第145回国会(常会)
答弁書第八号
内閣参質一四五第八号 平成十一年四月二十日 内閣総理大臣 小渕 恵三
参議院議員竹村泰子君提出徳島県吉野川第十堰改築計画等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。 参議院議員竹村泰子君提出徳島県吉野川第十堰改築計画等に関する質問に対する答弁書 一の1について 平成七年十一月に建設省四国地方建設局が作成した「第十堰改築事業に関する技術報告書」(以下「技術報告書」という。)に記載されている「計画高水位に対応する粗度係数」の根拠となる低水路の粗度係数は、主要実績洪水(技術報告書の五十八ページに記載されている吉野川において過去に生起した主要な四洪水をいう。以下同じ。)から求めた粗度係数をそのまま用いたものではなく、徳島県吉野川第十堰改築計画等に関する質問に対する答弁書(平成十年三月三十一日内閣参質一四二第二号。以下「第三回答弁書」という。)二の2についてで述べた方法により吉野川の複数の流下断面について高水敷の影響を除いた低水路の粗度係数を算出し、その結果を基に決定されたものである。 一の2について 御指摘の「調査」は、建設省四国地方建設局徳島工事事務所(以下「徳島工事事務所」という。)が、平成五年度に吉野川の複数の地点における植生を調査し、自然植生の状態にある吉野川の河口からの距離が十・六キロメートルの地点付近の左岸高水敷における植生の地表からの高さの平均的な値である約一・二メートルを、治水計画上同川の高水敷の植生の地表からの高さを代表する値としたものである。建設省においては、当該調査を踏まえ、同川の治水計画の作成に当たって、御指摘の「高水敷の草丈」の値として一・二メートルを採用することが適切であると判断したものである。 一の3について 建設省が主要実績洪水に関する水位の計算において複数の粗度係数を与えて算出した水位の値を、吉野川の河口からの距離が十四・二キロメートルから二十四キロメートルまでの区間の二百メートルごとの各地点について主要実績洪水ごとに示すと、別表第一から別表第四までのとおりである。
一の4について 昭和四十九年の吉野川の直轄河川改修計画書、昭和五十七年の吉野川水系工事実施基本計画及び平成元年の吉野川水系の直轄河川改修計画書を策定するに当たって用いた粗度係数の値は、別表第五から別表第七までのとおりである。これらの値の間の相違については、粗度係数を算定するに当たって用いた対象洪水等の相違によるものである。
二の1の(1)及び(2)について 第三回答弁書三の3について及び第四回答弁書三の1については、堰の形状が一義的に決定されるということを述べたものではなく、第十堰の上流側及び下流側の堰が共に吉野川の河口からの距離が十四・二キロメートルの地点において流下方向に対して直角に存在するとの条件を設定した上で、同地点における水位の値が、水理学上の基礎的な理論式により一義的に算出されることを述べたものである。 二の1の(3)について 建設省において御指摘の「建設省の算出した理論上のエネルギー水頭の最小値」の算出に当たっては、御指摘の「市民団体の計算上の第十堰の投影断面」として、吉野川シンポジウム実行委員会が平成九年五月に作成した「水位計算の結果について」に明記されている第十堰に関する計算上の条件等を用いたものである。 二の2について 建設省が、昭和五十七年三月に吉野川水系工事実施基本計画を作成した際に、計算上の流量の値と観測された流量の値とを図上に表し目視によって比較した結果、両者の適合性は良好であるとの判断を行ったものである。 二の3について 徳島工事事務所が平成九年十月に作成した「第十堰改築事業に関する質問へのお答え」の二十四ページに記載している水位の比較表において、「一次元不等流計算」の数値と「(右岸実験水位)」の数値との差及び「一次元不等流計算」の数値と「(左右岸平均水位)」の数値との差が、吉野川の河口からの距離が十六キロメートルの地点ではそれぞれ〇・〇二メートル及び〇・二〇メートルであること等から、建設省において御指摘の「判断」を行ったものである。 二の4及び5について 一様な河道に対して直角に設置された堰にあっては、堰が実際に存在する地点(以下「堰地点」という。)より下流のある地点に当該地点と堰地点との間の河床勾配を考慮した高さの仮想の堰を置いて計算した堰地点上流の水位は、実際の堰の条件により計算した結果得られる水位の値以下の値となると考えられる。このことに照らせば、一般的に、堰地点より下流に河床勾配を考慮した高さの仮想の堰を置いて計算を行うことは、必ずしも適切ではないと考えている。
三の1について 河川の整備が進んだ等の事情により洪水被害が軽減される場合もあることから、御指摘の「大きな被害をもたらすような洪水が長年生じていない」ことが必ずしも御指摘の「大きな変化」に相当することとはならないと考えている。
三の2について 別表第九に掲げる雨量観測所において記録された降雨量のデータを用いて、平成十年三月二十日に開催された第十一回吉野川第十堰建設事業審議委員会で配布した「計画降雨量と確率計算の試料期間について」において示した五種類の手法により確率計算を実施し、これらの手法のうち降雨群と最も適合度の高い手法により算出された吉野川岩津地点上流の流域平均二日雨量(年超過確率百五十分の一)の値として、四百三十三ミリメートルを得たものである。 三の3について 吉野川水系に係る河川整備基本方針については、その策定に向けて、現在、建設省四国地方建設局において基礎資料の収集及び整理、基本高水の検討等を行っているところである。 四の1及び2について 河川に洪水が生起している時点での垂直航空写真の実体視による河川の水位の測定は、垂直航空写真の撮影が降雨等の影響により一般的に困難であること等から必ずしも一般的に行われているものではないが、吉野川で昭和四十九年九月に生起した洪水(以下「昭和四十九年洪水」という。)については、撮影された垂直航空写真が存したことから、当該航空写真について「改訂新版建設省河川砂防技術基準(案)同解説調査編」(建設省河川局監修)の第二十一章第四節(空中写真測量)に記載された方法に準じて「刺針」、「空中三角測量」等を行い、流水が堤防に接している地点の標高を求めて、当該標高を昭和四十九年洪水時の河川の水位と考えたものである。 四の3について 吉野川水系工事実施基本計画において計画高水流量を定めるに当たって想定した洪水が吉野川を流下する状態を想定して徳島工事事務所が行った模型実験(以下「模型実験」という。)の目的については、徳島工事事務所が平成八年八月の公開の模型実験の際に配布した「第十堰の模型実験について」において、「実験の目的」として「複雑な水理現象を数値シミュレーションにより忠実に再現することは限界があることから、大縮尺の水理模型実験により、吉野川の計画で想定した洪水が第十堰付近を流下する際に生じる堰周辺の流れ、せき上げや洗掘などの複雑な洪水現象を把握するものです。」と記載されている。なお、徳島工事事務所は、平成八年六月に、模型実験の信頼性を検証するための予備的な実験を行っている。 四の4について 御指摘の「「水理模型実験」」の四十六ページには、「移動床実験では水位が合わないのはやむを得ないこととして主として、河床変動に注目することが多いが、水位についても、その最高値などに対する要請が強い。(中略)そのため、実用的には検証実験の重要性が認識される。」と記載されているところである。
四の5について 徳島工事事務所が平成八年六月に行った模型実験においてポイントゲージにより計測された模型の左岸及び右岸の最大の水位の読取り値並びに当該読取り値を吉野川の水位に換算した値を、同川の河口からの距離が十四キロメートルから十九キロメートルまでの区間の一キロメートルごとの各地点に相当する地点についてそれぞれ示すと、別表第十のとおりである。
五の1について 建設省においては、第十堰という特定の構造物の下流の河床の洗掘に関し、御指摘の「過去の文献に洗掘の記述が見あたらない原因」は承知していないが、流下方向に対して斜めに設置されている構造物付近における洪水時の流水及び土砂の挙動に関する特性については、平成元年三月に建設省土木研究所河川部河川研究室が作成した「土木研究所資料床止め工に関する調査報告書」等に記述されているところである。 五の2について 建設省においては、吉野川において昭和五十一年九月に生起した洪水によって生じた通常時の水面から約二十メートルの深さに及ぶ河床の洗掘については、流下方向に対して斜めに設置されている堰付近における洪水時の流水及び土砂の挙動に関する特性、当該洗掘が生じた箇所も含めた同川における河床の状況等から判断して、第十堰が流下方向に対して斜めに設置されていることがその大きな原因となっているものと考えている。 六について 「特定多目的ダム法の施行について」(昭和三十二年建河発第五百七十六号建設省河川局長通達)に基づく基本計画の原案(以下「基本計画の原案」という。)は、多目的ダム建設事業として採択を予定している事業について、その概要及び見通しを明らかにするために作成されるものであるが、吉野川第十堰建設事業の採択に当たっては、平成二年八月に建設省河川局開発課が作成した「吉野川第十堰建設事業計画書」により事業の概要及び見通しを明らかにしたところである。
七の1について 御指摘の「計算」は、第十堰の改築の在り方を検討する過程において様々な観点から試行的に行ったものの一つであり、第十堰による堰上げの影響を粗度係数に置き換えて計算することが可能であると想定した上で、吉野川の河口からの距離が十三・八キロメートルから十六キロメートルまでの区間の粗度係数を計算上増加させて一次元不等流計算を行ったものであるが、現在の水理学上の知見に照らせば、当該想定は第十堰の影響を評価するものとして適切でないと考えている。 七の2について 御指摘の「昭和五十一年度業務委託報告書」及び「昭和五十五年度業務委託概要書」は、吉野川第十堰建設事業審議委員会(以下「審議委員会」という。)には示されていない。第十堰の改築の在り方を検討する過程では、様々な観点から試行的な調査が行われているが、こうした試行的な調査の結果を審議委員会における審議の資料とすることは適切でないと考える。 |