質問主意書

第145回国会(常会)

質問主意書


質問第三一号

太陽紫外線と健康に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十一年八月十二日

但馬 久美   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   太陽紫外線と健康に関する質問主意書

一、オゾン層の破壊について

 今世紀後半における衝撃的な事実のひとつに、オゾン層の破壊がある。オゾン層は私達が生活する対流圏の上に位置している成層圏に存在し、地表から二十五キロメートル付近に最大濃度があるが、極めて希薄な層である。オゾン層は、古細菌などが高温の中でも光合成をして酸素を吐き出し、約三十億年かけてつくられてきた。このオゾン層は有害な太陽紫外線(UVB)を吸収してくれるために、われわれの祖先の生命体が、海から陸に上がっても焼き殺されないで生存が可能になったのである。
 ところが、一九八五年英国南極観測隊が、このオゾン層が特に春先になると、異常に減少している傾向が続いていると発表して、世界に大衝撃を与えた。その後人工衛星(ニンバス七号)による南半球全域のオゾン分布観測でも、オゾン量の減少が確認され、オゾンホールと呼ばれるようになった。
 このオゾン層の破壊の影響が、オーストラリアに特に顕著に表れ、三人に二人が皮膚ガンになるというショッキングなニュースが伝えられている。この南極のオゾンホールに引き続き、北半球でもオゾン層の減少傾向が確認されているが、本来北半球にこそオゾンホールが現れ、紫外線の照射を浴びる率が高いはずである。
 なぜなら、CFC(クロロフルオロカーボン。すなわち特定フロンのことである。)などのオゾン破壊物質の生産が格段に多いと思われるからである。にもかかわらず、北半球が南半球よりオゾン層の破壊が比較的少ないのはなぜなのか、政府の認識を示されたい。
 また、オゾンホールはどうして極地に現れるのか。将来、極地以外の所にもできる可能性はあるのか、政府の認識を示されたい。
 さらに、直射日光は緯度が低いところほど強いのになぜ緯度の高い地域ほど紫外線の照射量が多いのか、政府の認識を示されたい。

二、南極のオゾンホールについて

 南極域上空において、一九八〇年代以降、毎年九月から十一月頃、いわゆる南極の春から夏にかけて、オゾンホールが出現しているが、昨年(一九九八年)の南極域上空のオゾンホールは、過去最大であったと言われている。以下の項目について、政府の認識を示されたい。

1 オゾンホールというのは、オゾンのどういう状態を指すのか。
2 今年も後わずかで南極の春を迎えるが、果たして今年のオゾンホールはどの位の面積になると予想しているか。
3 また、南極の現時点のオゾン状況は、例年と比較してどういう状態なのか。
4 オゾンホールの出現の将来予測はされているのか。
5 オゾンホールの出現時における紫外線の照射量は一体どのくらいで、そのときの照射を直接浴びた場合、生物体は一体どういうことになるのか。また、その他の影響の全貌を明らかにされたい。
6 オゾンホールは修復されるようだが、そのメカニズムについて示されたい。

三、日本の上空におけるオゾン層と紫外線について

1 環境庁はオゾン層の現況と今後の見通しについて、オゾン全量の長期的傾向については、低緯度を除いた地域で減少傾向にあり、高緯度ほどその傾向が強く、我が国上空でも札幌で統計的に有為な減少が確認されているとしている。
 また、晴天時等同一条件下では、オゾン全量が減少すれば有害紫外線の地上照射量が増加する関係にあることは確認されているが、地上照射量の明らかな増加傾向は見られていないと断言している。それは従来通り、野外での作業や運動においては、紫外線の心配はないということを強調しているのか明らかにされたい。
2 一九九七年の気象庁のオゾン層観測報告によると、オゾン量が一%減少すると、有害紫外線の地上照射量が一・五%増加することが判明したとしている。
 この年は、北極域で過去最大のオゾン層破壊があり、NASAの衛星センサーTOMSの観測データでは、一九八〇年と一九九七年の北極域のオゾン全量を比較したとき、五〇〇ドブソンから二五〇ドブソンに半減していることが明らかになったとしている(ドブソンとは、地上から上空上端までのオゾンを圧縮して一気圧にしたときの厚さをいう。百分の一ミリメートルを単位としている。)。
 この時、日本でのオゾン量も、各地で平年より減少しているという結果が出ている。当然有害紫外線は、右記の割合が正しいのであればその割合に応じて増えていることと考える。
 それでは、この時の有害紫外線量の照射を浴びた場合、人身にどういう影響があったのか調査したのかどうか明確に示されたい。
3 有害紫外線が本当に降り注いでいるのかどうか、どれだけの量が降り注いでいるのか、それが私達にとってどう影響するのか、いわゆる顔や肌にシミやシワが増え、あるいは皮膚ガンにかかるのかどうかというような情報が全く流されていない。
 各地域で、逐一、気象情報と一緒に情報提供すべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。

四、途上国のオゾン層破壊物質の生産規制の強化について

1 一九七四年、カリフォルニア大学のローランド教授とモリナ博士が論文を発表して、フロンによってオゾン層が破壊され、地球上の生物に大きな影響を及ぼすと警告して以来、オゾン層保護のため、国連環境計画が中心になって、CFCなどオゾン層破壊物質の生産及び消費を規制する国際的な取決めがなされるようになり、ウイーン条約が一九八五年に、モントリオール議定書が一九八七年に採択され、さらに状況の悪化の進行に伴い、次第に規制が強化され、先進国では一九九五年末をもって主要なオゾン層破壊物質の生産は全廃となった。
 しかし、途上国ではその全廃は十年後(二〇〇九年)となっており、これではせっかくの先進国の規制が無駄になってしまうのでないかと危惧している。

(1) 二〇〇九年を全廃の年とした理由について、政府はどのように把握しているか示されたい。
(2) また、一九九二年に取り決められた、オゾン層破壊物質の生産規制等のスケジュールの見直しを提唱し、規制強化し、全廃する年限をもっと早く設定することを宣言すべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。

2 途上国のCFC等オゾン層破壊物質の生産・消費量の現況について、政府はどのように把握しているのか明らかにされたい。
3 また、オゾン層破壊物質は質量が空気より重いため、オゾン層破壊までの時間についての説はさまざまであるが、実際どれだけの時間がかかるのか示されたい。
4 オゾン層破壊物質が空中飛散して、オゾン層破壊までのプロセスの時間が長いと、破壊が急に来ないというプラス面がある反面、回復までの時間が長くかかるというマイナス面もある。
 過去に飛散した先進国のCFCなどの量と、今後生産・消費し空中飛散するであろう途上国のCFCなどの量が加算され、オゾン層の破壊がますます進行し、一九八〇年時点のオゾン量までの回復には、約五十年もかかり、またオゾンホールの面積が拡大するなど破壊のピーク時が約二十年も続くと言われているが、日本上空では、オゾン量の推移をどのように予想しているのか政府の認識を示されたい。
5 オゾン層の破壊原因は、破壊物質だけでなく、地球温暖化との相関関係にあるとも言われているが、オゾン層破壊の原因について現時点で考えられている説について、政府はどのように把握しているのか示されたい。

五、CFCの我が国の生産量と廃棄量について

 我が国のCFCの生産量は、一九八七年から八九年の三年間がピークで平均十四万トンであったが、その後急激に減少して、一九九五年の二万トン強を最後に生産が全廃されている。
 また、廃棄量は、一九九八年、一九九九年の年間廃棄量は、五千五百トンとピークを迎え、以降急速に廃棄量が減り、二〇〇七年で千トンを割って、二〇一五年でゼロと予想されている。

1 この廃棄量というのは、過去に生産され、家庭冷蔵庫やカーエアコン等の機器に充填された形で存在している、CFCなどの回収や破壊あるいは再利用された量を指すが、毎年約二万トン生産されていた断熱発砲剤は、廃棄量の対象になっていないようだがなぜか、政府の見解を示されたい。
2 また、ピーク時を例にすると、生産量十四万トンに対して、廃棄量五千五百トンはわずか四%に過ぎない。CFC等の回収・破壊にさらなる努力が傾注されるべきと思うが政府の見解を示されたい。
3 CFC等の再利用というのは、どういうことをいうのか示されたい。
4 CFC等の回収・破壊に関する環境庁から自治体への委託事業に、「フロン回収等システム構築モデル事業」と「フロン破壊モデル事業」があるが、どのような成果があがっているのか示されたい。

六、子供と紫外線について

1 神戸大学医学部市橋正光教授の研究によると、オーストラリアの白人のガン発生率は、十歳までにオーストラリアに在住していた人の方が、その後に住み着いた人より三倍高いということである。すなわち十歳までに強い日差しにあたったかどうかということが、大きく影響していると考えられる。
 さらに市橋教授によると、金沢での夏真昼の一時間のデータでは、人間の細胞一個には五万~十五万個の遺伝子(DNA)が納まっているが、皮膚の外側の細胞に紫外線B波があたると、細胞一つにつき百万個以上の傷ができるということである。
 また、特に子供のころ、どのくらい遺伝子に傷を付けたかが、将来のガン発病に大きく関わっているということである。
 このように、紫外線の照射による皮膚ガンや白内障の発生、また免疫機能抑制、さらに光老化などの有害化が伝えられているが、それらのメカニズムについて、厚生省の見解を示されたい。
2 オーストラリアでは、紫外線除けのために、様々のグッズが用意されているばかりでなく、紫外線教育も徹底していると言われている。紫外線の有害性対策として、たとえばプールサイドの日除けテントの設置や屋外運動場での運動時間制限など、あるいは通学時の帽子の着用、特に首筋の日除けなどにも配慮し、あるいは日差しの強い日にはサングラスの着用やサンスクリーン剤を使用するなど、徹底して紫外線の遮光に注意している様子が伝えられている。
 我が国においても、オーストラリアの例に見習って、特に十歳未満の子供が通う保育園・幼稚園・小学校において、しっかりした対応を行うべきでないかと思うが、厚生省、文部省の見解を示されたい。
3 厚生省はこの紫外線と健康については、見るべき対策がないと言われている。実際あまりにも対応が遅く無責任であると考える。
 また、知識普及を行う機関もない。当然これらの点についての予算も全くないようだが、果たしてそれでいいのか。
 適切に研究もし、対策も講じていくべきでないのか、厚生省の見解を示されたい。

七、生態系と紫外線について

 私達人間は、地球の生態系の一側面を形成しており、仮に生態系の一部が損傷した場合、その循環機能は麻痺し人類の生存は危機に直面する。
 その生態系の基底部と目されているプランクトンが、この紫外線により損傷を受けているとも言われているが、この紫外線の生態系に対する影響とその対応について、政府の見解を明らかにされたい。

八、フロン代替物質と地球温暖化の相乗作用について

 代替フロンとして登場した化合物の中には、二酸化炭素の数千倍の温室効果があり、しかも安定性が高く寿命が長いため、地球温暖化に与える影響が大きいとされているものもあるが、もしそれが事実であれば、今日のように温暖化により、世界各地の気象変動が起こり、災害が増えていることを考える時、更なる研究を重ね、地球に優しい代替物質の発見が期待されるところである。
 その点につき、政府は現在どのように対応しているのか明らかにされたい。

  右質問する。