第146回国会(臨時会)
第百四十六回国会答弁書第八号
内閣参質一四六第八号 平成十二年二月十五日 内閣総理大臣 小渕 恵三
参議院議員中村敦夫君提出川辺川ダム建設に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。 参議院議員中村敦夫君提出川辺川ダム建設に関する質問に対する答弁書 一の1及び2について 建設省九州地方建設局川辺川工事事務所(以下「川辺川工事事務所」という。)においては、「五木村學術調査(自然編)」(五木村総合学術調査団編集)の六百六十八ページに記載されている九折瀬洞(第一洞)(以下「九折瀬洞」という。)内の生物及び生息環境の調査を平成四年度から実施しているところであり、その結果、現在までにイツキメナシナミハグモ、ツヅラセメクラチビゴミムシ、ユビナガコウモリ等計七目十七種の動物が確認されていると承知している。
一の3について 環境庁においては、平成三年環境庁編集の「日本の絶滅のおそれのある野生生物」(レッドデータブック)で絶滅危惧種に選定されているツヅラセメクラチビゴミムシが九折瀬洞のみに生息しており、当該種の適切な保全対策が講じられるべきものと認識している。
一の4について 生物の多様性に関する条約(平成五年条約第九号)第十四条第一項は、その柱書きで「可能な限り、かつ、適当な場合には」としており、同項(a)の「環境影響評価を定める適当な手続」の導入及び「当該手続への公衆の参加を認めること」の採否については締約国の判断にゆだねられているものと解されている。
二の1及び3について 川辺川ダムの洪水吐きは、同ダムの貯水池の水位が設計洪水位である標高(東京湾平均海面を基準とした高さをいう。以下同じ。)二百八十一メートルの場合に最大毎秒五千百六十立方メートルの放流が可能なものとして計画されている。同ダムの洪水吐きのゲート開度を最大にした場合の放流量については、同ダムの貯水位ごとにその値が求められるものであり、御指摘の「最大流入量」から求められるものではない。
二の2について 市房ダムの貯水池の水位が標高二百八十メートルである場合において、同ダムに設置された二門の洪水吐きゲートの開度をそれぞれ六メートル以上としたときの放流量は、毎秒約八百七十立方メートル以上である。
二の4及び5について ダムへの流入量は、一般的に、当該ダムの貯水位の観測値から求められる単位時間内における貯水量の増減量と当該単位時間内の当該ダムからの放流量の和の値として把握されるものであり、流入量の瞬間的な値が直接観測されるものではない。
二の6について 川辺川ダムの洪水調節方式については、河川法の一部を改正する法律(平成九年法律第六十九号)による改正前の河川法第十六条第一項に基づき策定された球磨川水系工事実施基本計画に定められた洪水調節量、同ダムの貯水量、河川の状況等を考慮し、「改訂新版建設省河川砂防技術基準(案)同解説計画編」(建設省河川局監修)の二十七ページに記載されている不定率調節方式(以下「不定率調節方式」という。)が採用されているところである。
三の1及び2について 御指摘の「パイピングなどによる地盤沈下や斜面崩壊の危険性」が具体的に何を指すものか明らかではないが、頭地代替地の地盤の安全性については、川辺川工事事務所が、昭和四十六年三月から平成六年三月までに実施した地質調査等を踏まえ「頭地地区の代替地の造成について」を平成七年八月に公表したところであり、頭地代替地の地盤は充分に安全なものであると考えている。 三の3について 仮に御指摘のような被害があった場合には、個別具体の状況等に応じ、関係法令に基づき適切に対応すべきものと考える。 四の1及び4について 川辺川ダムの設計に当たって、同ダムの調査坑内で実施した現場試験の結果に基づき基礎地盤の剪断強度等を定めた上で、河川管理施設等構造令施行規則(昭和五十一年建設省令第十三号)第九条第一項の剪断摩擦抵抗力が同条第二項ロの式を満たすことを確認していることから、同ダムの基礎地盤は、ダム堤体から伝達される荷重を支え得る充分な強度を有しているものと考えている。 四の2について 四浦トンネルにおいては、その一部の区間で、昭和六十一年に川辺川工事事務所の職員により漏水が確認されたところである。
四の3について 川辺川工事事務所は、熊本県球磨郡相良村大字四浦西字堂迫四千四百五十六番地の十、十一及び十三の地内に、合計で五台の孔内傾斜計を設置している。 五の1について 一般に、計画許容流砂量は、下流河川等に対して無害かつ必要な土砂として流送すべき土砂の量であり、流出土砂の粒径等を把握の上、流水の掃流力を算出し、河道の現況等に基づいて定めることとされている。この場合において、流出土砂の粒径、河道の現況等は、現地調査等によって把握している。また、流水の掃流力は、流域ごとの降雨の実績値等を基に基準点において想定される流量等に基づき算出している。 五の2について 御指摘の「貯水池の計画堆砂量を考慮」するとは、多目的ダム等の貯水池の上流の砂防計画における計画年平均許容流砂量について、当該貯水池における堆砂容量の確保に支障がないよう設定するということである。 五の3について 川辺川における直轄砂防計画の許容土砂量である約百二十六万立方メートルは、五の1についてで述べた考え方により設定している。 五の4について 御指摘の「比較の対象となっているダム」の名称等は、別表のとおりである。 五の5について 御指摘の「年平均一平方キロメートル当たりの流出土砂量」については、一定の貯水池堆砂量の推定式等を用いて設定したものであり、御指摘の「許容土砂量」を考慮したものではない。 六の1、2及び4について 川辺川ダムは、球磨川における洪水被害の軽減等のため必要な施設であり、建設省においては、特定多目的ダム法第四条第四項の規定に基づき、関係行政機関の長との協議、熊本県議会の議決を経た熊本県知事の意見の聴取等の手続を経た上で、川辺川ダムの建設に関する基本計画の変更の告示を平成十年六月九日に行ったところである。
六の3について 御指摘の「広報活動」が具体的に何を指すものか必ずしも明らかでないが、建設省においては、平成十一年九月から十二月にかけて配布した散らしの印刷等に要した費用は、約百八十万円である。
六の5について 川辺川ダム建設計画に周辺自治体が反対の姿勢をとった場合に御指摘のような「国のほかの補助事業に影響が出る」ことを定めた法令は存在しない。
六の6について 御指摘のとおり、環境影響評価の実施を禁止する法令は存在しない。 六の7について 川辺川工事事務所においては、学識経験者の意見も聴きながら、川辺川ダムの建設に伴い影響を受けるおそれがあると認められる範囲において環境に関する調査等を行っているところであり、その結果については、平成七年九月の「川辺川ダム事業における動植物に良好な環境の保全と創造」等として公表するとともに、関係者等への説明を行っているところである。 |