質問主意書

第146回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第一四号

内閣参質一四六第一四号

  平成十二年一月十四日

内閣総理大臣臨時代理             
国務大臣 青木 幹雄   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿

参議院議員齋藤勁君提出税務行政における適正手続の法的整備に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員齋藤勁君提出税務行政における適正手続の法的整備に関する質問に対する答弁書

一について

 我が国における税務行政に係る手続に関しては、各国税に共通的な事項である更正の請求、更正又は決定、納付、不服申立て等の手続については国税通則法(昭和三十七年法律第六十六号)等において、各国税に固有な事項である確定申告書の提出、青色申告書に係る更正、質問検査等の手続については所得税法(昭和四十年法律第三十三号)、法人税法(昭和四十年法律第三十四号)等において、それぞれ必要な規定が設けられ、独自の体系が整備されている。
 御指摘の税務調査については、例えば、所得税法第二百三十四条に質問検査権の行使の要件及び相手方、質問検査権の内容等に関する規定が設けられているが、最高裁判所の判例によれば、同条の規定は、「質問検査権を行使しうべき場合につき、具体的かつ客観的な必要性のあることを要件としており、質問検査の範囲、程度、時期、場所等、権限ある収税官吏の合理的な選択に委ねられていると解される実施の細目についても、質問検査の必要と相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度内という制限を課して客観的にその範囲を画定している」と解されている(昭和五十八年七月十四日最高裁判所判決)。また、同法第二百三十六条には、税務調査の際の身分証明書の携帯等に関する規定が設けられている。さらに、国税庁において税務行政を遂行する上での基本原則を税務職員に示した税務運営方針(昭和五十一年四月一日)等においても、一般の税務調査の際には事前通知の励行に努めること等とされており、これらにより税務調査は適正に実施されている。
 なお、国税に関する法律に基づく処分等(酒類の製造免許等に係るものを除く。)については、行政手続法(平成五年法律第八十八号)及び国税通則法により行政手続法の規定の一部を適用しないこととされているが、これらの処分等についても、国税通則法その他の国税に関する法律(以下「各税法」という。)等において必要な規定が設けられ、独自の手続体系が整備されており、行政運営の公正及び透明性は確保されている。
 税務行政については、右に述べたとおり、各税法の規定等により必要な手続が整備されており、これに基づき、納税者の理解と協力を得つつ、効率的に遂行されていると考える。また、諸外国の納税者の権利保護に関する法令に規定されているような納税者の権利については、日本国憲法第八十四条に定められているいわゆる租税法律主義の下、各税法において具体的な規定が設けられているものがあること及び各税法の具体的規定等の趣旨に則した適正な税務行政により、基本的にその保護が図られている。
 したがって、御指摘のような理由に基づいて国税通則法の改正を行うことは考えていない。

二について

 御指摘の見直し項目は、必ずしも経済協力開発機構(OECD)の報告書(納税者の権利及び義務)や諸外国の納税者の権利保護に関する法令等に共通して掲げられているものではないと承知している。例えば、アメリカ合衆国の「納税者権利章典」及び「納税者としてのあなたの権利」においては、納税者の誠実性の推定、通常の税務調査の事前通知、個人の住所等における調査の禁止及び違法な調査に基づく処分の無効に関する項目は掲げられていないと承知している。国により課税方式、税務調査の方法、挙証責任の所在、不服申立制度等に違いがあることを考慮すれば、諸外国の納税者の権利保護に関する法令等に掲げられている項目のすべてを我が国の制度に採り入れることが必要となるわけではない。
 我が国の税務調査については、調査の目的を達成することができなくなるような場合を除いて事前通知を行うこと、必要に応じて概括的な調査理由の開示を行うこと、プライバシーの侵害となるような行き過ぎた調査が行われないよう十分に配意すること、実地調査の結果何らの非違も認められない納税者に対して書面により調査結果の通知を行うこと、再調査は新たな資料情報によって先の調査で把握した所得金額が過少であることが判明した場合等に行うこと等、所得税法第二百三十四条を始めとする各税法の規定等の趣旨に則して、納税者の権利に配慮した適正な運用が行われている。
 また、御指摘のような内容の国税通則法の改正については、納税申告書の記載が真実であると推定することはその記載の真実性及び正確性を確認するための調査が必要とされる現状に合致しないこと、税務調査の事前通知を行うことによって帳簿書類が隠匿される等のおそれがあること、調査前に具体的な調査理由を開示することは困難であること、税務調査の際の行政指導を書面で行う場合には書面の作成に相当の時間を要し調査期間が長くなること等の問題があると考える。
 したがって、御指摘のような内容の国税通則法の改正を行うことは考えていない。