質問主意書

第148回国会(特別会)

質問主意書


質問第五号

日進化工株式会社群馬工場の爆発事故に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十二年七月五日

岩佐 恵美   
富樫 練三   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   日進化工株式会社群馬工場の爆発事故に関する質問主意書

 本年六月十日、群馬県新田郡尾島町安養寺の日進化工株式会社群馬工場で、ヒドロキシルアミンの再蒸留中に爆発が起き、従業員四名が死亡、付近の住民を含む五十八名が負傷するという重大な事故が発生した。この事故により、多数の周辺家屋が損壊し、劇物が工場敷地外に流出した。爆発の危険性を持つ化学物質が、その危険性について住民や関係地方公共団体に知らされず、安全性の確保について何らの規制もないまま人家の間近で生産されているという事態は、放置することができない。よって、以下質問する。

一、日進化工株式会社群馬工場及び今回の爆発事故について

1 同工場において生産し、又は取り扱っているヒドロキシルアミン、その水溶液、酸化合物の年間の生産量、取扱数量を明らかにされたい。
2 右物質の爆発性及び毒性を明らかにされたい。
3 今回の事故の爆発の規模、周辺被害の状況など現時点で明らかになっている事故の概要及びその原因を明らかにされたい。
4 爆発事故に伴って、工場外に飛散・流出した化学物質の物質名と飛散・流出の範囲及び経路、飛散・流出の推定量を明らかにされたい。
5 爆発後、周辺の環境への影響について、どのような調査・測定が行われたか。また、測定結果のデータを時間を追って明らかにされたい。
6 周辺住民の健康影響について、どのような措置がとられているか。また、周辺住民の健康への影響について、どう判断しているか。

二、毒物及び劇物取締法の扱いについて

 ヒドロキシルアミンは、毒物及び劇物取締法の劇物に指定されている。同法は毒物劇物の製造業の厚生大臣への登録を義務付けているが、毒物劇物の製造量、取扱量等は登録申請書類の記載事項となっていない。また、毒物劇物の製造所等の設備の基準は、毒物劇物の製造作業を行う場所と、毒物劇物の貯蔵設備についてしか定められていない。このため、どのような製造工程で、どれだけの毒物劇物が製造されているかは、明らかになっていない。さらに、毒物劇物等が営業所等の外に飛散・流出することを防ぐ措置については、毒物劇物営業者等の義務違反に対する罰則規定はなく、違反を是正する措置の命令規定もない。
 以上のとおり、毒物及び劇物取締法は、毒物劇物の安全管理について、大幅に営業者等の自己責任に委ねている。これでは周辺住民の被害を防止する上で極めて不十分であることが、今回の事故を通じて浮き彫りになった。

1 毒物劇物の製造者等に対し、毒物劇物の年間製造量、取扱量等の届出義務を課し、公表すべきではないか。
2 毒物劇物の製造設備についても、毒物劇物の飛散・流出等を防止する設備基準を定めるべきではないか。
3 爆発性を有する毒物劇物の製造所については、爆発事故をも想定して飛散・流出等を防止し得る設備基準とすべきではないか。
4 毒物劇物等が営業所等の外に飛散・流出することを防ぐ措置について、必要な命令等の規定を整備すべきではないか。
5 日進化工群馬工場では、副産物である芒硝(硫酸ナトリウム)を製品化するプラントを増設していたが、今回の事故が起きるまで周辺住民には知らされていない。毒物劇物の製造工程やその変更についても、届出や情報公開を行わせるべきではないか。
6 現在毒物劇物に指定されていないものでも、毒物劇物に相当する毒性を有するものがあると指摘されている。毒物劇物の指定はどのような情報と判断に基づいて行っているのか。

三、消防法の取扱いについて

 爆発性を有する物質については、消防法で危険物に指定され、一定量以上を取り扱う製造所等の設置の許可、取扱数量の届出などが義務付けられている。ところがヒドロキシルアミンは、一定の条件で爆発する危険性を有する物質であるにもかかわらず、同法の危険物に指定されていない。今回の事故により、爆発性を有する物質が同法の危険物に指定されないまま製造されている危険性が明らかになった。

1 爆発性を有するものとして消防法の危険物に指定されている物質の指定理由と指定の経緯を明らかにされたい。
2 ヒドロキシルアミンを消防法の危険物に指定していない理由は何か。指定するべきではないか。
3 日本国内で工業生産されているもので、爆発性を有しているにもかかわらず、消防法の危険物に指定されていないものが他にあるか。あれば、品名及び指定していない理由を明らかにされたい。
4 日本国内で工業生産されているものについて、早急に爆発性の試験を行い、一定の条件で爆発性を有するものは、消防法の危険物に指定すべきではないか。
5 同工場のヒドロキシルアミン蒸留塔は、一九九八年十一月にも爆発事故を起こしているが、消防法の危険物にかかる施設の爆発ではないとして、消防庁等に報告されていない。過去に爆発事故を起こした事例を早急に調査し、危険物指定の見直しを行うべきではないか。
6 今後、消防法の危険物に関する施設以外の爆発、火災、破裂等の事故についても消防庁等への報告義務を課し、大事故につながることのないよう事故原因の把握、事故の再発防止、危険物の追加指定などの対策に生かす取組をすべきではないか。

四、化学物質製造所等による危害の防止について

 化学物質は、世界で約十万種、日本でも数万種が製造・使用されているといわれている。化学物質による健康被害や環境汚染の防止等については、消防法や毒物及び劇物取締法、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律、公害対策関係の法律など多数の制度があるが、縦割り行政のもとで個別の法目的に応じた指定物質の規制を行う仕組みでは、膨大な種類の化学物質が法の枠外となり、規制や情報公開がないまま取り扱われている。今回の事故で、関係法の指定から漏れている化学物質の製造等に伴う危険性が一層明らかになり、その実態把握は不可欠の課題となっている。

1 昨年の国会で、第一種指定化学物質の排出量、移動量を把握し、届出、公表を行う特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)が制定されたが、化学物質の取扱量、貯蔵量は届出事項とされていない。化学物質の実態把握のために、当該物質の取扱量、貯蔵量等も、届け出るようにすべきではないか。
2 化学物質製造所等で今回のような事故が発生すれば、製造し、取り扱っている化学物質が飛散・流出し、周辺住民に危害を及ぼすおそれがある。化学物質製造所等が製造し、取り扱っている化学物質について、その性状や量などの情報を消防機関や関係自治体に通知し、周辺住民に周知させる措置を講ずるべきではないか。
3 毒物及び劇物取締法は、中和等により毒物劇物等でなくなった化学物質の廃棄については規制していないが、日進化工群馬工場の周辺では、従来から井戸水の白濁や樹木の枯死、自動車や洗濯物の汚染などの苦情が出ている。化学物質製造所等からの化学物質の廃棄、排出については、情報を公開するとともに、周辺の環境に影響を及ぼさない措置を講じさせるべきではないか。

  右質問する。