質問主意書

第145回国会(常会)

質問主意書


質問第五号

臓器移植等に伴う感染症予防対策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十一年二月十二日

櫻井 充   


       参議院議長 斎藤 十朗 殿


   臓器移植等に伴う感染症予防対策に関する質問主意書

 昨年、臓器移植法が成立し、早一年余りが経過したが、国内において脳死認定による移植事例はまだないのが実情である。同法は制定当時、脳死認定を行うことの是非、また脳死の判定基準についての議論は多かったが、臓器移植に伴う問題点については論点を出し尽くしたとは言えない。
 今日、ヒト乾燥硬膜の移植に伴うクロイツフェルト・ヤコブ病(以下「CJD」という。)の感染が問題となっている。ヒト乾燥硬膜を医療用具(特定治療材料)として移植した結果、平成十年八月までに六〇例ものCJDの発症が見られたことは誠に残念である。
 このように、臓器移植にとどまらず、他者からの皮膚、骨、血液その他の人体組織の移植手術(以下「臓器移植等」という。)に伴い、既存の感染症だけでなく、今後、未知の感染症が発症する危険性がないとは言えない。
 こうした場合の予防策を万全なものとするためにも、ヒト乾燥硬膜からのCJD感染の教訓を十分に踏まえ、感染症等に関する情報収集とその活用、臓器等の提供者の特定等に万全の体制を敷くことが重要であると考える。臓器移植法第一〇条においては、臓器摘出者を特定しているが、あくまで国内の提供者にとどまり、なおかつ、同法第五条に定める「臓器」以外は法律の対象外であることから、外国から輸入された臓器等や国内においても皮膚、骨、血液その他の人体組織類の提供者を特定せず移植することが可能となっているのが現状である。
 そこで、ヒト乾燥硬膜からのCJD感染の教訓を十分に踏まえ、今後の臓器移植等に伴う感染症予防対策に万全を期する観点から以下質問する。

一 ヒト乾燥硬膜からのCJD感染に関しては、既に一九七四年には角膜移植によるCJD罹患事例が、ダフィーらによって、NEJM(ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン)に報告されている。
 その後、一九七六年にはCJD等の研究功績によって、ガイジュセクがノーベル賞を受賞し、そのガイジュセクは、一九七七年には同じくNEJMに、CJD感染因子が強力な不活性化法によっても不活性化せず、滅菌に対して極めて抵抗力の強いものであることを指摘した上で、「すべての患者の組織は、(CJD)感染の可能性があると考えねばならない。」とする警告を発している。
 また、今般問題となったヒト乾燥硬膜に用いられていた滅菌条件については、一九七八年には、ガイジュセクがプロナス(プロシーディング・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・オブ・ザ・USA)に、当該硬膜の滅菌法として用いられていたガンマ線照射では、CJD感染因子が不活性化しないことを明らかにした。
 その他にも、CJDが伝達性疾患であり、種々の滅菌法によっても不活性化しないこと等から、組織移植について種々の警告が発せられている。
 そして、一九八七年には、アメリカ疫病対策予防センター(CDC)の週報(MMWR)に、ヒト乾燥硬膜からのCJD感染が報告され、その後、アメリカ、カナダ等の各国において、ヒト乾燥硬膜の回収等の措置がとられた。
 以上のNEJM、プロナス、CDC週報等は、学会のみならず世界的にも著名な文献である。
 以上のような事実からすれば、一九八七年の症例報告を待つまでもなく、それ以前の相当に早い時期には、ヒト乾燥硬膜のCJD感染の危険性がわかっていてしかるべきであったと考えられるが、以上のNEJM、プロナス、CDC週報、その他、サイエンス、ランセット、ニューロジー等の著名な文献に掲載された情報について、一九七〇年代から現在に至るまで、政府としてどのような情報収集を行ってきたのか。また、その収集体制に問題点はなかったのか示されたい。

二 厚生省が組織した「遅発性ウィルス感染に関する研究班」においても、一九七七年度の報告書以降、CJDの伝達性や、「遠沈」「濾過」「加熱」「ホルマリン」「紫外線」「次亜塩素酸ナトリウム」「ヨード・過酸化水素」「一二一℃四時間のオートクレープ」「水酸化ナトリウム処理」等の種々の滅菌法に対する異常な抵抗性が報告されてきた。また、CJDは罹患材料との「深達性接触」によって伝達されることが疫学的に明らかにされてきた。そして、研究班は、こうした実験・研究を重ねるごとに、ヒト乾燥硬膜のCJD感染の危険性について指摘してきた。
 こうした厚生省自身による研究や、前述の著名な文献情報等の情報は、厚生省において、一九七〇年代から現在に至るまで、どのように活用される体制にあったのか。また、その体制に問題点はなかったのか政府の見解を示されたい。

三 厚生省の行った疫学調査の結果、ヒト乾燥硬膜を医療用具(特定治療材料)として輸入し、移植したことによるCJD発病の比率が通常の五〇〇倍になったことが報告されているが、このように人体の一部を医療用具として、臓器移植とは別の取扱いをしている例は他にあるのか。また、ある場合は、どのような取扱いで可能にしているのか示されたい。

四 日本国内において、臓器移植等を行う際の提供者の特定について、どのような基準を有しているのか示されたい。

五 海外において、四と同様の手術等を行う場合、臓器等の提供者をどの範囲まで特定しているのかその例を示されたい。

六 厚生省は、ヒト乾燥硬膜によるCJD発症の予防策として、ヒト乾燥硬膜の使用中止、回収命令の措置をようやく平成九年三月に至り、世界保健機構(WHO)の勧告に基づき行った。
 CJD以外にも、臓器移植等の普及に伴い、今後、ますます感染症の危険は増大すると懸念されるが、こうした臓器移植等に伴う感染症予防対策として、厚生省は、現在、どのような対策をとっており、また、今後、どのような予防対策を進めていく予定か政府の見解を示されたい。

  右質問する。