。
 政府が指摘する四月一九日の文書は、都知事が東京都議会民主党幹部にあてたものである。この文書で都知事は、三国人という「言葉は、私が意図した意味とは異なり、差別的に使われていたため、在日韓国・朝鮮人をはじめとする一般の外国人の皆さんの心を不用意に傷つけることとなったのは不本意であり、極めて遺憾」と表明している。しかし、これは、「三国人」という用語に限って「遺憾」の意を表明したにすぎず、問題の核心に関するものではない。すなわち、「三国人」という言葉について、「正当な日本語を正当に使ったのに……非常に悪い印象を与え、誤解されたということは極めて遺憾」(四月一二日、都庁記者会見)とする従前の見解を書面化したものにすぎず、都知事がその発言の趣旨を撤回したものとみなすことはできない。
 また発言全体の中の一要素として「三国人」という言葉の使用について検討する場合も、問題は、都知事が正に「三国人」という言葉で「意図した意味」、すなわち「不法」や「実害」、「厄介」、「迷惑」といった感情を(特に戦後初期を知る世代に直感的に)想起させる言葉を、特定の異民族集団(すなわち「不法」入国・滞在の外国人)に向けて放ったことが、都民や国民に対して、民族・人種差別を助長することにならないかどうかであると考えられる。
 これらの点に関する政府の調査、検討結果を詳しく示されたい。

三、都知事の発言が人種差別撤廃条約と整合するかどうかを検討するに際しては、不法入国した多くの外国人が非常に凶悪な犯罪を繰り返しており、災害時には自衛隊が出動して治安維持に当たるほどの大きな大きな騒擾事件が起こるなどの発言が、事実に基づいたものであるか否か、またこの発言が社会に与えた影響などを検討しなければならない。この二点に関する調査・検討の方法と、それぞれの検討結果を詳しく示されたい。

四、答弁書は、都知事の発言が人種差別撤廃条約の趣旨に反するかどうかを明示することなく、「結果として」条約第四条(c)に反するものではないとする。これは、石原都知事の発言と条約の整合性に関する質問主意書に正面から答弁したことにはならない。すなわち、この発言が条約第四条(c)の趣旨に反するが、「都知事文書」によってそれが治癒されたとするものなのか、それとも、この発言が初めから条約第四条(c)の趣旨に反するものでないとするものなのか、不明確である。この点を明確にされたい。

  右質問する。