質問主意書

第148回国会(特別会)

答弁書


答弁書第四号

内閣参質一四八第四号

  平成十二年七月十八日

内閣総理大臣 森 喜朗   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員小川敏夫君提出新生銀行がそごうに対して有する債権に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員小川敏夫君提出新生銀行がそごうに対して有する債権に関する質問に対する答弁書

一について

 金融機能の再生のための緊急措置に関する法律(平成十年法律第百三十二号。以下「法」という。)第七十二条第四項において、金融再生委員会は、預金保険機構(以下「機構」という。)の求めに応じ、特別公的管理銀行が保有する資産として適当であるか否かの判定(以下「資産判定」という。)を行うこととされており、「被管理金融機関の貸出債権その他の資産の内容を審査し、承継銀行が保有する資産として適当であるか否かの判定を行うための基準を定める件」(平成十年十二月十五日金融再生委員会告示第二号)において、資産判定を行う際の基準(以下「資産判定基準」という。)が定められている。
 株式会社日本長期信用銀行(以下「長銀」という。)のそごうグループ(株式会社そごう(以下「そごう」という。)及びそごうが主宰するそごうグループ経営会議が策定した「そごうグループ抜本再建計画」(以下「再建計画」という。)において再建・整理の対象となった、そごうの経営と密接な関係を有する会社をいう。以下同じ。)各社に対する貸出関連資産に係る資産判定については、そごうグループ各社に対する債権残高、そごうグループ各社の概況、総資産、売上、経常利益、当期利益、償却前経常利益、資本等のそごうグループ各社の財務状況等が記載された長銀からの提出資料等を基に、平成十一年一月二十一日に金融再生委員会において審査を行い、同年二月十九日に金融再生委員会として議決した。
 長銀の貸出先であるそごうグループ各社のうち、そごうは、要注意先のうち直近の決算において繰越損失が生じておらず、元金の返済及び利息の支払が当初の貸出契約どおり行われている債務者(以下「要注意先A」という。)として区分されていたが、資産判定基準においては、要注意先Aに対する債権は、原則として、特別公的管理銀行が保有する資産として適当であるとされていることから、長銀のそごうに対する債権を長銀が保有することが適当である資産(以下「適資産」という。)として判定したものである。
 なお、そごうが要注意先Aであるという理由から直ちに適資産として判定したものではなく、そごうグループ各社が債権債務関係等において密接な関係を有していること、そごうグループ全体として経常損益が改善し始めていること等の実態を踏まえた審査を行ったところである。
 長銀の貸出先であるそごうグループ各社のうち、そごう以外の各社は、正常先、要注意先C(要注意先のうち、直近の決算において債務超過の状態にある債務者をいう。以下同じ。)又は要注意先B(要注意先のうち、要注意先A及び要注意先C以外のものをいう。以下同じ。)として区分されていたが、正常先に対する債権は、原則として、特別公的管理銀行が保有する資産として適当であるとされていることから、長銀のこれらの債務者に対する債権を適資産として判定したものである。当該判定に当たっては、正常先であるという理由から直ちに適資産として判定したものではなく、前述のように、そごうグループの実態を踏まえた審査を行ったところである。
 また、要注意先Bに対する債権は、原則として、一定の条件を満たす場合に適資産であるとされ、要注意先Cに対する債権は、原則として、特別公的管理銀行が保有する資産として適当でない資産とされているが、そごうグループ各社が債権債務関係等において密接な関係を有しており、そごうと一体として判定すべきであると考えられたこと等から、債務者の特殊事情も考慮して判定するものとする旨規定する資産判定基準の一2に基づき、当該債権を適資産として判定したものである。

二について

 本年二月九日に機構、長銀及びニュー・LTCB・パートナーズ・CVの間で締結された長銀に係る株式売買契約書第八条に規定する瑕疵担保特約(以下「瑕疵担保特約」という。)においては、貸出関連資産の現在価値は、ある時点(以下「計算日」という。)における長銀の特定の債務者に係る貸出関連資産の額に、当該債権に係る平成十二年二月二十九日から計算日前までの元本返済額を加え、計算日における貸倒引当金を控除すること等により計算された価値をいうこととされている。
 株式会社新生銀行(長銀の変更後の商号。以下「新生銀行」という。)のそごうグループ各社に対する貸出関連資産の現在価値は、新生銀行において、三についてで述べるとおり、それまで破綻懸念先として区分していたそごうグループ各社を実質破綻先として区分することとしたことを踏まえ、瑕疵担保特約に定められた計算方法に従って、本年六月二十一日(一部の会社については本年六月三十日)を計算日として算出し、その額は約五百二十六億円(支払承諾に係る約十億円及び元本返済に係る約一億円を含む。)であった。当該現在価値の妥当性について、新生銀行は、新生銀行の監査法人である監査法人トーマツ(以下「トーマツ」という。)に調査を依頼し、トーマツより特に指摘するべき事項は認められない旨の確認を得ている。これを受けて、機構においても、当該現在価値の内容の妥当性について、新生銀行及びそごうの監査法人とは別の監査法人である中央青山監査法人に調査を依頼し、特に指摘するべき事項は認められない旨の報告を得ている。こうした経過を踏まえ、機構は、当該現在価値が妥当であるとの結論に至ったところである。
 この結果、解除権行使の対象となる新生銀行のそごうグループ各社に対する貸出関連資産は、当初価値(平成十二年二月二十九日における当該資産の価値であり、簿価から貸倒引当金を控除する等により計算された価値をいう。)約九百八十八億円(支払承諾に係る約十億円を含む。)と比して約四百六十二億円減価したものと承知している。

三について

 新生銀行は、そごうグループからの債権放棄要請に応じることはできないとの方針であり、新生銀行が債権放棄要請に応じない場合には再建計画に対する関係金融機関の合意が得られないことから、そごうグループが法的に処理されることとなることは確実であるとして、それまで破綻懸念先として区分していたそごうグループ各社を実質破綻先として区分することとし、これに伴い、二についてで述べたとおりの減価が生じたものである。

四について

 そごうグループの経営責任等については、金融再生委員会が、機構がそごうグループに対する債権を放棄することを了承した際(以下「決定時」という。)においては、そごうの代表取締役会長であった水島廣雄氏は、そごうグループの全役職を既に辞任しており、そごう等の現経営陣も再建計画が実施されるに伴い退任することとなっていた。また、これらの者に対する退職金の支払いは行われないこととされていたものと承知している。
 また、水島氏が保有していた株式会社千葉そごう(以下「千葉そごう」という。)の株式や他のそごうグループ会社の株式のすべてをそごうに無償譲渡し、同氏のそごうグループへの影響力は排除されることとなっていたものと承知している。
 決定時においては、このようなそごうグループに係る経営責任等の明確化のための取組が認められることも考慮したところであるが、そごうグループの経営責任については、今後更に厳しく追及されることが必要であると考えている。
 経営陣の私財提供については、水島氏が保有していた千葉そごう等の株式のそごうへの無償譲渡が行われているが、機構等の強い要請を受けて、そごうから水島氏に対し、さらなる私財提供の要請がなされているところであると承知しており、両者において適切な対応がなされることを期待している。
 なお、そごう等は、近時における状況の大きな変化を踏まえ、再建計画の実行を断念し、本年七月十二日、東京地方裁判所等に民事再生法(平成十一年法律第二百二十五号)に基づく再生手続開始の申立て(以下「再生手続開始の申立て」という。)等を行ったところであり、株主責任の明確化については、今後、関係者の間で検討が進められていくものと考えている。

五について

 そごうグループについて会社更生法(昭和二十七年法律第百七十二号)等による法的な処理が行われる場合、そごうグループの取引先等の一般債権者にまで損失が及ぶこととなり、その後の商品供給に著しい支障が生じるなど、百貨店としての事業性が大きく損なわれるおそれがあるため、そごうグループは、再建計画を策定し、金融機関等に対し債権放棄要請を行うこととしたものと承知している。
 なお、機構は、そごう等が再生手続開始の申立て等を行ったことから、再建計画に係る債権放棄を行わないこととしたところである。

六について

 新生銀行がそごうグループからの債権放棄要請に応じなかったのは、御指摘のように債権放棄後に残る債権(以下「残債権」という。)の回収の確実性に自信を持っていなかったからではなく、残債権について新たに必要となる追加的な引当てを行うことが困難であったことによるものであると承知している。

七について

 瑕疵担保特約においては、瑕疵とは、長銀の貸出関連資産に関し、金融再生委員会が適資産と判定した根拠について、変更が生じたか、又は真実でなくなったことが判明したことをいうものとされており、一定の場合に瑕疵の存在を推定するものとされている。
 瑕疵担保特約においては、正常先及び要注意先Aの債務者から新生銀行が債権放棄要請を受けた場合には、瑕疵があると推定することとされているが、これは、金融再生委員会が適資産と判定した債務者が経営困難となり返済すべき債務の一部の免除を要請せざるを得ない状況に立ち至ったのであれば、当該債務者に係る貸出関連資産に瑕疵があると推定するのが相当であるとの考え方によるものである。
 そごうが本来返済すべき債務の一部の免除を要請せざるを得ない状況になったことから、そごうに係る債権に瑕疵があると推定されたものであって、再建計画の下で残債権の回収が確実であるとしても、あくまでも債権放棄が行われることを前提としたものであることから、そごうに係る貸出関連資産全体についての瑕疵の推定を覆すこととはならないものと考えている。

八について

 瑕疵担保特約においては、貸出関連資産の現在価値は、計算日における長銀の特定の債務者に係る貸出関連資産の額に、当該債権に係る平成十二年二月二十九日から計算日前までの元本返済額を加え、計算日において一般に公正妥当と認められる会計の基準等に従って算出された貸倒引当金を控除すること等により計算された価値をいうこととされており、御指摘のような債権放棄後の残債権の回収可能性を基に計算することとはされていないところである。