第145回国会(常会)
答弁書第三一号
内閣参質一四五第三一号 平成十一年九月十四日 内閣総理大臣臨時代理
国務大臣 野中 広務
参議院議員但馬久美君提出太陽紫外線と健康に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。 参議院議員但馬久美君提出太陽紫外線と健康に関する質問に対する答弁書 一について 大気は風等により絶え間なくかくはんされている。このため、一般に水に溶解しにくく、安定した物質であるオゾン層破壊物質は、どこで放出されたとしても、数年のうちに大気全体に広がる。そして、オゾン層破壊物質が成層圏で分解されて発生する塩素原子又は臭素原子が、オゾン分子を分解させる触媒としての作用を果たしてオゾン層を破壊する。南極域上空では、冬期において低温域が安定的に存在するため、塩素又は臭素が化学的に活性化された状態となるが、これらが春先において太陽紫外線により塩素原子又は臭素原子に分解される結果、大規模なオゾン層破壊が起こり、オゾンホールが出現するものと認識している。
二の1について 千九百九十八年(平成十年)に世界気象機関及び国連環境計画が発表した「オゾン層破壊の科学アセスメント」(以下「科学アセスメント」という。)によれば、オゾンホールとは、毎年南半球の春の約三か月(九月から十一月)の間、南極域上空でオゾン全量が急激に減少した状態になることをいい、オゾンホールの大きさは、オゾン全量が二百二十ミリアトムセンチメートル未満の領域として定義されている。
二の2について 気象庁においては、本年のオゾンホールの規模は、大規模に発達した過去七年間と同程度になると予測している。 二の3について 気象庁の観測及び解析では、本年八月までの南極域上空のオゾン量及びその破壊の経過は、過去数年とほぼ同様に推移している。 二の4について 科学アセスメントによれば、オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書(昭和六十三年条約第九号。以下「議定書」という。)並びにその改正及び調整が完全に履行されれば、南極域のオゾン全量は、今後数十年のうちに、オゾンホールが出現した以前の水準に向かって漸次回復に向かうと考えられている。 二の5について オゾン全量と太陽紫外線の照射量については、いくつかの南極の観測基地において同時測定が行われており、例えば、南緯六十四度のパルマー基地で測定されたオゾンホールが現れた期間におけるUV-B量は、北緯三十二度の米国カリフォルニア州サンディエゴで測定されたUV-B量の夏の最大値にほとんど近いか、時によってはこれを超えているとの報告がある。
二の6について オゾンホールは、下部成層圏における低温域が解消し、オゾンの少なくなった空気が周囲のオゾンの多い空気と混合されることによって、消滅すると考えられている。 三の1について 日本国内四か所におけるUV-B量の観測値は、平成三年の観測開始以来著しく大きな変化は見られないが、UV-B量の長期的な変化の傾向を把握するためには、なおデータの蓄積が必要な状況にあると考えている。 三の2について 御指摘のような調査は実施していない。 三の3について 気象庁においては、国内四か所及び南極昭和基地におけるUV-B量の観測を実施し、その結果を毎月の「オゾン層観測速報」、毎年三月の「オゾン層観測報告」等により定期的に公表している。
四の1の(1)について 開発途上国におけるクロロフルオロカーボン(以下「CFC」という。)等のオゾン層破壊物質の全廃時期について、議定書第五条8の二は、千九百九十年(平成二年)に採択された規制措置(先進国におけるCFC等の全廃時期を千九百九十九年(平成十一年)末とするもの)の実施を十年遅らせることができる旨規定している。これは、締約国間において、オゾン層の保護のような地球規模の環境問題に対処するためには、開発途上国を含むすべての国の協力が必要であり、開発途上国の特別な事情にも配慮しつつ、これら諸国も参加し得るような全世界的な規制の枠組みを作ることが重要であるとの考え方で一致した結果設けられた規定であると認識している。 四の1の(2)について 議定書におけるオゾン層破壊物質の規制措置については、議定書第六条の規定に従い、科学、環境、技術及び経済の分野の入手し得る情報に基づいて評価が行われている。我が国としては、この評価過程の中で他の締約国と協力しつつ、個々の規制措置の見直しの必要性を検討し、オゾン層保護のための適切な措置を一層推進してまいりたい。 四の2について 議定書の締約国は、議定書第七条3の規定に従い、毎年オゾン層破壊物質の自国における年間生産量等に関する統計資料を事務局(国連環境計画)に提出することとされており、同事務局は議定書第十二条の規定に従い、締約国から受領する情報に基づいて定期的に報告書を作成し、締約国に配布している。この報告書によれば、千九百九十六年(平成八年)における開発途上国におけるオゾン層破壊物質の生産量の算定値(議定書第三条に規定する算定値をいう。以下同じ。)は、先進国における算定値をやや上回る程度であり、また、その消費量の算定値は先進国の約三倍となっている。 四の3について 科学アセスメントによれば、放出されたオゾン層破壊物質が成層圏に到達し、混合されるには三年から六年かかるとされており、オゾン層の破壊はこれより前に始まっていると考えられる。 四の4について 科学アセスメントによれば、議定書並びにその改正及び調整が完全に履行されれば、日本上空を含め、全地球のオゾン層は、今後五十年かけて漸次回復すると予想されている。 四の5について 科学アセスメントによれば、成層圏は地球温暖化に伴う気候変化に対応して冷却する可能性が高くなるが、特に極域の下部成層圏では長期にわたり低温域が存在するようになるため、塩素等が活性化し、オゾン層の破壊を促進すると考えられている。 五の1について 断熱発泡剤として使用されるCFCについては、断熱材の使用用途が多様かつ広範囲であること、断熱材の使用時における大気中への漏えい量等不明な点があること並びに断熱材からのCFCの回収及び処理が技術的に困難であることから、御指摘の廃棄量の推計対象には含めていない。 五の2について CFCの回収及び破壊を進めるためには、カーエアコン、家庭用冷蔵庫等の廃棄の実態を踏まえた回収経路の設定、回収に必要な機器、設備等の整備及び費用分担システムの構築を関係者の協力を得て行うことが必要であるため、政府としては、産業界の自主計画による取組並びに地方自治体によるシステムの構築及び推進を促しつつ、このような取組の実施状況を点検することとしている。
五の3について 現在行われているCFC等の再利用は、CFC等が用いられている機器の修理、点検等に際して、簡易な浄化装置等を用いて再度利用すること又は専用設備を用い、蒸留、化学的処理等を経て新品のものと同等程度の品質にして再度利用することであると承知している。 五の4について 「フロン回収等システム構築モデル事業」は、CFC等の回収から破壊に至る過程について、効率的かつ信頼性のあるシステムを構築するために行っているものであり、都道府県及び政令指定都市における地域の関係事業者、市町村の担当者、消費者等で構成するフロン回収等推進協議会の設置、回収協力店制度の普及等に寄与している。
六の1について 紫外線に過剰にさらされることにより、皮膚等の細胞の遺伝子に異常が起きることがあり、皮膚がん等が誘発されることもあるとの研究結果があることは承知している。しかし、紫外線と皮膚がん等の発生との因果関係については未解明の部分も多く、御指摘のメカニズムに関する厚生省の見解をお示しすることは困難である。 六の2について 厚生省及び文部省においては、保育所で子どもが外に出るときは、日照、気温等に注意して、帽子や服装に配慮し、子どもの体調に合わせて無理をしないようにする等の指導を行うとともに、幼稚園及び小学校についても、同様の指導又は普及啓発を行っている。
六の3について 紫外線が健康に与える影響に関しては、厚生省において、紫外線が遺伝子にどのような障害を生じさせるか等に関する研究を推進するとともに、保健所等を通じて、過剰な紫外線の暴露による皮膚がんの発生を予防するための普及啓発活動を行っており、今後とも適切に対応するよう努めてまいりたい。 七について 環境影響アセスメントは、陸生生態系においては、植物や微生物を含む陸生生物はUV-B量の増加により損傷を被っているが、多くの場合これらの生物は防御や修復の機能も併せ持っていること、水生生態系においては、紫外線が植物プランクトンの成長、光合成、蛋白質及び色素の含有量並びに再生産に悪影響を及ぼし、その結果、食物連鎖に影響を与えていること等を指摘している。
八について 代替フロンのうち二酸化炭素と比べて温室効果が大きいハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)については、議定書に基づき、先進国においては千九百九十六年(平成八年)から段階的に消費量が規制され、一部の用途を除き二千二十年(平成三十二年)以降消費量の算定値が零を超えないものとされている。
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