質問主意書

第148回国会(特別会)

答弁書


第百四十八回国会答弁書第五号

内閣参質一四八第五号

  平成十二年七月二十八日

内閣総理大臣 森 喜朗   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員岩佐恵美君外一名提出日進化工株式会社群馬工場の爆発事故に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員岩佐恵美君外一名提出日進化工株式会社群馬工場の爆発事故に関する質問に対する答弁書

一の1について

 日進化工株式会社群馬工場において、毒物及び劇物取締法(昭和二十五年法律第三百三号。以下「毒劇法」という。)第四条に基づき、販売又は授与の目的で製造される劇物として厚生大臣に登録されているものは、ヒドロキシルアミン五十パーセント、六十パーセント、七十パーセント、八十パーセント及び九十パーセントを含有する製剤、硝酸ヒドロキシルアミン五十パーセントを含有する製剤、硫酸ヒドロキシルアミン、塩酸ヒドロキシルアミン、燐酸ヒドロキシルアミン、しゅう酸ヒドロキシルアミン、酢酸ヒドロキシルアミン並びに炭酸ヒドロキシルアミンである。また、毒劇法においては、製造量及び取扱量の届出等の義務を課していないが、群馬県からの連絡によると、このうち、平成十年度においては、ヒドロキシルアミン五十パーセント水溶液の生産量は四千二百八十一トン、塩酸ヒドロキシルアミンの生産量は二百九十二トンである。これら以外の生産量及び取扱数量については、不明である。

一の2について

 ヒドロキシルアミンについては、摂氏百三十度程度に加熱すると爆発する性状があるとともに、亜鉛等の金属と反応して爆発する危険性を有するとされている。また、体内で亜硝酸塩とアンモニアに分解し、けいれんや麻痺を起こさせる毒性を有するとされている。一の1についてで述べたその他の劇物についても、同様の症状を引き起こす可能性があること等を勘案し劇物に指定している。また、これらの劇物も、加熱すると激しく分解するなど一定の危険性を有するとされている。

一の3について

 群馬県からの連絡によると、日進化工株式会社群馬工場周辺の被害は、当該工場を中心に半径約千五百メートルの範囲に及んでおり、平成十二年七月十四日現在において把握されている主な被害状況は、死者四名、負傷者五十八名、半壊した建物七棟、建物の一部が損壊したものが二百七十棟、車両や工作物が損壊したものが六十二件となっている。また、爆発火災の原因については、群馬県警察及び太田地区消防組合消防本部で、現在、調査中である。

一の4について

 群馬県からの連絡によると、製造過程で取り扱われ、又は製品として保管されていたヒドロキシルアミン及びその塩類並びにこれらを含有するもののうち、蒸留塔内に存していたヒドロキシルアミンを含有する溶液及び保管庫に存していた硫酸ヒドロキシルアミンは、爆発事故に伴いすべて消失していたが、それ以外は、全部又は一部が残存していたとのことである。いずれにしても、これらを含めて、どのような化学物質がどのように飛散・流出したかは明らかでない。なお、消防法(昭和二十三年法律第百八十六号)上の危険物として重油及び硫黄が工場のタンク内に存したが、タンク外への飛散・流出はなかった。

一の5について

 群馬県からの連絡によると、事故現場下流で取水している水道水への影響を調査するため、工場下流の古利根橋において石田川の水質調査を行うとともに、群馬県企業局東部地域水道の取水口(利根川左岸(群馬県千代田町瀬戸井地区))においても水質調査を実施した。石田川においては、平成十二年六月十日二十一時三十二分から調査を開始し、水素イオン濃度指数については、同月十一日二時三十分に最も強い酸性値(同指数二・三二)が計測されたが、同日十一時に、ほぼ中性に戻った。また、群馬県企業局東部地域水道の取水口においては、同日三時十分から調査を開始し、水素イオン濃度指数については、同日七時五十分に最も強い酸性値(同指数三・七〇)が計測されたが、同日十七時五分に、ほぼ中性に戻った。

一の6について

 群馬県及び尾島町においては、平成十二年六月十一日に爆発事故現場周辺の安養寺地区百二十戸の全戸調査を実施したほか、同月十二日には安養寺会館において、同月十八日には尾島町保健センターにおいて、それぞれ健康相談を実施する等、周辺住民の健康影響についての必要な調査等を行ってきたものと承知している。右全戸調査等によると、爆発事故との関連については必ずしも明らかなわけではないが、事故発生時に周辺住民の一部に皮膚炎等の症状がみられたものと聞いている。その後、群馬県及び尾島町において、当該症状がみられた者に対する聞き取り調査を行い、現在は、当該症状がおおむね改善された旨の報告を受けたところである。なお、現在においても、尾島町においては、尾島町保健センターにおいて、随時健康相談に応じられる体制を用意しているものと承知している。

二の1、2及び4について

 毒劇法は、毒物及び劇物について、保健衛生上の見地から必要な取締りを行うことを目的としており、毒劇法第五条の規定に基づく毒物及び劇物取締法施行規則(昭和二十六年厚生省令第四号。以下「毒劇法施行規則」という。)第四条の四において、製造所等の設備の基準として、毒物又は劇物の製造作業を行う場所は、コンクリート、板張り又はこれに準ずる構造とする等その外に毒物又は劇物が飛散し、漏れ、しみ出若しくは流れ出、又は地下にしみ込むおそれのない構造でなければならない旨を定め、また、毒劇法第十一条第二項において、毒物又は劇物が製造所等の外に飛散し、漏れ、流れ出、若しくはしみ出、又はこれらの施設の地下にしみ込むことを防ぐのに必要な措置を講じなければならない旨を定めている。
 さらに、毒物又は劇物の製造所等については、毒劇法第十七条第一項及び第二項に基づき、毒物劇物監視員が立入検査等を行っており、毒劇法第十九条第一項の規定により、その設備が毒劇法第五条の規定に基づく毒劇法施行規則第四条の四で定める基準に適合しなくなったと認めるときは、必要な措置をとるべき旨を命じることができ、毒劇法第十九条第四項の規定により、毒劇法第十一条第二項に規定する措置が講じられていないときは、登録の取消し又は業務の停止を命ずることができることとされている。
 毒劇法は、これらにより、毒物又は劇物の製造量及び取扱量のいかんにかかわらず、毒物及び劇物の飛散、流出等の防止措置が講じられることを確保しているところであり、毒物又は劇物の年間製造量、取扱量等の届出義務を課す必要はなく、また、新たな製造設備基準を定める必要はないと考える。

二の3について

 三の3についてで述べるとおり、毒物又は劇物であるか否かにかかわらず、化学的変化により爆発するという性状を有すると一般的に考えられている物質については、基本的には、消防法等の各法令により所要の規制がなされているところである。

二の5について

 毒劇法第四条の規定に基づく毒物又は劇物の製造業等の登録を受けようとする者は、毒劇法施行規則第一条に基づき、毒物又は劇物を直接取り扱う製造所等の設備の概要図を添付しなければならないこととされており、また、毒物又は劇物の製造業者等が毒物又は劇物を製造し、貯蔵し、又は運搬する設備の重要な部分を変更した場合は、毒劇法第十条第一項に基づき、その旨を厚生大臣又は都道府県知事に届け出ることとされているが、御指摘の硫酸ナトリウムについては、毒劇法上の毒物又は劇物に該当しないことから、これを製造する設備の変更は、届出の対象とはなっていない。

二の6について

 毒物及び劇物を指定するに当たっては、経口投与実験等動物実験における知見、ヒトにおける知見、物性、解毒法の有無等を総合的に勘案し、既に指定されている毒物又は劇物と同等以上の毒性を有するものに該当すると認められることを基準としている。
 新たに毒物若しくは劇物に相当する毒性を有する物質が生成若しくは発見された場合、又は既存の物質について毒物若しくは劇物に相当する毒性を有することが示唆された場合には、まず、当該物質の毒性について、できる限り多くの知見を収集し、これに基づき、中央薬事審議会の意見を聴いた上で、当該物質が毒物又は劇物に該当すると認められる場合には、その指定を行うものである。

三の1について

 消防法上の危険物のうち爆発するという性状を有するものは、同法別表第五類の危険物である。同表第五類の項の品名欄に掲げる物品で固体又は液体であるものが、爆発の危険性を判断するための試験又は加熱分解の激しさを判断するための試験において一定の危険性があるという性状を有するものであるときは、同表第五類の危険物とされている。
 なお、消防法別表第五類の品名欄にどのような物品を掲げるかについては、化学物質の生産流通の実態等を踏まえ、必要に応じ検討してきたものである。

三の2について

 ヒドロキシルアミンは、その純粋のものがこれまで国内で流通していなかったことなどから、消防法別表の品名欄に掲げられておらず、同法上の危険物になっていないものである。
 今後のヒドロキシルアミンの消防法上の取扱いについては、現在、当該物質の詳細な性状についての調査をしているところであり、その結果を踏まえて、検討してまいりたい。

三の3について

 工業生産されている多種多様な化学物質が爆発するという性状を有するか否かについてすべて把握しているわけではないが、一定の生産流通の実態があって、化学的変化により爆発するという性状を有すると一般的に考えられている物質は、これらが固体又は液体である場合には、消防法上の危険物となっている。ただし、同法別表の品名欄に掲げる物品の混合物である火薬類については、同法上の危険物となっていないが、火薬類取締法(昭和二十五年法律第百四十九号)により規制されている。
 また、可燃性ガスについては、基本的に高圧ガス保安法(昭和二十六年法律第二百四号)により規制されている。

三の4について

 一定の生産流通の実態があって、化学的変化により爆発するという性状を有すると一般的に考えられている物質については、火薬類及び可燃性ガスを除いて、これまでも危険物としてきたものである。今後とも、ある化学物質を消防法上の危険物とするか否かは、当該物質の生産流通の実態等を踏まえ、必要に応じ検討してまいりたい。

三の5及び6について

 消防法上の危険物施設であるか否かにかかわらず、火災、化学的変化を伴う爆発等については、各都道府県を通じ報告を求め、必要に応じ調査を実施してきたところであり、今後とも、これらの報告、調査に基づき、事故原因の把握、事故の再発防止、危険物の追加指定にいかすなどの対策に取り組んでまいりたい。

四の1について

 特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(平成十一年法律第八十六号。以下「PRTR法」という。)は、環境に排出される特定の化学物質の量を把握すること等により、事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進し、環境保全上の支障の未然防止を図ることを目的とするものであるため、化学物質の環境への排出量及び廃棄物に含まれて事業所の外に移動する化学物質の量(以下「移動量」という。)について事業者に届出義務を課せば足りるものであり、化学物質の取扱量及び貯蔵量を届出させる必要はないと考えている。

四の2について

 関係法令において規制の対象となっている化学物質については、当該関係法令の規定に基づき、所定の機関に対して所定の事項の届出等が行われているところであるが、このような、消防機関や関係地方公共団体が把握している情報の周辺住民への提供については、必要に応じそれぞれの機関において適切に対処すべきものと考える。
 なお、消防法上の危険物施設においては危険物の情報を示す標識等を設けることとしており、毒劇法上の毒物又は劇物を貯蔵し、又は陳列する場所においては「医薬用外毒物」又は「医薬用外劇物」の文字を表示することとしている。

四の3について

 御質問の化学物質製造所等からの化学物質の廃棄及び排出に係る情報の公開に関しては、今後、PRTR法に基づき、人の健康を損なうおそれがある等の性状があり、かつ、環境中に広く継続して存すると認められる化学物質について、PRTR法に定める取扱事業者から排出量及び移動量を届出させ、その集計結果を公表するとともに、個別事業所ごとの届出事項を請求に応じ開示することとしている。
 また、御質問の周辺環境への影響の防止に係る措置に関しては、化学物質製造所等から廃棄される化学物質は、一般に、産業廃棄物として廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和四十五年法律第百三十七号)に基づく規制の対象となっているところであり、化学物質製造所等から排出される化学物質は、一般に、大気汚染防止法(昭和四十三年法律第九十七号)、水質汚濁防止法(昭和四十五年法律第百三十八号)等に基づく規制の対象となっているところである。